いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2014年10月28日火曜日

【かもかてSS】空色染まる水芙蓉

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後、成人向け
・タナッセ視点三人称、自分は見えない



空色染まる水芙蓉



 惚れた欲目とそしられようと、可愛いものは可愛い。
 問題は、欲目を除いても十二分に愛らしいことだ。
 華奢だが柔らかな肢体を持つ妻は、朝の陽射しの中、あどけない寝顔を彼に向けている。村育ちで擦れた子供と思っていたのに、実際品のない引っ掛けにも顔色一つ変えずやり返していたのに、こうしてタナッセに見せる顔には汚れた世間を欠片も耳に入れたことないごとき純粋培養の無垢さがあった。
 ただ、とも思う。
 様々な汚さを知った上でいっそ幼児のような真っ直ぐさがあるのは、強いとも思うが危うさをも感じてしまう。タナッセは吐息して僅かに開いた彼女の唇に親指の腹を這わせる。
 たとえば、彼女はタナッセの話題が出るとどうにも弱いのだ。彼が褒められれば頬を染めてはにかむ。貶されると、口をへの字にする。彼をダシにして下品な話が振られると、首や胸元まで朱色にして言葉を空回せてしまう。
 最後の一件などは、白の肌が染まることや身を羞恥に捩らせる姿……そういったものを狙った言動であることも多く、つまりは大体が男からであり、要するところ辱めではなくそれこそ己が口にした言葉通りの下品さで彼女を見ている証左である。
 やはり、欲目で可愛らしく感じそしられている方が良いのかもしれない。
 朝から一人むかむか不愉快になって、タナッセは腕の中で眠る身体を一層強く抱きしめた。幼い寝顔には、どうも己の汚い内心がつつかれてならない。

          *

 同日の昼過ぎのことだ。
 次の瞬間には泣き崩れてしまいそうな表情で執務室に駆け込んでくる女性があったのは。
 黒の長い髪に映える紅のリボンとドレスを纏ったその人は、無論タナッセ最愛の妻であり、今のように傷ついた様など見たくもない女性だった。
 彼女は扉を後ろ手に閉めると座り込んでしまう。俯き何も喋らない彼女の元に膝を着き何があったと尋ねても、何度も小さく首を振るだけだ。肌が不健康な白を帯びるほど強くつよく握られた拳が、床に花咲かせるドレスに深く複雑な皺を幾筋も寄せている。
 少し、迷う。
 タナッセは初め躊躇いがちに腕を上げ――すぐに逡巡を捨てて半ば無理矢理小柄を抱き寄せた。予想した抵抗はない。普段通り、細い身体は大人しく身を委ねてくる。ただ、微かに震えていた。
 小鳥の囀りが響く穏やかさに不釣り合いな質の沈黙がしばらく続く。タナッセは促すことをやめ、黙って頼りない背をゆっくり撫でる。
 震えが収まった頃を見計らい、彼は改めて問うてみた。
「……何をされた?」
 確信として、問うていた。部屋に駆け込んでくる直前に会っていた人物が原因だろうと確信があったからこそ、その先についてだけを訊いた。そう、誰の所行かは分かっている。急ぎだと滑り込んできた案件の処理を迫られ、来客の一人を彼女に任せたのだ。品のない男だった。感情面だけで言えば二人きりで会わせるのは反対で、しかし日頃の立ち回りを鑑みれば任せるべきだと理性は彼女に頼んだ。
 あの、と。
 囁きに似た声が返る。
 そんなに凄いことをされた訳じゃない。今までも似たような話はされたことがあった、城に居た頃からだ。
「いいから言ってみろ。お前の凄いことじゃない、は一切当てにならん」
 村での仕打ちも、辛かったが振り返ってみればもっと上手く対応出来なかったかと思う、と述懐することさえある人間の大したものでない、だ。強いのみではなく、己の苦痛を軽んじがちな節もあるのだろうと見えた。
「ん……」
 控えめな肯きが肩で感じられる。
 そうしてまた、あの、と彼女は言い、けれど今度は続けて理由が紡がれた。
 頭から爪先までじろじろと見られた。特に、胸とか……太もも、の辺りだとか。それで言われたのだ、と。
 ――――本当に花のように美しくていらっしゃいますな。妻もこれ程であれば、私もそれはそれは毎日が捗るというものですが……。タナッセ様もお若いですからな、比でないぐらいでしょうなあ。いや、綺麗であるというのは最早それだけで罪ですとも!
