【 注 意 】
・城への道中、主人公一人称、理容師ローニカ
・主人公及び母の外見の関する言及があります
蝶に贈る葬送の花
御髪を整えましょう。
ローニカと名乗った彼は私に提案した。
予定より早くその日の宿に着いたためだろう、確かに私の髪は素晴らしく荒れて枝毛だらけな四方八方に散った代物であり、身綺麗な彼と並ぶにはあまりに無様すぎて異論など挟みようもない。本当に登城するのであればなおさらだった。けれど更に問われて言葉に詰まる。
「長さはどのようにしましょう」
髪を伸ばす理由は無くなった。もう私は整髪さえ面倒を感じるような生き方はしないだろうと、そう思った。忙しさの質が変わるだろうと。だから綺麗さっぱり短くして自身へ環境の変化を言い聞かせて――僕から私へ一人称を変えたように――覚悟と定めても問題なんてあるはずないと、しかし考えられない。
よぎるのは母の姿である。
彼女もまた、髪を伸ばしていた。ただし長さは腰に掛かるほどだったし、まとめ方もきつくうなじで結わえた私と異なって、肩近くでゆるく一つまとめにした柔らかいものだ。
黙る私に穏やかな声の促しがかかる。
余分を切るだけに。
咄嗟に答えたが我ながら珍奇な言い回しになったと思う。だから改めて言い直した。枝毛部分だけを切って、長さはあまり変えないようにして欲しいのだと告げる。
「それがいいでしょう。城には良い香油などもございますからね」
手入れさえすれば美しく整うだろうとローニカは続け、後ろ髪から切り始めた。美しさを求めた判断ではないが、わざわざ訂正する意味もない。私は音楽的ですらある刃物の微かな音にぼんやり聴き入った。
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タイトルの蝶に関して。
主人公と四代国王の外見が
ちょい似だったら面白そうですね(血縁という話ではなく)。