いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2015年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年6月24日月曜日

【かもかてSS】ひなたの香りのあの子のために

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後、モブ一人称主人公出番皆無
・直接見定める





ひなたの香りのあの子のために



 あ、終わった。
 先に面接を受けていた人が出てきて、わたしは自分の番が来たことを悟る。同じ側の手足が一緒に前へ出そうな感覚と、平衡感覚の危うさを堪えながら、立ち上がって重い扉を開いた。
 待ち構えていたのは、新しい領主様――になるだろう男性。この方のについては色んな話を知ってる。
 わたしがまだ子供だった折、城に出入りしてたことのあるという商人が、物取りの被害にあったとかでしばらく街に滞在していたことがあった。その間、話をせがんだ。いつか、勤めてみたいと思ってたから。
 本当の下っ端だったらしいけど、祖父が城で使用人として働いていたため生きていた頃たくさん話をしてくれた。暗いとこは心底どんよりして、明るいとこは掛け値なしにきらきらした場所に憧れてしまったんだ。
 汗と泥まみれの仕事、神経を使う細かい縫い物、優しい家族や隣人たち、どれも嫌いじゃないけど、大好きだけど、一度はこの目で見てみたいし感じてみたい。
 だから、足掛け予定。言葉悪いけど、繕ってもしょうがない。新領主様の奥様に仕えて、頑張って、認めてもらって、口を聞いてもらって、城へ行く、その第一歩。
 第一歩なのに、なのか、第一歩だから、なのか。ひとっ欠片も分かんないけど、わたしは緊張してた。あと、しょうがないけどこの方の奥様とか、仕えるに当たって、なんも期待出来そうにないなぁって思ってた。
 包み隠さずはっきり言うけど。新領主様こと元王子殿下のタナッセ・ランテ=ヨアマキスにまつわる話に、きらきらしたもの、全くなかった。どんよりが凄いって訳でもなかった。ただ曖昧だった。夕方みたいな、半端な感じ。
 緊張と既に抱えている失望と共に、わたしは目も向けられず促され、椅子に座る。立たされたままかと思ったので、ちょっと評価が上がった。
 で、この――なんと呼ぶべきか。元王子? 無難にタナッセ様としておこうか、は、噂通りの仏頂面を向けてきた。そのままで幾つか質問される。事前に記入させられた項目を改めて尋ねられただけだったから、特に詰まることなんてない。タナッセ様は時折机の上の紙をめくる。
 しかし変な人だ。直接自分の奥さんの側付きを見定めるなんて。わたしがよく知ってないだけで結構ある話かもしれないし、潔癖だの口うるさいのと耳にしてたから、そういうのも関係してるのかも。
 タナッセ様はカップで口を潤すと、一度咳払いした。書かされた内容に関してはもう全部答え直したはずだし、終わりかな。
 思ったけど、
「……ここからが本題なのだが」
 いかにも言いづらそうに、未来領主様は口籠った。今までの淀みなさが嘘のようで、目が丸くなる自身を止められない。それに、表情が動いてそっちにも驚いた。さっきまでの不機嫌そうな様子なんて微塵もない、恥ずかしそうな顔。少しだけ眉間にしわが寄って、なのに口元がやにわに緩んだ。
 どういうこと。
 二つの意味で思うわたしに、次々面白い問いが投げかけられる。思わず最初、へ?と阿呆みたいな声を上げてしまった質問群には、なんだろう、およそ貴人とは――寵愛者様とは思えないような人物像が浮かび上がってきた。

 露払い? あぁ、寄ってきちゃう感じの方なんですね。腕っ節はさすがにですけど神経図太いんで追い払えます。貴族様は――あぁそっちはだいじょぶですか、はい。
 農民の装飾文様で刺繍? 一応頭に入ってます、縫うのは下手ですけど。体力派です。
 童謡? 歌えますよ、近所の子の面倒見たりしますから今でもちゃんと。
 沐浴は自分でする? 使用人がきら――裸見られるの、恥ずかしいから、って。いえいいですけど。
 土いじり? いけますいけます、虫とか大丈夫。
 成人しても未分化っぽい服を着るのはどうか? 土いじりの時にがっちがちの女性物じゃ逆に大変でしょう。男性物って手や女性物をそれっぽくってのもあるかもしれませんけど、まあ結局汚れても大丈夫な服ならなんだっていいんじゃないですか。
 子供っぽい? さっきも言いましたけど近所の子達面倒見る機会多くってですねわたし、やっぱ篭り明けしばらくはみんなそんなんですって。

 段々反射的な応答になってきてるのが、自分でもよぉっく分かった。でも滑りだした口は止まってくれない。こりゃ駄目だ。口の軽い側仕えとか、ないわー。……ないなぁ。
 同じ考えのやつはたんまりいた臭くて、二日に分けての面接だった。当たり前だけど大半は城での侍従がついてくるらしいから、受かる目がない。まだ面接が終わってもないってのに、わたしは落ち込んだ。
 落ち込み俯きそうになるわたしに、タナッセ様から声が掛かった。
「言葉遣いに難があるな。そこは……外向きのものを今後覚えてもらうが、あれ相手の時は今のままでも一向に構わん」
 内容が心まで浸透しない。なんですと、と喉まで出かけたわたしに、タナッセ様は真摯な表情を見せて告げた。
「――彼女によく仕えてやってくれ」
 周囲に毒を撒き散らす捻くれた王子、っていうのは大嘘だったんだろうか。
 それとも、新しい領主がわざわざ自分の目で確かめたいと労力を払うような、風変わりな子供っぽい貴人が毒を中和したんだろうか。
 わたしには分からない。この目で見てないし、触れ合ってもない。ただ、さっきまで険のある雰囲気丸出しだった人間が一気に色づくような相手なんだから、きっと悪い人じゃないんだって思う。
 だから、こっちも神妙な心地で頭を下げた。





 その数ヶ月後。
 綺麗な顔に可愛い表情を持つ、子供っぽいというよりあどけない性格の寵愛者様に、わたしは出会う。
 あんな表情の変遷を見てしまったせいで揺らいでた、足掛かり、なんて考えは、それこそ綺麗さっぱり吹き飛ぶことになった。










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主人公に一番近しい侍従や護衛はタナッセが選べばいいんじゃないかと常々思っている。
ちなみにタナッセ選ぶ→主人公が最終選考もアリかと思ってますというか当初はそのはずだったアレ?

書き上がってみたら予定より少し分量多め。
最初Twitterでリアルタイム投稿しようとか思ったけどしなくて良かったです。