 言外に含まれた浅ましい意図。絡みついてくる粘ついた視線。子供の時分は呆れたりしても気持ち悪さはなく、成人してもしばらくは気持ち悪さを感じるだけだったという。
 ――――えぇ、おかしな輩も多くおりますから、何卒お気をつけ下さい。……寵愛者様。
「でも、今日は」
 今日は、何故か我慢が出来なかった、ああもあからさまにいやらしい視線が向けられてこわかった、タナッセに隣に居て欲しかった、と掠れた声が続けた。
 タナッセは内心舌打ちして思う。
 品のない男。大きな声、大仰な身振り手振り、自身の容姿そっちのけで見目麗しい女が好きな、淫らがましい噂の絶えない男。感情面だけで言えば二人きりで会わせるのは反対で。ならば適当に理由を拵えて追い返すか彼の書類仕事が終わるまでいくらでも待たせてしまえば良かったのだ。
 無茶だと理性は言うが、それでも悔やんでしまう。
 考えるタナッセの耳に、ごめんなさい、と場違いな謝罪が届く。
「何を……いや、どういう意味で言っている」
 理解が及ばず眉をひそめる彼に、急にこう思うなんておかしい、原因は分からないけど過剰反応というのだけは自覚している、だからごめんなさい、と身を縮める動きが起きた。
「待て。待て、私は決して過剰だなどと思っていない。おかしいとも。むしろ……」
 むしろ、子供時代のように流せないのは当然のことだと思った。身体の、見た目の大きな変化に心が着いていくのは遅れがちだ。
 タナッセは既に彼女の身体を幾度も開いている。容易に腰砕けてしまう身体の癖にどうにも幼さの抜けない妻は、少々自分自身に対して理解の甘い部分がある。彼が居ない分常以上に露骨な、衣服を透かして見る視線と言葉を受け、ようやく心の中で何かが噛み合ったと、そういう話なのだろう。似たような、と一括りするには些か様相が異なりすぎているが、重ねられなくもない経験は彼にもあった。
 だが、伝えられる自信はまるでない。恥じ入るばかりの記憶に過ぎた。代わりに止まっていた背を撫でる動きを再開して、
「とにかく、だ。問題はまるでない。謝る意味も、ない」
 返事はなかった。あったのは三度目の、あの、という呼びかけだ。
「どうした?」
 先を促せば、本当なのだろうか、と疑問された。
 あの男は、こっち、胸よりも、下の方に目線が行きがちで。改めて気になってしまったのだ、と。
 不穏な気配を覚えたが、声音自体は切実で。故にタナッセは遮れないまま彼女の謎を最後まで聞いてしまった。
 いつもいつも、タナッセは花のようだと言ってくれるけれど、気になって一度見てみたけれど、全然そんなことはなかった。あなたは本当は“捗って”ないんじゃないか。今慰めてくれたように、気を遣ってくれているだけなんじゃないか。
「……っ!」
 何故そう至ったと、がなって怒って済めば、彼にとっては幸福だったろう。しかし、理論形成の筋道は不明があれど、言い募りはひたすらに真剣そのもの。莫迦らしい憂慮は彼女の中において真面目な事案としか受け取れなかった。
 お願い、と言葉はまだ重ねられる。
 綺麗じゃないけれど、“捗って”ないのかもしれないけれど、私を嫌いになったりしないで。
「なるか! なるものか!」
 声の下からタナッセは否定の語を口にしていた。今朝、惚れた欲目で彼にだけ可愛い存在と見られる方が余程いい、などと愚かな思考をよぎらせたばかりだ。
 そもそも困ったことに事実として彼女は綺麗だった。悩む意味はないのだ。けぶるような伏し気味の睫毛も、潤むように輝く黒の瞳も、ふっくらして色づく頬や唇も、籠りと分化の大きな成長で白を増した肌も……とにかく何もかもが熟練の職人が採算度外視で手掛けた人間の大きさの人形といった具合で――彼女が気にする男性を受け容れる場所も、やはり美しいのだから。花のよう、との形容に世辞や気遣いが差し挟まる余地はない。
 両の肩を掴んで上向かせれば、真っ赤な顔と淡く涙を刷いた大きな瞳が極限まで眉尻を下げてタナッセの名を呼ぶ。
 今にも泣き出しそうな、天を仰いで泣いてしまいそうな風情だと。
 タナッセには、そう見えた。
 不意に、僅かに開いた唇を塞ぎ、彼女の言を借りるならどれほど彼が“捗って”いるか示してやりたいと脳裏をよぎる。痛々しい彼女を見て何故、と苦々しい。けれど、
「……もし、」
 ふっくらした彼女の唇がぽつりと音を零した。
 もし、本当にタナッセには私が綺麗だと、“捗”ると感じられるなら、私にそれを教えて欲しい。どこを、とか、どう、とかを。
 意味するところは明白に過ぎて。
