いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2014年2月26日水曜日

【かもかて小ネタ】まっしろとらぶる

【 注 意 】
・現代パラレル
・タナッセといっしょ/冬 タイトルでお察しの通りラッキースケベネタ、割とどうしようもない


まっしろとらぶる



 風が冷たい。
 足下が悪い。
 降った雪は一部氷と化し、一部土混じりのシャーベットと化し、気を張っていても尻餅をつきそうになる。
 歩きづらさに嘆息すれば、見る間に息の白は解けていき、全く、雪も同じ容易さでなくなればいいとタナッセは坂の手前で天を仰いだ。
 いや、仰ごうとして、出来ない。現在地と空の中程。真っ直ぐな、けれど毛先に妙な内巻きの癖が付いた長い黒髪を揺らして歩く小柄がある。おっかなびっくりの歩き姿は見覚えがある。大切なその彼女には、恋人には、いつでも来て構わないと部屋の鍵を渡してあった。
 不快を一時忘れてタナッセは声を上げる。その少女の名を呼ぶ。
 ――悲鳴じみた短い声が返答だった。
 肩を跳ねさせた彼女は、長年油を差していない機械製品の動きで顔だけを後方に、彼に向けて、
「……見た!?」
 挨拶を飛ばし真っ赤な頬で問うてきた。
「何を唐突に……見られたら不味いことでもしていたのか? こんな往来で?」
 見られたら不味いけれど自主的にじゃない、と大慌てで彼女は首を振る。動作が大げさで、短いスカートが危険域まで何度か翻った。
 彼女は最近妙に太股辺りを晒す丈のものを好んでおり、しかもそれでタナッセのベッドで横になるので非常に反応に困るのだが、注意が聞き入れられた試しはない。彼も性懲りなく叱責に口を開いた。理性が負ける日も近いと自覚があるので。
 だが、彼の声が響くより先に風が吹きすさんだ。
 自然の法則として、軽いものは巻き上げられる。
 コートやスカートの裾も、巻き上げられる。
 太股の付け根まで、巻き上げられる。
 その奥の二つのまろやかな膨らみが彼の視線の先、昼の陽射しに白く輝いた。
 有り体に言うと。
 ショーツ履いていなかった。
「はははははははおま、おま、おま、おま――――っ!」
 痴女、という単語が脳裏に浮かぶ。売る、という単語も同時に思いつき、タナッセは叫んだ。次いで、
「見た――――っ!!」
 負けず劣らずの声量で少女が叫んだものだから、さすがに何軒かの窓が開く。犯罪ではないと見て取るとすぐに閉ざされたが。
 タナッセは恋人の腕を取って急ぎ坂を登る。それまでの不便などものともせず早足に駆け上がり、勢いのままマンション最上階の自宅へ彼女を押し込んだ。途中、近くにコンビニがあれば私だって、と彼女がぼやいたおかげで多少冷静さは戻ってきたが、何はともあれ、
「何故、……肌着、を、履いていない。いないんだ、お前は」
 転んだ。濡れた。汚れた。スカートは短いおかげかあんまり。だから。
 広くはないが狭くもない玄関。タナッセに腕を引っ掴まれたままの姿勢で、少女は足をすりあわせる動きをしながらそんな意味の言葉を言う。頬は赤薔薇、上目は薄く涙を湛えており、前のめり故強調される上半身と下半身の作る影の部分に目が行ったが、タナッセは壁に目を向けやり過ごした。過ごそうとしたが、壁は白。見えた小振りな尻の乳白色を連想したので結局彼女に向き直るしかない。
 得心は、まあ一応いった。濡れそぼって土汚れまで付いた肌着を脱いで、けれども新しいものを買おうにも周辺に店らしい店もなく、仕方なかったのだろう。
「いや待て」
 どこで脱いだのか。
 新品を調達出来なかった、店がないから。
 なら駅や駅前ではないはずだ。
 詰問口調で頭一つ分以上小さな少女に詰め寄ると、人気もなかったから路地に引っ込んで、と返ってくる。
 貧血を起こすかと思った。同時に脳内が沸騰する。
 強烈で真逆な二つの感情に、とうとうタナッセは黙り込む。
 言葉を失っていると、恋人は訥々と喋り始めた。
 夏休みも、今も、タナッセはお試し期間だと一人暮らしをしていて。私も忙しいから、こうして会いに来れることは少なくて。だから、ぱ……ショーツぐらいでと思って。私だって恥ずかしくない訳じゃなくて。
 そこで彼女は言葉を切る。空いている片手で彼の服を掴む。
 一分でも、一秒でも長く、あなたと一緒の時間を過ごしたかったのだ。どうしても。……ごめんなさい。
 タナッセは言い募りに頭を抱えた。
 漢数字の八どころかアラビア数字の1になりそうな眉の下がりよう。小一時間程正座の一つもさせて説教をしたい気分なのだが、実行したならおそらく年下の恋人は共に居られる時間のほとんどをしょげた顔で過ごすことになるだろう。
 いけない。この少女の哀しげな面持ちを見続けるのは彼にとって一種の地獄だ。
 タナッセはそもそも彼女のために来年から一人暮らしを経験しようと計画を立てているのであって、それはもう彼女の笑顔を見たいからであって、責任も取りたいのであって――とにかく最低限の注意でこの場を終えるべきだと思考を切り替えた。
「あぁもう分かった分かった。分かったから謝るな。次からは……そうだな、天気の悪い日は車を出させればいいだろう。どうせ浮かれて雨でも転ぶに決まっているからな、お前は」
 マンション近くの坂は存外滑りやすく、年齢不相応に大人びているくせに彼女は案外抜けている。
 小さな頭は、はい、としおらしく肯く。
「帰りもそうすればいい。元々、お前が電車なんぞ使う必要ないだろうに」
 今度は多少反応が鈍い。だがややあって、今日は車で帰る、と前半部分にだけ肯いた。そして、これで許してくれるのか、と小首を傾げおずおず問うてきたので、潮時だと三度目の肯定はタナッセがする。
 良かった。
 言って恋人の表情から生硬さが見る間に失せていく。
 今日はたくさん話したいことがあったから。先週借りた本も読み終わったし、ヴァイルにくっついて古いお屋敷を見てきたし、あと……。
 苦笑しながら指折り数える彼女に上がるよう促すと、場所を思い出したらしく靴を脱ぎだしたが、軽く身をかがめればスカートの短さのせいで白の肌身がまた覗き。
「みっ、みえ、見えて! ……お前はっ!!」
 タナッセは本日二度目の叫びを上げる羽目になった。










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タナッセにはラッキースケベが似合うと思います。
が、基本着込んでいる設定の当方主人公でやるのは難しいので
現代で。
次で一周ー。

まだ前記事の末尾分割してないやら
そもそも【まとめ2】にまとめてないやらで申し訳ありません。