いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2014年6月21日土曜日

【かもかてSS】ちっちゃい おっきい ちゅっくらい

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・大型動物≒モルと接触を図ってみる主人公。
 小動物≒主人公との接し方に悩むモル。
 つまり珍獣同士の交流というか



ちっちゃい おっきい ちゅっくらい



 出て行くと邪魔になるだろうか。
 私は悩みながら太い幹の裏で足を止めていた。視線の先には長身無口な護衛のモルがいる。素振りをしているようだが、刃物の類が苦手な私が出て行ったら鍛錬を中断しかねない。
 奥中庭の一角に設けてもらった小さな花壇での作業を終え、使用人たちの勝手口へ道具を洗いに行った時だ。手には泥に塗れた農作業用具を詰めた籠があり、つまりは重い。猫の額ほどの花壇にそう大きなものは必要ないと手を加えたり、改めて小型に作ってもらいもしたが、それでも重い。あまり長い時間は抱えていられないだろう。
 仕方ないと思考を切り上げ、私はモルの方へ足を進めた。彼の向こう側に行かないと井戸にはありつけないので。
 巨漢の彼は、今日も今日とて表情の分かりにくい面を上げてこちらの顔を確認すると、浅く会釈をしてくる。
 あのリリアノが自分の息子につけた護衛だし、例の儀式にも付き従っていたぐらいだし、主を決して裏切らない忠義に厚い人であるのは確かだろうが、さっぱり考えが読めないので私的には少しこわい。勘違いでないなら、嫌われてはいないと思うのだけれど。……だといいなあ。
 考えているこちらを余所に、モルはやはり剣を片付けようとする。気にせず続けてと言いながら脇をすり抜けるが、モルはやはり――うんまあ分かってた。
 でも、彼の鍛錬の邪魔をするのは初めてではないどころか、そろそろ両手の指全てを曲げねばならない回数邪魔をしていた。我ながら酷い。
 この前この時間この場所でしていたから、とずらしてはいるものの、互いに同じ事を考えている上次に選ぶ時間や場所も被り気味。というか、邸はさして広くないので必然泥臭い仕事が可能なところは限られる。当然被る。
 さすがに今日こそはどうにかしたいのだが、モルとは意思疎通に難がある。全く喋らないのだから道理だ。幾つかの提案をしても、いや自分一使用人なので自分が消えます、と言いたげに――しかし実際は何を考えているか不明なまま――無言会釈で去って行かれるとめげる。肯定否定ぐらいはしてもらえると有難い。タナッセに頼るのは選択肢としてなしだ。だって、負けの気がする。
 さて、今までの失敗は口ごもりながら話しかけていたことにも起因しているはず。別に大きくて顔が恐くて何思ってるかまるで読めないからってびくついてはない、ないんです。ないんだけど、えぇとあのそのだとか、無言の間だとかが多かったのだ、今までは。何を言いたいんだこいつはまるで分からん時間を取らせるな、と思われている可能性もあった。
 なので、はっきり言う。
 井戸の前で振り向き、告げる。井戸の方まで行ったのは距離を取りたかったからだ――ちょっと本音が出た。
 ともかく。
 モルの主人は飽くまでタナッセであり、確かに立場上私にも気遣いする必要があるのはしょうのない話だけれど、そのせいでタナッセの護衛としての本分を果たすための訓練が行えないのは本末転倒だ。……私なんかより付き合いの長いモルなら既に重々承知しているだろうが、あのひとは結構自分に対して優しくないし、誤解されてばかり――まあ自分で煽ってもいたけども――だから、万一が絶対に有り得ないようどうか気にせず続けてもらいたい。大体今も、背を向けて洗えば音はすれども刃は見えずで、気にならない。
 本当は風を切る鋭い音も苦手。でも、比較して気にならないのは事実だ。嘘は言ってない。
 片付けの手を止めて私の話に耳を傾けていたモルはしばらく沈黙したあと、結局剣を収めた。予想通りだ。気にしてない。……嘘じゃない。
 じゃあそのうん、と結局口ごもりながら背を向けて元の用事を始める。少しでも喋ってくれれば糸口がつかめるのにと思いながら盥の中に道具を入れていると、近くに重圧感が来た。
「…………え」
 小さく声を漏らしてしまう。何故か、モルが井戸から水を汲み上げていたのだ。彼は水が跳ねないようゆっくり盥に水を開け、驚くこちらに構わず腕まくりをするとしゃがみ込んで泥を落とし始める。
 いや、どういう状況なんだろう、これ。もしかして、更に気遣わせた?
 焦りで背に汗が噴き出る。痛くて痒い、いわゆる脂汗が。
