いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2015年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年10月25日金曜日

【かもかてSS】あかべにしらあいヒヤシンス

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・タナッセ視点三人称、もちを焼くうち沼地に踏み入り結局本音を出す羽目に



 
あかべにしらあいヒヤシンス



 浅く眉を立て弧を描く唇が描く笑みは、凛としたとの形容よりも、気の強い、と述べた方が正確だ。
 大きく黒目がちな瞳は真昼の陽光を受け耀うようで、なまじな宝石が足下にも及ばぬきらきらしさがあった。
 夫の、領主の机に広げられた複数の書類を指さし語る声音は、彼女が子供だった時分を思わせる言い切りが時折混じる。
 愛らしい衣装とは真逆とも言える風情。けれどそうしている時の彼女は、本を読んで大人しくしているのとも木に登っているのともまた別の魅力があり、タナッセは思わず笑み含んだ吐息をもらしてしまう。
 と、彼には真似出来ない可愛い驚愕を小さな唇から零して、隣で腰をかがめるようにする妻は小首を傾げた。先までと一転、眉尻の下がったあどけない表情で、何かあなたを面白がらせることを言ったろうか、と問うてくる。高すぎず低すぎず、耳に心地よく響く声色は戸惑いがちである。
 文字も碌々読めないところから、一年と経たず頭角を現した二人目の印持ち。親しい相手には愚かなまでに正直であろうとする、今でも時に思わぬ口の悪さを見せる彼女。
 忙しく瞬きを繰り返す女性がこうしてタナッセの傍らに警戒の欠片も持たず居てくれるだけで、彼という存在が一体どれほど救われているかなど、けれども一切合切理解していないに違いない。
 ……城にまだ留まっていた頃。
 タナッセがどれほど苛立ちを覚える機会があったかさえも。
 過去の話と切り捨てられない故、腹の底から湧き起こる感情がある。だが、大したことじゃない、と首を振り、彼は求めていた意見の続きを彼女に請うた。

          *

 背伸びして、限界まで腕を、指をぴんと張って、僅かに足らない。
 一週間前に長い籠りを終えた婚約者は右腕を必死に伸ばしていたが、諦めた様子で近くの机に抱えていた本を置く。
 ちょうど図書室の扉を開けたところでそんな姿を見かけたタナッセが一歩を踏み出したのと同時だった。彼女の近くにある書棚の陰から姿を現した男が、いやににこやかに声を掛けたのは。
 男の人差し指は書棚を示し、どうも目的の書物を取ってやろうという話らしい。成人してなお小さな手指を緩く曲げ、唇に宛がった彼女は考えている風だったものの、ややあって口を動かした。やに下がった男の顔が、更に正視に耐えないものになる。
 小柄な婚約者は、男の手から目的のものを受け取ると淡く口端を上向ける。今の行為とその微笑みを糸口にしたい様子で話し続ける男に、ようやくタナッセは再び足を動かすことが出来た。
「……私が先約だ」
 前口上を口にする余裕もなく、割って入る。無論、約束などしておらず、彼の姿に頬を緩ませた彼女が疑問を呈せばつけ込む隙を作るだけではあったけれど、咄嗟に出たのはその一言のみ。だが婚約者は、男に向けていたものより柔らかな笑顔を浮かべ、待っていた、と彼に寄り添ってくる。
 男は一瞬不快そうな視線をタナッセにやってきたが、すぐに視線を下げた。彼の隣に猫撫で声を上げ、そそくさ去っていく。
 男が見えなくなると彼女は不思議そうにタナッセを見上げて言う。
 あの男は小物だし、そんなに怖い顔をしなくても大丈夫。
 彼が以前彼女に誓った通りに守ったものと解釈したらしい言葉に、まさか嫉妬だとは返せるはずもない。曖昧に肯くしかなかった。

