いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年2月19日火曜日

【かもかて小ネタ】blue bird

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・飼うか止めるか地にある野生




blue bird



 どうしようかと考え初めて、もうどれくらい経ったろう。
 痛痒い感覚と共に汗を背中にかきながら、私はしゃがみこんで鳴く小鳥を見ていた。羽をばたつかせているけれど飛べずにいる。……前々から中庭の木に鳥が巣を作っているのは知っていたものの、見上げてみても声は聞こえず姿も見えず、つまりこの子は独り立ちに失敗したのだ。
 よくある話だった。生まれた子供全てが大人になれるものじゃない。人間でもそうで、家畜でも同じ。なら野生の生き物はなおのこと、なのだ。なのだけれど。
 膝が痛い。曲げられた膝に乗せた手が爪まで白く、お気に入りのドレスにはおかしな皺がよってしまっている。眼球の乾きは、瞬きを碌々していないせいだろう。
 私たちは性別を選んで大人に成る。
 鳥は空を舞い自分で餌を調達する。
 それが出来なかったというのは、理由などどうだってよく、感情すらも関係はなく、ただ淘汰されたに過ぎない。十四年自然と共に暮らしてきた田舎者にはよく分かっている。なのに私は固まったまま考えている。一つだけが頭の中を巡っていた。
 ……どうしよう。
 具体性は皆無。というか、長々悩んでいる暇があったら手を差し伸べるか、あるいはとどめを刺すか、動いた方がいい。特に、後者を選ぶのなら。いたずらに苦痛を長引かせるだけだ。
 空には柔らかい雲がいくつも浮いていて、アネキウスは心地よい暖かみを満遍なく地に照らしているのが煩わしかった。一応、躊躇いの背景を私は覚えている。私が村であまりいい扱いを受けていなかったための起きてしまっただけで、だからあれを持ち出して迷う意味などないということも、だ。
 でも、と続けてしまいたくなる心を、なら、と更に続けたくなる心と共に立ち上がることで切り捨てた瞬間、
「……どうした、何かあったのか?」
 気遣いを含んだ優しい問いかけがやってきた。この屋敷で私に敬語を使わない存在など一人しかいない。夫で領主のタナッセだ。そして、唯一私が色んな意味で勝てない人でもある。
 振り返ると、私の重たげな印象を与えるそれとは真逆の涼しげな瞳が心配そうに細められていて、単語が零れてしまう。鳥が、という一言と、思わず向けてしまった地面への視線だけで意味するものは割れてしまった。
 なんというか。夫婦になった経緯のせいか、タナッセには上手く隠し事が出来ない。今のような、彼に害ない小さな内緒も失敗しがちだ。
 彼は地面に片膝を付くと、取り立てて美しくない色味の小鳥をしげしげみやる。
「羽の部分の骨が折れてしまっているな、これは。だが、鳥文屋のところにでも連れて行けば、愛玩用にお前が飼うくらいには治るだろうよ」
 あぁやっぱり折れてるのか、と悩みながらずっと遠巻きにしていた私はぼんやり思ったが、後半の言葉に勢いよく首を振った。もちろん、横に。ほとんど反射だったから我ながら驚く。タナッセも力のこもった否定に怪訝の色を顔に刷いた。
 咄嗟に言い訳が出かける。私自身信じられそうにない内容だったので、もっともらしい一般論と共に喉の奥で潰したが。
 代わりに、言う。
 手当は出来る。する。したい。……飼いたい。飼っても、いいだろうか。
 当たり前だと即答される。土豚を飼いたいとでも言い出したらさすがにやめさせるが、と付け加えられた。鳥の一羽程度、確かに貴族にはなんてことないだろう。でも、すぐさま肯かれたことで安堵が全身に満ちる。
 私は息を漏らしながら、タナッセの隣に改めて腰を下ろした。羽ばたくためにもがく小鳥を助けようと両手を広げて、あ、と間の抜けた音が口をついて出る。手が、震えている。
「……私が代わりに」
 タナッセがこちらの肩を抱いて提案してくるけれど、大丈夫と肯く。掬うように茶の小鳥をてのひらにおさめると、意外にも大人しくいてくれて、また安堵に息をつく。
 部屋までの道すがら、寄り添ってくれる彼に昔の話でもしようかと思う。でも、別にいいかなと心地よい体温とてのひらのぬくもりを感じながら口を閉じた。
 今度は殺されることは絶対にない。何も出来ないまま遊ばれる様を見なければならないことは、有り得ない。なのに引き合いに出したら私がタナッセを信頼してないかのように響くだろうから、私は私の極端な否定の背景を無理矢理聞き出そうとしないタナッセの気遣いに、甘える。てのひらの中、小鳥が鈴を転がす声音で鳴いた。










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結果的に「のいばら いばら」とは表裏一体の感じに。