 だからタナッセは息を呑むしかなかった。散々口を空回りさせ、ようよう告げたのは状況に似つかわしくない台詞だ。
「だ、駄目だ。無理だ。い、いそ、急ぎの仕事が残っ、」
 中途半端な言葉の途切れは、彼女の小さなちいさな一つの音のためだ。
 あ、目を見開いた彼女は数呼吸の間ののち、自分のことしか考えてなくてごめんなさいと俯き半眼になった。己に対して腹立ちを覚えたような表情に、けれど涙の気配が感じられてタナッセは肯き返せない。返せないが書類も放り出せはしない。
 なら、と天啓のように思考が降りてきた。
 許可も取らず彼は小さな軽い身体を抱き上げる。忙しくまばたきを繰り返す妻を抱えたまま、椅子に座り直した。
「え? ……タナッセ?」
「――――少し、待っていろ。すぐに終わらせる。すぐに、だ」
 彼は返事を待つことなく急ぎの仕事に目を通し始める。安心させるためには言葉を重ねるべきと承知していたものの、羞恥が上回ってどうにも音になりはしない。ただいつも通り、妻の側が何かしらを察してくれた様子で彼の首に腕を回し無言で縋り付いてきてくれた。彼と彼女の関係は、ほとんどを彼女側の心の広さで救われているとしか言いようがないと、タナッセは密かに自嘲する。
 身を寄せてきた華奢な肢体のあたたかさに時折理性を廃棄したいとすら思いながら、結果的には予想よりも随分早く仕事にケリをつけ、頼りない身体を抱え直し。
「お前はその、自分を過大評価しているのか過小評価しているのか、一体どっちなんだかさっぱり分からん。しかも私がお前に……どう、とか、嫌いになるとか……」
 だがとにかく、と続ける。
「今から、教えてやる。は……はか、いやとにかくだ、お前もよく見て、自分を正しく評価しろ。するんだ。いいな!」
 半ば自棄になって語気を荒げると、縋り付く彼女が耳元で囁いた。
 うん、と。
 はい、と。

          *

 黒と赤。金と淡紅色といった全体的に淡い色彩を纏う従兄より濃く華やかな色合いではあるが、あでやかというより、瑞々しさがある。もぎたての果実を連想させるようなそれが、ある。赤をはだけさせれば乳白色の肌身があらわになって、一層印象は強くなった。
 タナッセ、と甘える響きを帯びた呼びかけは子供の仕草に似た首振りを幾度もする。
 見たくない、どうして、と。
 寝台に腰掛けたタナッセの腕の中でに両脚を広げられ、胸の円やかなかたちを晒されて、だが彼女が嫌がる理由はそこにない。姿見用の鏡石に、朝の身支度用のそれに映る、あられもない姿が視界に入ってしまうからに他ならない。
「お前の詰まらん懸念を払ってやる。そして、いい加減下らん思い込みで自分を下げるのもやめろ」
 タナッセの不明瞭な表面の言動に惑わされない割に、何故か自分に対する自信や配慮がおかしな程欠けていて、彼女に救われてばかりの彼としては最早不愉快ですらある。だからと言ってもやりすぎだ、と告げる冷静は残っていたが、妙に従順な肯きや、寝室へ運ぶ最中に揺られつつ徐々に増していった腕の中の頬の赤や身の火照りに負けた。負けたのだ。
 柔らかくたっぷりした質量のふくらみを、持ち上げるように形に添ってなぞる。胸の付け根から色の変わる際辺りまで、撫でるように五指を浅く食い込ませるようにゆっくり動かしていくうち、鏡石の中、彼の手の動きに合わせて肌の紅色が増していき、何、と掠れた呟きが身を捩る彼女から零れた。
 これ、こんな動きをするんだ。していたのか。なんだかパン生地みたいだ。
 荒く浅い息と鼻に掛かった甘い息の二つで途切れがちな声に、タナッセはそろそろかと肌色と淡紅色のちょうど境の肌身に指を伸ばした。彼女の肌自体が絹の触り心地であるが、薄く色づく皮膚はより優しく頼りない感触を持つ。
 映る彼女はとうとう足をばたつかせ始めてしまう。
 いじわる、と舌足らずな非難があった。
 どうして今日は一度も先の方をいじってくれないのか。何か勘に障ってしまったのだろうか。
 鏡石の彼女は切なげに目を細め、必死に後方の、映る虚像の彼ではなく現実のタナッセを見やってくる。
「……っ」
 瞳にはうっすら涙が刷かれており、思わず息を呑んだ。
 別段酷くしようと意図したものではなかった。ただ、まだ執務自体は残っていて時間が割けず、全てを脱がせてたとえばへそだとか背筋だとか、弱い部分全てを丹念に刺激してやるわけにもいかないため、焦らされることに弱い彼女にはこうするのが最適かと考えたのであり、つまりもどかしげに腕の中で身を捩る姿が愛らしかったとか、触れぬままいたらどんな反応を見せてくれるか、鏡石で初めて知った悩ましい足の動きにぞくぞくしたとかではない。