          *

 幼い我儘だ。
 自覚はある。
 何しろ大抵の記憶において、彼女はその種の人間への態度は素っ気なかったし、笑顔もどこか事務的だった。
 だが、似たような場面に出くわすことは少なくなかった。結婚した今でも彼女を伴っての登城は眉をひそめたくなる態度の人間があり、焦りを含んだ嫉妬心を抱く。
 タナッセが促した続きを真剣な眼差しで語る彼女は、ぷくっと膨らんだ頬で上の空を覚えたままだった彼を覗き込んできた。拗ねる半目は、復唱、と短く告げる。元々農民であった妻の意見を軽視する気は端からなく、要点を掻い摘んで応じれば、今度は半泣きの顔で更に身を寄せ額に触れて言う。
 調子が悪いのか、単に呆けているのかと思ったのに。タナッセは時々無駄なことで頭をいっぱいにするというか思考の海に溺れがちだから、また変なことを……いやそれよりも大丈夫だろうか。熱はないようだけれど風邪の引き始めか。
 タナッセの頬が引きつったことを誰一人咎める者はないだろう口の悪さがありはしたが、今日はもう休んだ方がいいんじゃないだろうかと勧めてくる、他者の体調不良には弱い彼女に結局険を収めた。
 首が測りやすいんだっけと細い指が彼の襟ぐりを緩め潜り込んでこようとする。柔らかくあたたかな手を掴むと、恥ずかしげに身を竦めた。
「具合が悪いのじゃない。だからそんな……そんな顔をするな」
 伏し気味の眼差しを彩る彼女の長い睫毛が、間近でなければ分からない程度に揺れている。
 とうに吐息を交わし合える距離だった。
 椅子の背に手を掛け覗くようにしていた妻の小さな肢体は、手を伸ばせばタナッセの腕に収まる位置になっていた。
 柑橘の甘酸っぱい香が鼻をくすぐり、呼吸のたびに円やかな胸が触れては離れを繰り返し、思い返していた記憶と併せて頭の芯がくらくらした。
 けれど――だから、敢えて彼女を捉えぬままに言葉を重ねる。お前は、と。
「お前は随分と色々な表情をするようになったな」
 関係が険悪であった頃は、いつでも浅く立てられた眉と感情を見せない目、引き結ばれた口ばかりを目にしていた。他の連中には微笑みすら見せもしたのに、だ。黒の月の一件以降、眉尻も目尻も下がった幼く甘い笑顔こそがより素顔に近いと知ったが、当時はあまりの態度の差が鼻についてならなかった。
 そして、
「最近は手袋もほとんどしないな。外出や食事会ぐらいで、普段は素手のままだ」
 記憶の中の図書室で、本に届けと伸ばす彼女は手袋をしていた。出てきたばかりで指先が少し余っているせいで一層取りにくそうにしていたのを覚えている。
 熱を分け合いしっとりした右手が逃れたそうに蠢く。
 言いたいことが、分からない。確かに私は前と変わったけれど、つまりその、どういうことなのだろう。
 困惑する彼女に、タナッセは口をつぐんだ。奇跡とも言える現在と、それを確かめたい不安と、他の誰かが奇跡のもたらし手に触れることへの嫉妬。全てが混ざったものだなどと、間違えても言えたものではない。
 彼の手の中には、雨の日にあたためたかつてと変わらない、小ささと頼りなさがある。
 彼の間近には、彼女の子供時代最後の日に、愚行を取りやめたあの日に抱き上げた、あまりに軽い小柄がある。
 そして。
 彼女の上質な黒の瞳には、彼の色が映り込んでいた。
 伏し気味の眼差しを持つ彼女が困り顔になると、憂いている様にも悩ましげにも見える。
 タナッセ、と黙する彼に妻は言葉を続ける。
 ……タナッセは何を考えてこうしているのか。お願いだから教えて欲しい。さっきからずっと訳が分からなくて、どうしたらいいのか。もしかして、私のことが厭になったのだろうか。
 最後の一言を発する瞬間だけ、彼女は懐かしい色を彼に見せた。
 眉尻も目尻も僅かに吊った面。
 先のような執務中などであれば、対象には向けられているもの。
 彼に直接それで対することはほとんどなくなった表情。
 けれど、すぐに瞳は揺れ――あるものか、とタナッセはとうとう彼女の身体を引き寄せた。引き寄せ、勢いを利用して膝上に抱き上げた。
 急な横抱きに目を真ん丸にした妻に、重ねて言う。
「あるか。あるものか。私が……私の方から、お前を嫌いになるなど。厭うなど。もしあるのならばお前が……」