 そんなつもりで口にしたんじゃないのだけど、「立場上私にも気遣いする必要があるのはしょうのない話」とか「気にせず続けて」とかが捩れた形で解釈されたのか。最後の発言も今から私洗い物をするんですけどと駄目押しに聞こえたのか。
 なるべくモルが洗わず済むよう手早く片付けつつも、内心字面通り無口な彼に半泣きになる。タナッセにも、城にも、自分自身にも――色々なことに思ってきたことを再度確信する。分からないのは、こわい。決して悪い人でないのは、明白だけど。なんとも情けない話だ。
 取り敢えず全て綺麗にし終えた。
 掃除している最中は気付けなかったが、素振りで疲れている人間をこき使った感がある。何重にもどうしようもない自分に頭が痛くなった。
 領主の妻としてはよくないがもう今更かと、私は一つ肯く。こう、そのままでは据わりが悪すぎる。少しここで待っていてとモルを押しとどめて、すぐ近くにある調理場へ駆け込んだ。いつもの二人分と声を掛けると、
「そろそろだと思ってました。って、二人分ですか?」
 少し困った様子で言われたが、すぐに目当ての物は出された。柑橘系の果実で味付けをした水入りのカップを二つほど。量が少ないですがと謝られそうになったので、普段通りでなかったのはこっちだから問題ないと首を振り受け取る。
 さて、早く戻らないと。
 量が少ないおかげでかなり急ぎ走っても零れない。城で受けた武芸の訓練で体幹が鍛えられたこともあるんだろうけど……まぁなんにせよ、大柄なモルの姿はすぐ見えてきた。私の方へ向き直り直立不動の彼に、走りながらまくし立てる。
 運動したり手伝わせてしまったり喉渇いたろうから是非飲んでくれいや良ければ飲んでくれるだろうか。
 そうして言い切った直後、モルのまばたきの回数が増えた気がした。意味は知らない。分からない。けれどひとまずカップは受け取って貰えたし、喉も潤して貰えた。
 これであとは空のカップを返せばいいだけ。
 安堵した私に再度試練がのしかかる。
 モルの、カップを持っていない方の片手が差し出されたのだ。
 でも私の片手はカップで塞がっていて、そのまま受け取るなら片付けを押しつけることになる。だって、よこせってことだろうから。それでも領主の妻と衛士と内心繰り返しつつ躊躇いつつで差し出すと、巨体にそぐわない機敏さで早足に廊下を去っていってしまう。
 会釈がないなんて、変。でも、私のせいで時間を喰ってしまったから、何か急ぎの用件に遅れそうなのかもしれなかったし、所詮私相手だし、別段構いはしない。
 思いつつ自室への道を歩き出して間もなく、何故か彼は脇をすり抜け私の進路を隠してきた。
 まぁその、隠す気はまるでなかったろうけど。結果的にはそうなった。
 彫りの深い鉄面皮に見下ろされると、正直恐ろしい。
 無表情は、無言で両手を突き出してきた。握るのは、小さめの編み籠。口の部分には赤を基調にした花柄の布がかけられていて、中身が何か分からない。
 とはいえ、タナッセの最も信頼する護衛の行為に警戒する必要なんてあるはずなかった。持ち手の付け根部分を掴みながら差し出され、私は右手で半円のてっぺんに当たる箇所を握る。……なんとなく、視線が柔らかくなった気がした。気のせいの気もするけど。“気”ばっかりだ。喋ってくれないから仕方ない気もするけど。
 モルは一礼をしてまたすぐ姿を消してしまう。一歩いっぽの歩幅があまりに違いすぎると思いながら、私は籠の中身を見ることにした。
「……おかし」
 それは、とりとめのない菓子の詰め合わせだった。統一性も方向性も感じられない様でぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、急ごしらえなのは一目で見て取れた。子供に人気のある菓子ばかり集めたような様相であるのも。
「……ふふ」
 私、思わず笑ってしまう。
 さながら大泣きしたあとの子供の機嫌を取る親のような、そんな気がしたから。
 かつて近くで見ることは幾度もあって、けれど実際にされたことのない行為だったから。
 一番好きな焼き菓子が入っていたから一つ摘む。
 そういえば私とモルは十歳年が離れているのだっけ、と。
 蜂蜜たっぷりで甘いそれを、幸せな心地で頬張った。










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6月にアップする予定だったネタ、再び見参!
えぇ一年前の6月ですの。うおうおう。

まぁモルも不器用ながら面倒見いい方だと思います、対子供時。
つまりこの主人公はちびっこ扱い。背丈でなく。
主人公とタナッセの子供が出来たら、
その強面でびーすこ泣かれ無表情ながらも
内心本気で焦ってるに違いない、
というイメージが「も☆ぐら」で付きました。