 ……それはさすがに嘘が過ぎる、とタナッセは自省し、妻の望む通り指で尖りを挟んでやった。一度たりとて触れられていない筈の場所はしかし既に硬さを得始めていて、僅かに力を込めただけでも半端に露出させられた細身は激しく背を反らし、蜜の喘ぎを上げる。
 嬌声の合間、他に言葉を知らぬように呼ばれる己の名は胸を焼きそうな甘ったるさだが、不思議と心地よくて仕方がなかった。拒否しても拒絶しても、しつこく追ってきたこどもの記憶が喚起されて仕方がなかった。
 摘んだまましごくように指を動かし、指の腹で擦り、軽く爪を立てて先端をいじる。
 触れ方に慣れてもそうして刺激の質を変えるたび、彼女の反応はまた強いものに戻った。けれどそうするとまた頑是ない子供のように首を振るのだ。
 変な顔になっているからやめて。
 言われ、タナッセは淡い紅から鮮やかな紅に染まり行く素直な肌から鏡石の彼女に目を移す。よく磨かれた姿見にあるのは、変どころか彼を誘う表情。眉尻の下がった黒の瞳は潤んで焦点を甘くして、真白の肌を彩る苺色の唇は彼女の小指が一本入るかどうか程度開かれて口付けをねだるようだった。
 何が気に入らないのだろうかと尋ねると、ならこんな顔でいいのかと尋ね返されてしまう。
 ああ全く、と頭を抱えてタナッセは吐き捨てる調子で言ってやった。
「何がこんなだ。お前はどんな表情であっても私には可愛らしいとしか見えんし、今はこちらを誘惑する顔にしか映らん」
 口にした瞬間言い慣れない言葉への羞恥と怖気と後悔が走ったが、実際に見ても勘違いは払拭されやしないという彼女の頑なさに苛立ちもあった。
 色を帯びた年相応の表情通りに扱いたい思いと、どこかぼんやりした雰囲気で無防備さと幼さすら伴う様子に彼女を守りたい気持ちと――両方が混濁した酷く昏い感情で彼は堪らないというのに。
 なのに肝心の本人は、タナッセはだいじょうぶと純な信頼を向けてくる。
 同時に、タナッセになら痛くされてもあなたとの始まりを思い出して幸せかもしれないと言うことさえある。
 タナッセが、はじめて本当の意味で私にさわってくれたひとだから、何もかもが大切なのだ、と陰りない笑みを浮かべる。
 とはいえ、少し意地の悪い行為に出ると先のように怯えたり、羞恥に泣き出しそうになってしまうのだ。無論、終わったあとには言うのだが。最中はああ言ったが、いじわるもそれはそれで楽しかった、などと、くすぐったそうに微笑んで。
 試しているとしか受け取れない。
 試されているのは言わずもがな、理性の強靱さや、愛情と形容するには苛烈すぎる部分のある感情を素のままぶつけてしまわないか、だ。同時に理解してもいる。彼女は彼の方が危うい情を持っている事実など気付かずいるのだ。タナッセから与えられるなら傷でも良いとあどけない笑顔で言ってのける心には、確かに察することも叶わないだろう。
 ゆうわく、と意味が心まで染み込んでいないオウム返しがあった。誘惑、可愛い、と喘ぎながら何度もなんども確かめるように口にして、そろそろ黙れと堪忍袋の緒が切れかけた頃、この顔が?とようやく別の言葉が聞こえてきた。あぁ、と肯定すれば、妙にふわふわした声音が言う。
 そうか、この顔が、女のいやらしい顔なのか、と。
 なら、タナッセが嫌いじゃないのなら、いい、と。
 それと、可愛いと言ってもらえて凄く嬉しい、と。
 だから、と彼は思う。
 男のてのひらからも溢れるふくらみをかたちが変わる程揉まれ、熟れた果実のごとき尖りをしつこく指で遊ばれ、甘い吐息を絶え間なく響かせるさなかの声でも呟きでもないだろうと思う。
 ただ、語尾を延ばすような嬉しいの囁きには心底からの感謝を感じられてしまい、口にしてしまった。
「本当に……本当に、どうしようもなく可愛いな、お前は」
「――――っ!」
 耳朶に唇を寄せ告げながら紅色を摘んだ指先にこもる力を強めてやれば、彼女は高く甘やかな嬌声を響かせ絶頂に達する。快楽に弱い華奢な肢体は全身の力を抜き、くったりとタナッセにもたれてきた。
 下肢の花弁も彼女が以前見たという状態とはまるで異なる様になっているだろう。考えて彼がそこを覆う布に手を伸ばしたときだ。愛しい人が舌足らずに彼の名を呼んだのは。
「どうした?」
 やっぱりタナッセには、やらしい目で見られてもこわくない。むしろ、胸がどきどきするし、なのに安心もする。さっきまであんなに、莫迦みたいにこわかったのに。
 やはり彼女は鏡石越しではなく背後の彼と視線を合わせようとしてきた。
