【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・タナッセ視点三人称、反省点が多くて困るがそれもこれも
Adenium
タナッセは時折、思い出しては嘆息する。
思い出す過去の事象の当事者は二人だ。タナッセと、彼の妻。タナッセが彼であった彼女に対して口さがない発言をするという、非常に一方的な代物である。
今日の後悔は彼女との出会いまで遡っていた。城に来たばかりの、それも貴族ですらない田舎の子供に向かって投げた言葉のむごさを思い、今では彼女の夫となった彼は後悔と憤りの息を吐き出す。
彼女は、たとえば父が海へ去った日の、あるいはばあやを亡くした日の従弟よりは歳を重ねていた。だが、やはり子供で。なのにタナッセの中にあるのは突如現れた新たな印持ちへの黒い感情だけで。結果、母を失ったばかりの、しかも知人一人いない場所に、今までとまるで異なる環境に連れて来られたこどもに、自身の鬱屈だけをぶつけてしまった。
我が事ながら、厭味を雨のように降らせた上で拳の一つも入れてやりたい。タナッセは思い、もう一度嘆息した。
どうしたの、と。
妻の声がした。彼の膝上に頭を乗せ、長椅子に横たわっていた彼女は不明瞭な調子で問うてくる。
昼寝中だったはずの人物に声掛けされ、タナッセは反射で返していた。
「なななんで起きている!」
文句同然の言い様に、彼はすぐさま発言を悔やんだが、今さっき、ともごもご明後日な返事があったことを踏まえると問題はなかったらしい。ややあって、彼女は閉じていた瞳をタナッセに向けてきた。甘えた声音が小首を傾げる。
タナッセ、教えて? ため息をつくような厭なことは何?
躊躇いはあったが、良い機会と考えることも可能だと、彼は促されるまま理由を紡いだ。彼女という個など知ったことではないと、選定印への憤懣を投げつけるための――剣術の練習に使う木偶人形同然の扱いをしたことへの後悔を。
「お前には本当に嫌な思いをさせていたのだなと、改めて……反省、していた。命を奪いかけたことにせよ、償えることでもないと分かってはいるが、これから――も?」
タナッセは謝罪を中断した。何故か笑顔を浮かべた彼女が、
「……ん」
短い音を発しながら両腕を広げ、彼に伸べてきたからだ。
理解を飛び越えた言動を行う彼女にタナッセは固まったが、彼女は伸ばした腕を更に差し出してきた。もしや、と恐る恐る彼女身体を抱く彼の背に、細い感触が回される。そして、囁きがあった。
私も同じ。タナッセにたくさん酷い態度を取った。あなたが何故私の到着をわざわざ待って、ああいう言葉を言ったのか考えもしなかった――知ったことかと、考えることから逃げていた。お互い様。だから、
「だから、おんなじ」
だからいいのだと、彼女は喉を鳴らすように笑った。
しでかした規模が大きく違うだろうに、と言いかけ、タナッセはやめる。
「莫迦なこと言ってないで眠れ。眠ってしまえ」
代わりに自身の身を剥がし、言って彼女の身体を横にした。彼女は眉尻を下げてタナッセを見上げてきたが、不思議そうに小首を傾げたあと、すぐさま頬を朱に染め上げると首を何度も縦に振る。おやすみ、とどもりながら、きつく目を閉じた。
タナッセは自分がどんな顔をしているのか確認したい衝動に駆られたが、生憎と手近なところに鏡石はない。さりとて寝入ろうとしている膝上の甘い重みに問うのは憚られる。
そして結局。彼女にあんな愛らしい態度を取らせた、おそらく死ぬほど間抜けであろう表情は謎のままになった。唇に立てた人差し指を当て真剣な面持ちで、あんな素敵な顔は私だけの秘密、と起きたあとも彼女は答えやしなかったからだ。
全く、とタナッセは嘆息した。
すると、私が眠っている間に何かあったのか、と即座に彼女が問うてくる。
全く、全く、全く。
かつての過ちがいかに頑なであろうと、彼の妻は今日も今日とて彼に真っ直ぐな愛情を向けてきて、どうしようもなく愛らしい。そうであるからこそ彼女を愛してしまったし、故に過去の自分を悔やんでならないのだ。
なら一生ものかもしれないな、と口の中でだけぼやき、タナッセは心配そうに見上げてくる最愛の妻の身体を抱き寄せた。
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縁だけ色づいた花。
砂漠の薔薇。
鉱石デザート・ローズ。
タナッセの照れデレを見ていると
画面向こうの私まで照れてしまうのはなんなんですか!
「神業~」からの愛情系イベントは、
何度プレイしても何度回想しても直視できません……!