いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年11月6日水曜日

【かもかてSS】胡蝶の童は花の中

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・タナッセ視点三人称、夢のような現実



胡蝶の童は花の中





 目を奪われた。
 アネキウスのあたたかな眼差しの中、彼女の小さな花壇を抱きしめるように、それは舞っていた。
 歌いながら、踊っている。
 小さく細く、なのに花より鮮やかな姿。
 内面がそのまま見目になったような、綺麗な彼女。
 そう、あれは人間だ。こうしてみとれている彼の、タナッセの、大切な大切な――――
「あ……!」
 顔が上がり、妻が気付く。笑顔の種類が変じた。蕩ける安堵からはしゃぐ明るさになり、彼女は小走りに駆けてくる。
 ちょうど良かった、贈り物の種が花咲いたのだ、あなたのくれたあの難しい種が。嬉しくて見せたくて、そうしていたらタナッセ、来てくれた。
 勢い込んでくる小柄に思わず緩く曲げた両腕を伸べると、彼女は手指で前腕部の衣服をきゅっと握ってくる。紅潮した頬が、ありがとう、本当に素敵な花だ、と見上げてくる。
「そそそうか、あぁ、良いことだ、良かったな」
 酷く苦労して取り寄せた花の種だった。生育が難しく、育てる農家も少なく、生活の糧を差し出す愚か者など存在せず、結局ある貴族のお抱え庭師がひっそり育てていたものを譲って貰う形で彼女に届けたものだ。その貴族も庭師も甚だしく人が良かった――折り込み済みで申し入れはしたのだが――のが救いだろうか。
 ん、と大きく肯き彼女は彼の隣に移り、腕を絡め言う。
 一緒に見たい。見てくれるだろうか。
「見て……見た、見……見て、やらんでもない。どっ、どれだ」
 上擦る声音にもにこにこしながら本当に素敵なのだと上機嫌。タナッセの頬にも熱が上ってきてたまらない。
 背後のモルは付いてこず、こぢんまりした中庭に面する回廊側で二人に背を向け佇む。この庭は、彼女のためだけの安全な庭だ。原則として使用人達は立ち入りを禁じられ、踏み入れるのはタナッセは無論のこと、あとは庭師や農作業慣れした妻の侍従や護衛が二、三人、といったところだった。
 花壇の脇に気配なく立つ妻の侍従らは、彼らがやってくると無言で一礼してやはりその場をあとにする。
 このいかにも繊細そうな花がそう、みんなにも手伝って貰っていたから咲かせられたのだ、と去っていく様を目で追いつつ、一層身を寄せてきた彼女に、苦労が吹き飛ぶ思いだ。
 そう、彼にとっての素敵は、他でもない正の感情を得て笑う彼女なのだ。
 確かに言うとおり、幾重にも重なる花弁の上等な絹のつややかや、白に縁取られた鴇色を初めとした様々な色合いの花々は眼福であったが、それらに心弾ませる姿の方が、より胸を打つ。
 ともあれ、ねぎらいも込めてタナッセは頭を縦に動かした。
「あぁ、どれも素晴らしいものだ。……よく、頑張ったな」
 言うと妻がはにかむ。タナッセに褒められると、他の誰に言われるよりここがあたたかくなる、と左の胸を両手で押さえた。途端、彼の胸も早鐘を打ち始めてしまう。愛らしい、の一語で脳内が埋め尽くされかけてしまう。最近の彼女はだからいけない。仕草がどんどん女性らしくなってきているのだ。あの、何事に付けても簡潔簡素な言動だったこどもはどこに行ったのやら。
 と、そこでタナッセはようやく妻の纏う衣服がドレスである点に目が行った。花の世話をする際は、汚れても構わないよう華やかな服装は避けていたのに。問うと、楽器の授業が終わったと同時に庭師が、正確には伝え聞いた侍従が知らせてくれたのだという。
 成程、と彼は二重の意味を込めて肯いた。
 一つは単純にドレスである理由への納得。
 もう一つは、先に己が妻の舞に目を奪われた理由に対し、だ。こんなひらひらした服装であんな表情が踊っていたら、彼女には到底言えやしないが、時間も忘れるというものではないか。
 まるで、城の連中がもう一人の報せの折噂していた天の御使い、であるとか。
 いや、花々に戯れふわふわ舞い踊る姿なら――――
 殊の外甘やかな場所に思考が至り、とうとうタナッセは感情の内圧に耐えきれなくなった。名を呼び、空いている腕で妻の細身を抱き寄せる。突然の引き寄せに怒りも抵抗もせず、彼女は腕の中に落ち着きただ小首を傾げ言う。
 脈絡がないけど、どうしたのか。
「う、うるさい。少し……少し、黙っていろ!」
 指摘された内容など彼自身自覚している。何気ない質問と答え。そこに、彼女の肢体を捉える甘やかな雰囲気などなく、まして一方的に為すなどもっと有り得ない。だが、けれど、大人しく身を委ねてくる頼りない小柄をさっさと離すことも彼には叶わない。抱きしめる腕に、力が籠もる。なのに彼女は静かにされるがままで、
「ななな何か喋れ!」
 すると半眼が上目で見やってきた。黙っていろと言ったのはあなたなのに。
「少しの間と言ったろうが!」
 妻は頬を膨らませ唇は尖らせ半眼を鋭くしたが、瞬き一つで相好を崩して、わがまま、と彼に囁く。
 花、飾ってもいいだろうか。香りの強い品種ではないし、昼食の席にでも。
 反射で口を開きかけたタナッセに被せる形で提案し、彼女はじっと様子を窺ってきたので、やはり半ば以上反射で肯いていた。が、彼女の育てた花が邸のどこかしらを彩るのは今に始まった話ではなく、そもそも求められた通り別の話題を振ってくれただけなのだから撤回や反論の意味はない。
 あぁもう本当に――――
 優しい彼女に幾度目かの思考停止を行う。先刻から頭が直裁に過ぎる単語で満ちみちて、全く気恥ずかしいったらなかった。この空間がまずいのだ、緑が周囲に生い茂り、使用人達の視線から逃れやすく、しかもおあつらえ向きに可憐な花々が咲いている。
 既に強く抱きすくめているのに、また腕に力が籠もった。
 ん、と苦しげな吐息を零れさせているくせに、華奢な身体は身じろぎもしない。ただ、陶然と、そして幼げな調子で言う。
「タナッセ……タナッセ。本当に、」
 続く言葉は身をぴたりと重ね合わせている彼にしか届かないもので。
 答える彼の密やかさは、全て彼女にだけ捧げられた。










*+++*+++*+++*+++*+++*
わらべ。
最近、朱鷺はいないだろうけどいいかーとかゆるゆるしています。

ずっと謎なんですが露骨な表現のある恋愛小説ってどれくらい露骨なんでしょうね。
案外詩的表現や綺麗な語句で流す系なのか
直截な単語が用いられる系なのか
he語in語満載系なのか。
最後はないか、ないな。……ちぇっ。
あ、私は全部好きです。

ところで「かもかて」という作品的王道はヴァイル系エンドでしょうが、
各キャラそれぞれ何かしら王道で、つまりみんな凄い意味のある必須キャラにしてルートですよね。
今度のエンディング投票で愛情友情ルートを中心に再プレイしているとつくづく思います。
タナッセ愛情はいわゆる王子様とお姫様エンドですし。
ちょっと波瀾万丈なゴールまでの道程もロマンチックで。