 本来の目的などなかったことにしてこのまま組み敷いてやろうか。一瞬不穏な考えがタナッセの脳裏をよぎった。乱れたつややかな黒髪と半端に衣服を纏った姿は昼の陽射しの中いやに淫靡で、とろんとした眼差しや紅を刷かずとも鮮やかな唇は蠱惑を孕んでいる。鏡像を見ても現実を見ても、とうに熱を籠もらせている彼には毒であった。
 喉を鳴らして唾液と欲を一気に呑み込み、なら次はこちらだな、と改めて密やか場所を覆う布地に手を掛けた。毎日土いじりで汗かく彼女は着替えやすさを優先した衣服が欲しいと毎回衣装係らに口を挟んでいて、それは下着でも例外ではない。たった二ヶ所の蝶結びを解けば、それだけで隠すものはなくなる。はぎ取るまでもない。
 布から伝う透明な糸を辿った先、柔い肉の丘の奥、甘酸っぱい蜜を湛えた花が咲き誇っていた。花蜜に濡れ開く充血した穴は戸惑いがちに、けれど明確に奥へと誘う動きを見せる。幼い表情と快楽に蕩けた表情が矛盾せず溶け合っているように、朝露に濡れた花のごとき清さと艶めかしくひくつく蜜壺の動きは反発し合わない。至極自然に混じり合っている。
 大人で、子供。強くて、脆い。清いのに、どうにも淫ら。
 まるで彼女そのもののようだ。タナッセは薄い腹に腕を回して熱い身体を抱き寄せ、首筋に舌を這わせた。
「あ…………」
 鏡石に現れた鮮やかな紅色。膨らみきった花芯や花弁を直視した彼女は大きな黒の瞳を見開かせ、彼と対局に呆然としていた。なにこれ、と腰を引きさえしてしまう。
 違う、私が見たときと全然違っている。色はこんなに濃くなかったし、薄っぺらだったし、全然違った。こんな、動いてなかった。
 肩を、腰をねじって彼女はタナッセに訴える。尋ねる。
 本当にこれが私のなのか。
「これで、嘘を言ったものでないと分かって――いや、分からなければ困る。これ以上必要というなら言わねばならんだろうが、先程のように。……分かれ」
 彼女は脚を閉じようとする。目をつぶり、こっちも変だと顔を背けてしまう。けれども、変、の響きに表層の意味とは異なるものを感じ取った彼は、閉じた脚の膝裏に左手を当てて無理矢理引き上げた。ふくらみを押し潰す程上半身に寄せてしまえば、蜜を滴らせるところは結局映り込んだまま。
 とはいえ、見るべき人物はきつく目を閉じている。タナッセは空いている右手でぬるつく花芯を潰すようにこね、弾き、その強烈な刺激で輝く黒の瞳を見開かせた。ん、と喉を鳴らしながら小さな身体はまた全身を痙攣させ、悦楽の頂点に達したのだと教えてくる。
「……ほら、見なければまた同じことになるぞ」
 タナッセ自身、止まらなくなり始めている自覚は、薄いものながらあった。
 意外に自己評価の低い妻を思ってという理由があったはずが、いつの間にか自身の中で目的と手段が入れ替わっている気もした。
 かつて、地下湖で一方的に唇を重ねたあの時なら、まだ無体を働いても言い訳は可能だった。追い詰められていた、の一言で十全だった。残念ながら、現在の彼はただ妻を狂おしく愛しているだけで、己に詭弁を弄するのも叶わない。
 故に、理性を呼び覚まそうとする。太陽は今最も輝かしい時間帯であるとか、手元の仕事は期日に余裕のあるものだがどうせすぐに積み重なるのだから早く終わらせるべきとか、あとから思い返すだにのたうち回りたくなること確定的な発言が多いだとか。
 努力は粉微塵に砕かれた。箍を外す存在を放ったままなのだから、至極当然の結果であった。
 分かったから、ちゃんと見るから。
 タナッセの箍を外す女性は、宣言通り鏡石をじっと見つめた。伏し気味の睫毛も彩られた宝石の瞳も揺れて。恥じらいながら従う様を、力の限り抱きすくめてしまいたかった。
 だから、教えて欲しい。これが、こんなにいやらしいのが、卑猥なのが、どうしてタナッセには綺麗に思えるのか。
 けれど腕に力をこめるより先に彼女は言う。
 結局語らなければならないのかと彼は苦さを覚え、意識して浸り、裏にある感情を押し隠した。当の本人に請われたから仕方がないのだ、と喜ぶ感情を隠した。
 よく見ろ、と彼は花全体をなぞる。
「綺麗な、赤だ。花だと形容したのは嘘じゃない。嘘であるものか。鮮やかで、潤って……お前は口にしたことなどなかろうが、これは本当に花の蜜に似た味がする」
 言いながら人差し指で蜜を絡め取り、もの言いたげな柔らかい唇に軽く押し込んだ。拒絶も可能なそれを、彼女は静かに口内に収める。タナッセの指を、恐るおそる舐める。
 甘い、けど酸っぱい。言われれば、似ているかもしれないけれど。
 小首を傾げ、彼女は続ける。タナッセはどうなのか、と。
「それは……」
