いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年6月17日月曜日

【かもかて小ネタ】マロウブルー

【 注 意 】
・タナッセ「結果と後悔」後
・タナッセ視点三人称、後の祭り1と後の祭り2の開始





マロウブルー



 早足で回廊を行く姿が二つある。
 一つは王息タナッセで、もう一つは彼の護衛のモルだ。常に無表情無口な巨躯の護衛はともかく、肩で風を切るタナッセは後悔を顔に滲ませていた。
 つい先程のことだ。タナッセは彼が神の国へ送りかけた寵愛者から逃げて、半ば走る勢いで城の中を進んで行った。寵愛者たるこどもは普段より白を増した頬で、こちらは半ばどころかほとんど走る勢いで追いかけ、彼を中庭まで追い詰めた。
 身長が違う。歩幅が違う。何より――こどもは病み上がりだ。それも、死の淵から生還したばかりである。
 だからそれは当然であるはずなのに、タナッセは頭を殴りつけられる錯覚をした。衝撃だった。肩で息する彼よりも更に苦しそうな様子で息つくこどもの姿が。
 概ね舞踏会で評判を勝ち取っていったもう一人の寵愛者は、一度だけ御前試合に出場したことがある。彼のその時の、軽やかな、息一つ乱さぬ立ち回りといったらなかった。衛士たちはヴァイルの一件があり、一層の手加減を余儀なくされたろうが、こどもがまるでお話にならない技量でないのは見ていれば分かる。第一、こどもは優勝したのだ。
 胸の奥で凝る何かを確かにあの時タナッセは感じたというのに、今は血の気が下がる程慚愧の念に捕らわれていた。
 無論、魔術師の口車に乗ったことへの忸怩たる思いは強い。だが何より、こどもの体調を考えられず、ただ自身の感情ためだけに逃げ出したことへの腹立たしさが大きかった。
 そうして今も、痛々しい様だったこどもを残してどこともしれない場所へ逃げ続けている。
 いい加減無様に過ぎるとタナッセは立ち止まった。はっと短く自嘲の息を吐き捨て、現在地を確認する。咄嗟の行動故、どこをどう走っていたかまるで不明だ。
 はたと彼は気づく。目的のない逃走は、けれど、今彼の頭を占めている一人のこどもの部屋へいざなっていた。瞬時に頬へ熱が上る。思考が疑問符で埋め尽くされる。タナッセは慌てて場を離れ、部屋に戻るぞ、と背後の護衛にではなく自分自身へ声を掛けた。
 内心幾度も毒づく。あれのせいだ、と。あのこどものせいだ、と。しかし責任転嫁する彼と別の彼が鼻で嗤うから、向き合わざるをえない。
 次は、と。
 次はせめて、と自室へ足を進めながら思う。
 タナッセを必死に追ってくる小柄に無理をさせないように。
 そして出来ることならば、確かめたかった。散々棘まみれの言葉で自分を傷つけた相手を告発せず、真剣で懸命な瞳で彼を恋うているとまで口にしたこどもの真意と、それらを妄言と手酷く切り捨てられずにいる己の不可解さを。










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なんというか、
レッツゴー青春地下湖が君を待っている!
です。
タイトルは色の変化が楽しめるお茶。