 彼女が、タナッセに愛想を尽かすこと。
 口にしかけ喉奥に押し込んだ。彼女に、妻に触れようとする男達へ渦巻くものはある。強烈なまでにある。だが、抱き上げた小柄への不信は今に至るまで微塵もよぎった試しはなかった。
 再びの無言に落ちた彼を上目で見上げながら、私は、と彼女は語彙と内心を照らし合わせる如く訥々と語り出す。
 私はタナッセと居ると、楽しい。勿論、むっとすることだとかもあるが、自分自身に腹を立てるときもあるのだからそんなの当たり前のことで、基本的にいつでも幸せな、あたたかい気持ちで居られる。あなたが私が過ごしやすいよう色々気を遣って取り計らってくれているのも、いつだって有難いと思っている。でも私は、どちらの意味でも役に立てていないんじゃないか。
「――――」
 体温の急激な上昇と下降が同時にやってきた。
 有り得ない現象だが、少なくともタナッセにはそう感じられた。
 頭をよぎったのも、やはり二極化した思いだ。
 彼女に褒められると、好意の在処を訴えられると、どうにも面映ゆい。この純度の高い黒の瞳には、一体タナッセがどう映っているのか常々大きな謎だ。幾度何を言われようとも、信じがたい。そんな思いが一方。
 もう一方は、またやった、だ。
 出会い頭に悪意を叩き付け、最終的には騙し討ちで、あまつさえ死なせかけた。それらの起点は彼であった彼女個人が負うべきでない負の感情で、八つ当たりへの対応として当時取ってきた態度は至極自然にも関わらず自分勝手に憎しみを募らせ、何度もなんども繰り返し傷つけた。
 今彼女は、思慮に欠けたタナッセのせいで腕の中、身を縮めている。
 一向に懲りない、学習しない人間だった。舌打ちの一つも打ちたい気分だった。
 彼とて、彼女と居ると心が浮き立つ。
 始めは、突然とも言える好意に心の整理が付かなかった。
 何故、と単語だけが脳内を巡り、けれど逃げる彼を必死に追いかけてくる姿に、逃げ出すそぶりを見せただけで哀しげになる顔に、不理解から来る居心地の悪さよりも手の付けられない感情が育って。
 理由を問うたび語られる言葉の断片――そう、タナッセがすぐに尻尾を巻いてしまうせいで、彼だった彼女はいつも半端にしか理由を喋れなかった――に、熟慮のあとが明瞭に見いだせてしまって。
 罪も、それまでの愚かさも、突然の無体すら受け容れ、雨で全身を冷やしながら側にいたいと追いかけてきたこども。大事に臨めば臆し、好意に応えるも半端、取り柄一つない凡愚の彼にとって、そのこどもは、まるで夢のような存在だった。その存在は、いつしか当たり前のようにタナッセの心にあった。
 彼女は笑う。よく笑う。朝の寝台で目が合えば寝ぼけた舌足らずな声で挨拶をして、街に誘えば腕を絡めてきて、彼女が手ずから育てる小さな花壇の花に感嘆すれば胸を張って鼻を高くし、彼の方から唇を重ねれば心底嬉しそうに、彼がふと漏らしてしまう愛情には頬を真っ赤にして。
 印象深いのは領地に来た最初期の言葉か。どうしても過剰に庇護してしまうタナッセに、あなたが私を思ってくれているのは分かるが、負担は分け合いたい、夫婦なのだから私もあなたを手伝いたい、と真摯に見上げてきた彼女は最後に小首を傾げ微笑んだ。
 彼の口は空回る。
 ヤニエ師の忠告は、本当に的確だった。
 彼は彼女に改めて結婚を申し込む折にすら、愛情を直截な語では囁けなかったのだから。
 今もこうして、内心の吐露に苦慮している。結局出たのは、先と似た台詞。
「あるか。あるものか。役に立っていないはずがあるか。実際に従事していたお前ならではの視点がどれだけ私を助けてくれたと思っている。そもそも、お前は私にとってそんな次元の……だから、だな」
 タナッセも、彼女と居るのは楽しい。口の悪さに辟易することもあるが、糊塗しない部分も含めての彼女だとも思うし、遠慮いらず気を張らずの扱いなのだから幸せでもある。彼女が充足の毎日を送っている姿には心があたたまる。前述したとおり、この不安になる程真っ直ぐな部分を子供時分のまま持ち合わせている彼女は、半端に拗くれた彼にとって有難いひとでもある。
 そのままを伝えれば話は早いのに、言葉は出てこない。こうなってしまうと、彼女の聡さに助けられるしかなくなる。――常であれば。しかしもういい加減、今度ばかりは許されるはずがない。赦せるはずもない。