 疑問する彼に、ここは、と恥ずかしそうに答える。
 ここはあなたと繋がる場所で、あなたのそれを私はきちんと見られたためしがないが、今日見てみたいし、おなかにくれる熱いあれを舌でも味わってみたい。
 ぐ、とタナッセは喉を鳴らした。正直、比較すれば一目で分かるものと考えていた話ではあったから、まさか彼女がそこまで言うとは想定しておらず、更には、
「私のそれはお前と違って舐めてどうという代物ではない。……駄目だ」
 匂いも味も彼女と真逆の筈だった。味を確かめた経験はなかったが、あれほどの臭いで彼女の蜜同様に甘やかな味わいとは到底思えない。慌てる彼に、見透かしたような声が掛かる。
 おいしくなくても平気。タナッセがいつも私にくれるものだから。
 それでもなおさせまいと口を開く彼より早く、それに、とか細い声で彼女は睫毛を震わせた。
 それに、村で色々見ているし聞いているから。
 そうしてまた、鏡石越しではなくタナッセを見ようとしてくる。実のところ彼女は気付いているのかも知れないと、無言でじっと見上げられるのに弱い彼は思う。
 子供の時分に顎を引いた上目でタナッセに告白した彼女は、驚く彼を黙って見上げてくるだけで。
 訴えてくるような漆黒の瞳を、当時も今も青を移し込む瞳を揺らすだけで。
 あの時から、どうしてもこの上目にだけは勝てないのだ。
「お前は。……お前は、本当に」
 深く、長く。
 タナッセは息をついて彼女の身体を抱え直す。脚の間に抱いていた身体を持ち上げ、左の太ももに座らせる形にしてから下衣をくつろげ、反り返る勢いで勃ち上がっている自身を取り出した。
 え、と戸惑いが彼女の面に広がっていく。
 白の繊手が躊躇いがちに彼のかたちに触れたが、すぐに離れてしまう。
 水浴びの時に目にしたのと全然違う、どうしてこんなに大きくて、出っ張って、それでそれで……。あぁでもそういえばそんな話も……。
 言いながらも視線は逸らされず、むしろ見入っている。
「な、何度もしているだろうが。そこまで驚くこと……いや、そうではない。そうではなくてだな、だから、私の言ったことがこれでお前にも分かるだろう?」
 透明な蜜に光る華やかな紅花とは対照的だとタナッセはつくづく思う。
 色は濃く、かたちも先端が張っているだけで何と比喩することも出来ないもので、今のように硬さを帯びればうっすら血管が浮きもする。同じように刺激で硬くなる妻の花芯はやはり明るい色味で、硬く膨らんでも出てくる形容はぷっくり、などの擬態語だけだというのに。
「というか、いつまで固まっている」
 動かない彼女の蜜湛えた箇所に指を入れ、恥ずかしさの糊塗もあったが仕置きの意味もあっていくらか乱雑にかき回してやる。傷つけかねない強さで責め立てたものが、愛らしい喘ぎ声と共に、指もっと増やして、と自ら腰を振った。
 そういえば、と焦りに忘れていた事実をタナッセは思い出す。彼女は繋がったまま熱を感じ合うだけの時間も好むが、激しく突き上げられ追い立てられる乱暴さも望むのだ。これでは仕置きにならない。これよりはまだ、彼女がどうにも納得していない様子の花を、彼を受け入れる爛れきった蜜穴を広げ奥までを見せでもしてやった方が効果的だったろう。
 今からでも遅くはないかと、幾度目かの頂点に達し始めている体にもう二本入れ、けれどかき回してなどやらず、押し広げる。
 もうちょっとで、もうちょっとだった、と切なげに身悶える、脆いくせに肉の柔さも持つ小柄が、タナッセの中で落ち着いていた昏い熱を燃え上がらせた。
「ああもあからさまに腑に落ちない顔をして、良くなれると思うなよ。よく見ろ、そしてよく聞け。……私と比べれば明白だろうが」
 膝下を幼児のように繰り返しばたつかせて、彼女は不満げな声を上げる。
 同じに見える。私には、タナッセと同じにしか見えない。ううん、タナッセの方はずっと素直な形で分かりやすい。私のは、穴だけあればいいのに色々が、余分が多すぎる。
 彼は思わず笑ってしまう。単純さを彼の側としては気にしてもいるのに、繊細な美しさを持つ彼女は過剰と気にしているのだから、ないものねだりだ。
 分からない、と彼女は首を振った。
 全然分からないから、分からないけれど、もう我慢なんて無理だ。おかしくなってしまう。だからだから。
 また、あの眼差しが彼を射る。
 タナッセとて、とうに我慢の限界だった。
 返事をする余裕もなく彼女の中に自身を埋める。蜜に溢れすぎて逆に上手く入っていかないことさえも、快楽だった。
 そうして突き上げ、揺さぶりながら。
 思い浮かぶのは、汚す、という語。
