【 注 意 】
・タナッセ友情A後、主人公印愛35以上でタナッセは好愛キャップまで
・友情A版籠り明け、タナッセ視点三人称
最後の一年と定めた年の、最後の日。
それから早ひと月と五日が経過した。
タナッセ・ランテ=ヨアマキスの朝は変わらぬ調度品と漂う気配、つまりは城の自室から始まっている。
まさか名指しで居て欲しいと誰かに言われるとは――それも寵愛者に――予想外だったが、引き留められ、安堵半分困惑半分で新しい朝を迎えるのにもだいぶ慣れてきた。
晴れやかな空気を覚え、意識が先に目を覚ます。目が開くと同時に身体が起きたのはそのためであろうが、
「っ!」
短く声が上がったのは、全く理由が知れなかった。
タナッセの声ではない。彼のものより遙かに細く高い、おそらくは女性のと思しき悲鳴だ。そしておそらく侍従らでもない。あれらがこのような不可思議な、どこから出しているか謎な声を出していれば、うるさく感じるはずだからだ。
と、そこまで考えてようやく彼は声の方を見やる。
寝台の脇に、女の形があった。
腰近くまである黒髪と、陽を知らない白肌が好対照で、差し色のごとき真紅の女性物の衣装は数多のフリルやレース、リボンに彩られた可憐なもの。
「……誰だ?」
誰何が躊躇いがちになったのは、物語から飛び出してきた乙女じみた風情の人物の、顔の造作や雰囲気があまりにとあるこどもに似ていたためである。いや、とうに理性は件のこどもであると肯いているのだ。ただ、感情の方が空白で言葉が漏れてしまった。
果たして、回答は彼の考えた通り。
タナッセを引き留めたこどもの名前がおずおずと返ってくる。
「あぁ……やはりそう、なのか。そうか……って何故貴様がここにいるんだ! 曲がりなりにも女を選んだのだぞ、友人とはいえ弁えねばならぬものが、ところが……」
半眼がじっとり彼に向けられた。朝なのに、というぼやきに、朝だからだ、と即答仕掛けるも女性である彼女はその辺りの感覚は子供時分のままだったか、とさすがに口をつぐむ。代わりに、
「そっ、そそ、そもそも私の許可なく部屋に入れるなぞ……そうだ、どういうことだ。お前もお前だ、こんな早朝に訪問とは品がない。名実共に成人したのは喜ばしいが、ならばもっと自覚した行動を心がけろ。とにかく一旦部屋に帰れ。出直してこい」
まくしたてた。語調が鋭く、しまいには吐き捨てる調子になったが、これぐらいいい薬だとタナッセは不満顔を真正面から見据える。
すると友人の眉は今度は下がり、頬には仄かに色が付き。
ごめんなさい、と呟いた。
真っ先に大人になった姿をタナッセに見て貰いたくて。ちょっと驚かせようと思っただけで。ここの居心地が悪いと知った上で居て欲しいと願ったのは私だから、早く感謝を伝えたくて。……本当に残ってくれていたのが、本当に嬉しかったのだ。視野が狭くなっていた、舞い上がっていた。起き抜けなんて厭な時間に来てしまってごめんなさい。
言うなり彼女は部屋の扉まで小走りして、失礼しました、と一礼。
踵を返し扉に手を掛けた彼女は、一度振り返る。
かなり無理強いをして入れて貰っただけだから、誰のことも叱らないでやって欲しい。
もう一度頭を下げ、居なくなってしまった。
風か幻だったと錯覚する程、あとに広がるのはいつも通りの朝。
彼女の寂しげな表情は、けれど確かにタナッセの胸に残る。
誤ったことは一つも言っていない。そのはずだ。
なのに全く、朝から酷い気分になった。
理不尽に苛々していると、毎日変わらない、変わるはずもない朝の挨拶と共に侍従らが入ってくる。聞こえよがしに嘆息してやれば一瞬身を縮めたが、
「構わん。今回に限り、だが。それより、朝食は隣で摂る。今から言うものを二人分ずつ、応接室に運ばせろ。連れてこい、お前達が素通しした……」
タナッセは友人の名を告げるのに、何故か喉に圧を感じ一瞬声を詰まらせる。普段は対等に張り合ってくる彼女は、彼が距離を取る言動をするとすぐに落ち込んでみせ――そういえば出会ってすぐの頃に悪意をぶつけたら泣いてしまったこともあった。不意にそれらが思い出されたからだ。
頭を振り、今し方追い出してしまった友人の名を紡ぐ。
彼女の名前は本人が再びやってくるまでの間、甘くあまくタナッセの舌に留まった。
あ か あ お リ ナ リ ア
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別名はヒメキンギョソウでどっちの名前も可愛い。
友情Aで好愛25タナッセと印愛35オーバー主人公は
割とすぐにくっつきそうな気がしています、主人公にその気バリバリならば。
友情Bだと一波乱ありそうです。