いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2012年11月6日火曜日

【かもかて小ネタ】君のもたらす薄明光線

【 注 意 】
・タナッセ友情エンドB後(印愛好愛高)のヴァイルとの友情もの
・国王ヴァイルとは仲良し、女性選択主人公城在住
・主人公一人称、一言二言喋る、名前は*****(字数上限合わせ)表記




君のもたらす薄明光線



「……で、こんなだよ、厚み。王配を貰う気さらさらないってずーっと言ってんのになあ、もう」
「うあー……」
 ヴァイルの両手が彼の元にやってくる婚姻の書状の分厚さを示すと、品も何もなく私の口からはそんな反応が漏れた。私の元へ来る書状の量も大概だけれど、やはり国王というべきか、来るものは倍できかないようだ。互いにげんなりの嘆息を漏らし合い、食後の茶で口を湿らせる。
「そういえばさ、俺、あんたはタナッセ追いかけてディットンに行くものだと思ってたんだけど。後半はずっと神殿関係の勉強に力入れてるようだったし、神官にでもなるんだろうってもっぱらの噂だったよ? 好きでしょタナッセのこと」
 吹いた。いや、吹くのを我慢して喉を鳴らせば当然の帰結として鼻に入り、ついでに半端な嚥下が行われたせいか気管にも少量流れ込み、つまりはむせた。まさか今タナッセの話題が振られるとは微塵も予想していなかったので、それはもう盛大にむせ返った。大丈夫。心配の声を上げるヴァイルへ、痛みを感じながらも片手で返事をする。
 落ち着いた頃、眉尻を下げ頭を掻いている六代国王に尋ねてみた。どういった理由があってそんなトンチキな考えに至ったのか、と。ヴァイルとタナッセは、ハタから見ている分には仲の悪い従兄弟同士で、実際近づいてみればむしろ深い愛情がありそうで、――長くなりそうなので結論を言うが、とにかく言い出しにくさがどうしようもなかったから私の愛情がどこに向いているかをヴァイルに口にした覚えはなかった。タナッセ本人には告白をしたこともあるけれど、彼が吹聴する筈もなく。
「タナッセじゃあるまいし俺はそんなに鈍感じゃないよー心外だー」
 友人の目からすればあけすけだったという話らしい。「で、どうして行かなかったんだよ」
 身を乗り出すヴァイルの顔には純粋な疑念が漂っていて、私もつるりと本音が出てしまう。
 タナッセは放っておいても苦労しながら大概乗り越えられるだろう、ヤニエ伯爵は彼をなんだかんだ受け入れた様子だから。だが、というか、だったらヴァイルの側にも頼れる人間がいるべきだと思ったのだ。胸を張って言えるが、適任は私くらいのものだろう、友人。
 要約するとそんな辺りの言い分を私は実際胸を張って宣言した。すると、分化して以降精神的にかなり安定した彼は、いかにも珍妙なものを見たと言いたげな面持ちでこちらを見やった。以前であればけったいな反応ののち、場を去っていそうなほどの表情だと思う。
「いやー……久々に言葉に詰まったよ俺。怒りたいか喜びたいか、ちょっと自分でも分からないや。少し前なら、へえそうやってふざけるんだって切り捨ててたかもしれないけど――本当にそうなんだよね、*****は」
 やけに感慨深げな肯きが二度三度あった。大人になったなあ、としみじみ私は思い、なんだか偉そうだとすぐに打ち消す。
 少しの間悪くはない沈黙が降りる。断ち切られたのはヴァイルの侍従がそろそろ公務に戻るよう寄ってきたからだ。ちょうどいい、私も自分の仕事に戻ろう。扉の前で私とヴァイルはお互い逆方向へ進んでいくが、大した言葉は掛け合わなかった。どうせすぐにまた会える。そういう日常なのだから。





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愛情・友情エンドにおける主人公は
基本エンド相手のエンジェル・ラダーみたいなもんですという妄言