 よごす、ではない。けがす、のだ。
 花を無粋なかたちで貫き、緻密な襞を持つ内壁を抉るように擦り、透明に煌めく蜜を泡立たせ、濁る白の液で奥の奥まで浸食する。彼を刻みつける。
 強い快楽にすぐ力が抜けてしまい、ただ揺さぶられるだけになってしまう彼女はタナッセにもたれてきて、まるで一方的に弄んでいる錯覚すらあった。焦点がぶれ陶然とした瞳が彼を懸命に見つめてくれば、もうどうにもならない。
 守りたくて、大切にしたくて、自由であって欲しくて、なのに途方もない欲が彼を捕らえようとするのだ。
 もっと汚したい、酷くしたい、閉じ込めてしまいたい、そうも思ってしまうのだ。
 嗜虐の趣味など持ち合わせていない。常であれば断言出来る。たとえば今日のような、傷つき沈む妻は見たくなかった。タナッセの胸まで締め付けられて、昼日中から甘えられるまま爛れる始末だ。
 ところがどうだ。タナッセの焦らす愛撫に不足を覚え、恥じらいながらも性感帯へ触れるようねだる姿に、豊かなふくらみと淫靡な花だけを晒し肌を熱くするしどけなさに、抵抗を見せながらもその実強いられることを望む逆しまな在り方に、彼は愛おしさだけを感じていられない。
 執着、あるいは独占欲と呼ばれる昏がりが胸の奥底に穏やかな思いと同程度の強さで存在していて、目を背け切れやしなかった。
 これが罪を赦したのは彼だけなのだと。
 これが受け容れるのは、彼だけしかいないのだと。
 つまりは。
 これは彼の、彼だけのものだと。
 だから、今睦み合っているのも理屈を捏ねたに過ぎないのだ、おそらくは。
 悄然とした姿に、守りたいと願う正しい思いと、その脆さすら愛らしく映る邪な思いが喚起され、混ざり、愚かしくも劣情として表れた事実に対し、彼女のためだと嘘を吐いたのだ。いつでもタナッセには正直であろうと努める彼女には、到底打ち明けることなど叶うはずもない。
 名が幾度も呼ばれる。
 タナッセ、タナッセ、タナッセ。
 甘い悲鳴が言葉を途切れさせようとも、彼女は繰り返す。
 最早起点がなんだったのか昼日中から耽る意味はなんだったのか忘れたまま、二人は熱を絡め合った。
 二度か、三度か。
 タナッセの熱を受け容れた彼女は息を整え、ぽつりと呟いた。
 あんな恐い目で見るから、ああいう人達が向けてくるのは敵意だと思っていたのだ。勘違いだったと、今日初めて気付いた。私をそういう風に見る人なんて、タナッセぐらいだと思っていたし、今のタナッセはあんな昔みたいな恐い目を向けてこないし。
 大量の白濁に花弁を汚すその女は、彼の背筋に甘やかを走らせる眼差しで途切れがちに続ける。鏡の中の己に視線をやって、続ける。
 タナッセ以外の人にこうしたいと見られるのは、……どうしようもなく、いや。
 だから、と陶然とした瞳は実在の彼を映し、請う。
 次からは、そういう人の時は一緒に居て欲しい。私が我慢出来るようになるまでは。お願い。あれは、やっぱりこわい。
「お前がそう願うのなら、そうしよう。……別に無理をしなくてもいいんだ、本当に苦痛なことならば、強いて慣れる必要などない」
 タナッセは彼女の身体を抱え直す。
 何もかもをそつなくこなす器用さを持つのが彼の妻だが、それに頼っている部分が大きいというのは、実のところ常々感じていたことだ。というかタナッセの筆跡を真似してサイン出来るのはもう器用か否かという範疇を超えているだろう。
 いつも彼女ばかりがタナッセに甘え過ぎて申し訳ない、といった体でいるが、つまり、全くそんなことはないのだ。
 彼女は私的な――恋愛面で彼に甘えてくる。
 彼は――――。
 そこまで考えてタナッセは首を振った。思わず時間を費やしてしまったことだ、早く執務室に戻らねば。
「あとだ。その……分かっただろう、大元の目的を忘れてだな、抱いてしまう程、私は常になんだ、“捗って”いる。いるんだ。……恥を押して言うから、一度しか言わんから聞け」
 もう一つの懸念についても、はっきり言っておこうと彼は言葉を紡ぐ。詰まりながらもどんどん早口になっていくのは致し方ない。
「正直……いつも考えているぞ。お前の、お前の美しさが、愛らしさが。私の欲目でそう見えているだけのものなら、他の連中を誑かす次元の代物でないならば、どれ程心安らぐかと」
 言い終えた彼は、もう顔を真っ赤にして黙り込むしかない。
 言われた彼女は――彼女もまた、顔を赤くして黙り込んでしまった。ただ、唇を引き結んだタナッセとは異なり、柔い唇は空気を求めるように何度もなんども開閉を繰り返している。見ているうちに何故か我慢ならなくなり、彼は自身のそれを深く重ねる。水音が激しくなった頃、ようやく唇を開放すると、貪られた筈の彼女の面には綿毛の笑顔が浮かんでいた。
