いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年11月8日金曜日

【かもかて小ネタ】Azzurro Intermezzo

【 注 意 】
・タナッセ愛情ルート、タナッセ視点三人称
・日常会話集とでもいうようなまとまりない話群
 ヴァイルとユリリエが少々、二人(タナ主)の子供も一瞬登場





 私も連れて行って。
 こどもがとことこ歩いてきた。中庭の散策で息抜きをしようとしていたタナッセを見かけるなりこどもはあっと声を上げて笑み崩れる。
 散歩だろう、邪魔でなければ一緒したい。
 邪魔などある訳がなく、そう言われては断るなど心が痛んで選べもせず。タナッセは自然火照る頬に一層の羞恥を覚えながら、ぎこちなく肯いた。





 こんこんと説いて聞かせている最中だった。
 体力が落ち籠りの苦痛を経た婚約者が無用の苦労をせずに済むよう、タナッセは色々と手も根も回していたが、肝心の彼女が妙に張り切ってよく体調を崩すためだ。言い分としては、詰め込むだけ詰め込んだだけだしもっときちんと身に着けたい、去年はひとまず用がないとされた教養なども習いたい、あなたに迷惑を掛けたくない、である。一理はある。が、彼女が青い顔をしている方が、彼にとっては余程心労となり結果迷惑だ。
 故に無理無茶をやめるよう諭しつけていたものの、見上げてくる表情は空行く雲に似てふわふわしている。
 父さん……いや、兄さんがいたらこんな感じだろうか。
 話の流れを断ち切って小さな唇が呟く。タナッセはむっとしたが、以前はともあれ最近の彼女が相手の話に発言を被せることは珍しいとも思い、ひとまず「そうか」と肯き返した。
 兄さん。タナッセ兄さん。……兄様、か。
 そう独りごち、彼女は急に顔を輝かせた。真昼の太陽を反射する湖面の明るさで身を乗り出して言う。
 ごめんなさい、話遮ってしまった。お説教の続きをお願い、ううん、お願いします。
 タナッセは数瞬沈黙したが、咳払いして途切れた言葉の途中を手繰る。そうして婚約者は最後の一言まで、にこにこ顔を延々見せつけてくれたのだった。





 国王となった寵愛者と、継承権を放棄した寵愛者の対話。
 中庭に面した回廊の角を曲がりすぐ目に入ったのは従弟と婚約者で、二人の顔色は対照的である。ヴァイルの方は、笑顔。彼女の方は、困惑。
 二人は親友と言うほどでもなかったがつかず離れずの親しさであったし、ヴァイルがわざと友人を落ち込ませて喜ぶような性質ではないとよく知るタナッセからすれば状況が一切読めない。近付きながらどうしたと声を掛けると、困惑からしょげ顔に表情を変じさせる。
「タナッセ、虫苦手なんだぜーって教えたんだよ。な?」
 代わりに答えたヴァイルの言に彼女は首を縦に振る。それで何故泣きそうな半目になるのか分からずタナッセは首を傾げたが、答えたのはまたもヴァイル。曰く、してみたいことがあったが立場を思えば我儘な願いであるし、虫も絡むからこうなっている、とのことだった。
 どうしてお前が彼女の代弁をするのだ。口を開き掛けると同時、従弟は意味ありげにタナッセを見やってくる。俗っぽい仕草を注意すること、彼女への対応を天秤に掛け、まずは前者を選ぶ。しかしヴァイルは軽く手を振り、
「……いやほんとこれでいいの、あんた。あーはいうん、分かったわかった。っていうか俺、けじめはちゃんと付けてるもん」
 じゃあ俺時間だから、と遠巻きにしていた使用人らと共に一目散に逃げていった。タナッセは嘆息しながら婚約者へ視線を移す。
「それで、なんだ。む、しの関係する、お前のしたいこととは。立場を弁えるのは無論必要だが、過剰に己を押さえつける必要はない」
 加えて彼女は結婚にまつわる大概について、意見は言っても我儘を振りかざしたことはなく――正直、タナッセは少しもどかしく感じていた。領主の妻として、継承権はなくとも寵愛者として、すべきはあろうが他は自由でいさせてやりたかった。生活の全てが、何もかもが一変したなど、そうそう受け入れられるはずもない。
 作物、とは言わないが。花を、育てたい。
 伺う黒目に、なんだ、と呆れてしまう。
「その程度のどうら、いや、趣味を持つ輩なんぞ普通にいるぞ。口うるさい莫迦どももいるだろうが無視して構わんそんなもの。無能な上に禄でもない趣味というなら御免被るがな」
 彼女は、ありがとう、と安堵の乗った微笑みを向けてきた。大した話でもないのにと、つられてタナッセの頬も甘く緩んでしまう。





「負けだな」
 最後の一手を打ち、黒くて白くて赤い女性に目を向ける。眼前に座るタナッセの婚約者は、唇をきゅっと引き結び、どうしてまた負けてしまうのか、と半目になった。
「……天地盤は戦略戦術と相手の策の読み合いが慣用だ。つまり、分かるだろう」
 ぷっくり頬が膨らみ、まるで分からない、と顎を引いた上目だ。
「策に、相手の一手いってに。一々反応したら勝てる戦も勝てないだろうよ……」





 ある意味で最悪な人物と、彼の、タナッセの婚約者が存外親しくしているのは、全くどうしたらいいのだろうか。
 頭を悩ませようと、彼が件の人物ユリリエ・ヨアマキス=サナンに勝てた試しなど一度足りとてありはせず、結局ぎこちなく婚約者に忠告するしかないのだ。しかし過去の所行をいくら連ねようと、彼女から色よい返事は来ない。
 タナッセを疑うではないが、今のところそんな気配はないし、籠り前まではあった駆け引きめいた会話もなく……むしろ、驚くほどよくしてもらっている。
 そう柔らかくはね除けられてしまう。
 あからさまに“もう一人”に対し粉を掛けていたあの従兄の突然の転身は、庶民めいた一人称を用い身体能力も恵まれていた子供が突如として女を選択した上、言動全てを実際そのように変じてみせたかつてを連想させてならない。
 なんなのかあの従兄は。
「――――と、そんな風情が隠さずあまさず見えているわよ、お莫迦さん」
「なっ、なんの話だユリリエ!」
 艶然とした笑みが前の席に座っている。昼食の途中、当たり前のようにその座につき、当たり前のように食事を取り始め、当たり前のように食後の茶を楽しみながらタナッセをからかってくるのだ。
「何かしてくれるに違いないと期待していたら、まさかタナッセ、貴方を、なんて。色々と気になってお話を伺ってみたいと思った、それだけよ。安心なさいな」
「あんし、安心出来るか。そうやって根掘り葉掘り聞く時点で……!」
 何話しているのだろう。
 そこにひょっこり愛らしい婚約者が顔を出してきて。
 結局、またも彼女らの仲について言及するのは失敗したのだった。





 あたたかな陽射しの中、愛おしいものが二人、寝転んでいる。
 一人は大人にしては小柄で華奢な女性で、もう一人は先日三歳になったばかりの小さくもぷにぷにした頬や手足の子供だ。
 中庭、草の上に敷かれたラグに横たわる二人は寄り添い合い、タナッセの心はその様を見詰めるごとに満たされていく。ラグに腰を落ち着けると、長引いた折衝などすっかり頭の隅に追いやられる。
 花の香り、緑の香り、彼女らの香り。
 包まれて、彼は自然と頬を綻ばせた。










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小ネタというか小ネタ集(形にはなった)。