【 注 意 】
・タナッセ友情B後、古神殿に行くことにした主人公
・印愛・好愛高い設定
・主人公が一言二言喋ります
ファレノプシス ・ アフロディテ
§
雲なく晴れ渡る空を一人の農民が歩いていた。
彼は美味な魚が捕れるという水場にぼんやりした面持ちで向かっている最中だったのだが、不意に口を尖らせると小走りに曲がるべき小径を過ぎる。
「こんなとこで鹿車とは珍しいなァ。どこから何しに来たんですよ」
声を掛けたのは鹿車の御者らしき若く美しい女性だ。どこまでも広がる自然の中、大きめの鹿車が一つ、道の端に寄って休んでいた。御者台には彼女ともう一人護衛役らしき男性が座って水を飲んで、周囲には二、三人の男女も佇んでいたのだが、御者が最も気さくに見えたから彼は第一声の相手に選んだ。しかし、護衛役や周囲の人間の視線が一挙に農民の彼に集まった。好奇心での尋ねを彼は後悔する。
だが、簡易な中性服の上にローブをまとった女性はそんな緊張ある空気を一向に気にかけない様子で微笑んだ。雰囲気通りの気軽な声音には馴染み深さと少しの品が同時に感じられ、もしかするとこの鹿車はそこそこに身分ある御仁が乗っているのかもしれないと、彼は少し尻込みした。
「一週間はかかる場所から、ここから更に先、ディットンを目的地にして。……長旅だからどうにもみんな気が立っていて。代表して僕が謝ります」
気安い口調に安堵を覚えて彼は丁寧口調も崩し、
「いやあ俺こそ悪かったわ、すまんね」
「いやあこっちこそ。……それで、まあ僕らが何しにディットンに行くかと言うとだけど、うん、」
釣られたのか彼女も更に口調を崩してそこまで言った。けれど、途中で区切って浮かべた笑みの種類は艶やかで、添えられた指先は真白く――彼の胸に初めて、自分が会話に選んだ女性は集団の中で極めて身分の高い、御者などではない存在じゃないかという予感が浮かんだ。彼女はフードに隠れた頭髪に指を差し入れる。そして、口調を変えて――あるいはこちらこそ本当の彼女の口調なのだろう――夢見るように告げた。
私は押しかけ女房をする気なんだ、と。
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胡蝶蘭の花言葉は良いものです。
押しかけ女房からの愛情エンドはいずれ長文書きたいですが
その際にはデフォルトネーム解禁+喋らせないと、
私の実力的に難易度がマッハ。