 嬉しい。
 うっとりと、そんな囁きを零す。
 タナッセに可愛いと思って貰えているのが、欲しいと思って貰えるのが、あなたがそれを言葉にしてくれたのが、嬉しい。
 喜びを紡ぎながら、はらはらと涙を零す。
 タナッセは慌てに慌ててその雫を拭う。
「な、何故泣く……!」
 問いに彼女は首を横に振る。大丈夫だ、と言った。噛み合っていないしどこが大丈夫なものか、と彼が眉を立てるより先に続きの言葉が来る。
 大丈夫だから、これはきっと幸せなせいだから、今夜もあなたを下さい、と。
 ありがとう、と。
 タナッセは何も言わず、頼りなくも誰より清いと感じる存在の身体を、力の限り抱きすくめた。

          *

 彼女と共に室内に入れば、客人の好色さ丸出しの卑しい表情は瞬時に固まった。
 しかし、すぐに持ち直し、反応を糊塗するように大仰な様で領主とその妻に挨拶し出す。ただ、視線は幾度もタナッセの隣に向けられていて性懲りもない。というか、男なりに誤魔化そうとはしているのだろうが、唇や胸の形をなぞるような眼球の動きは丸わかりだ。
 けれども妻は、彼に身を寄せる動きを見せながらもそれ以上の反応を見せない。タナッセがいれば、視線はともかく猥雑な言葉はぶちまけられやしないのだから。
 先日いいだけ若い娘を嬲った男は、だから何も出来ずすごすご引き下がっていった。
 口惜しげな背を見送り執務室に戻ってくると、ようやく妻は安堵の息を吐いて、結局緊張はしてしまった、と反省しながら彼の腕に縋り付いてくる。
「所詮小物だ。口ばかりで何も出来やしないと分かったろう? 次に来た時は、もう普段通りに出来るさ」
 絨毯の模様を見詰める彼女の頭を撫でれば、上目が彼を見やった。
 出来るだろうか。前はこんなことでまごつくとは思っていなかったから、自分にどうも信用がおけない。
 問う彼女に疑う余地もなく肯くと、笑顔が返ってくる。
 あなたにそう言って貰えると嬉しい、という言葉と共に。
 どうしようもなく可愛らしい。タナッセは思う。才に恵まれているのに胡座かかず一生懸命で、練れているのに無邪気で、強いのに弱くて、身体ですら華奢ながらまろく豊かなふくらみ持つ――そんな、あらゆる矛盾を飲み込んだ存在。
 今回は莫迦な虫を払えた。
 だが、やはりこの、習ってきた修辞学を無に帰させる程可愛いと連呼するしかない存在の愛らしさなど、彼にだけ分かればいいのにと強く思う。
 タナッセは顔を傾けた。
 それだけで、彼女は頬を染め同じように顔を傾けてくる。
 夫の色に染まる黒の潤んだ眼差しは、白い瞼の奥に隠された。










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主導権ってM側にありますよねという話。違う。





以下おまけ未満。
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 就寝の時間になっても夫婦の寝室に来ない妻の様子を見に行くべきか。
 タナッセが悩み出した頃、彼女はしずしずとやってきて寝台の上で膝立ちする。
 頬を赤らめ夜着の裾をたくし上げた。何も履いていないところから透明なものが溢れ真白い太股を伝っているのが夜目にもあでやかだ。
 昼間たくさんしてもらったけれど夜もたくさんここに欲しい、と上目が言う。
 とろり、とろりと零しながら、言うのだ。
 たくさんたくさん、あなたの大きいのが欲しいのだ、と。
 誘う言動は今に始まったことではない。ないが、自ら蜜垂れるさまを見せつけるなど今日が、この夜が初めてのことで――タナッセは頭を抱えるしかなかった。どう考えても日中の抱き方が良くなかったのだと。
 鏡石に映る己を見せつけられながら幾度も揺さぶられた彼女に、その種の羞恥心が薄れてしまったとしても想定すべき事態の筈。いや、とも思う。あるいは――何かが濃くなったのだ。
 そんな様に煽られている自分もおり、タナッセは余計に頭が痛かった。痛かったものの、
「自業自得か……」
 ぼやき、彼はねだられるまま甘露をもったいなく垂れ流す場所に指を伸ばした。
 自ら開きねだる様に、言い様のない昏い悦びを覚えたことは、まだもう少し自覚しないでおきたいと思いながら。










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