 思いタナッセは何事か喋り出しかけた彼女の唇に慌てて手を当てた。
「ま、待て。いや、待って欲しい」
 一呼吸分間があって、肯きがある。ほっと胸を撫で下ろしながら、彼は言葉を絞り出し始めた。
「私は……私はずっと、何もせずにいた。母上を手伝うこともせず、時期が来たならばヤニエ……伯爵の元に、なんというか、身を寄せる気でいたこともあるが、とにかくまつりごとに関わってこなかった。こうして所領を得たが、だから付け焼き刃にすぎん」
 領主としてのはたらきは無論のこと、次代が生まれるまで印持ちを産む可能性があるもう一人の寵愛者たる彼女に莫迦が手を出さないとも限らない。何をどう気をつけねばならないか、警護の人数は、やり方は――。指示を出すだけと言えばいかにも楽に響くが、まるで知識ないまま守れとふんぞり返り安穏としていられる人間が対象ではないのだから、と衛士長や、表に出ては来ないような暗がりの護衛らの長にも教えを請うた。……それが婚約者の侍従頭だったのだから、最早笑うしかなかったが。
 とにかく、知識は詰め込めるだけ詰め込んだのだ。あとは山のように写させた過去の事例に当たるか、無知を恥じず周囲に尋ねるか、
「お前に、こうして日々意見を求めねば立ち行かぬような、そんな力量しかない」
 けれど、タナッセは知っている。
 年月を掛け満遍なく学んだ彼と違って、彼女は基礎的な学問を一年で叩き込まれたのみで、ダンスさえもまともに教師の付いた経験がないのだと、籠りを終えた彼女との会話中に知ることになった。
 週に二日、ほんの短い時間、彼女には教師を呼んでいる。だが、本当はもっと時間を費やしたいのだと、彼は知っている。
「もっと自由であって欲しいと、考えてはいるのだがな。もっと、笑って……。なのに、お前はいつも不快なそぶりなど微塵も見せず、いつも一生懸命で、それに私は……救われて」
 だから、と言うタナッセをじっと、じいっと見つめる妻の身体を抱く腕に自然と力が入った。
「だから、役に立てていないなど、ない。ないから、莫迦を言うな」
 言い切ると、真っ直ぐ見上げる黒の瞳から大粒の涙が溢れ出す。目をむきタナッセが些か乱暴に拭うと彼女は口をぽかんと開けて、突然泣かれた焦りからやけに高圧的に泣くなと言い放ってしまう。けれど自身の頬に手を当て、ん、と短く素直に肯いた。
 そして。
 嬉しかったのに、どうして。
 呟かれた。
「……っ! !!」
 タナッセは我知らず叫びかけ、すんでの所で声を潰す。
 単純な話だ。
 嬉しかった。
 どのように彼女の心に嵌ったかは知れないが、泣く程嬉しかったのだ。
 それだけでも全身が燃えるように熱くあるのに、
「ありがとう」
 言いにくいことを言ってくれてありがとう、こんなに自由なのにもっとなんて大丈夫だから無理をしないで、と濡れた眼差しが向けられてしまったものだから、最早タナッセの許容量を超えている事態だった。
 もうこれ以上喋られては彼自身何をしでかすか危うい。手で軽く閉ざさせるのでは確実性がないと、咄嗟に涙の伝う唇を塞いでいた。瞬間、判断の誤謬に気が付いたものの、遅きに失している。
 柔らかな感触を覚えながら早速後悔に沈みかけるタナッセをよそに、彼女は小ぶりな尻を跳ねるさせる動きを取ったが、ややあって、襟や胸の生地を掴んで積極的な反応を見せた。強く唇を押しつけてくる。拒絶する強さでなければ顔を離すことは出来ないと、動くこともままならない。互いの唇が熱を等しくした頃、彼女はようやく顔を離し、全身を、特に脚をぱたぱた動かし始めた。
 ごめんなさい、あの、だから、さっきの……仕事の話の続きをしよう、降ろして、お願い。
 身を捩る動きも混ざるが、こちらはタナッセが全身をしっかり捕まえているせいで半ば円やかな胸や尻を彼に押しつけるだけになっている。
 辛い、の一語で頭を埋め尽くしながらもなるべく無心に努めて、
「もも、元はといえば私のせいだろう。お前が気にすることじゃない。っ、というか、動くと余計降ろせなくなるだろうが! 落ち着け!」
 言い放ってしまった以上履行するしかなく、あまりにも甘美な体温を床に降ろす。
 椅子の脇に降りた彼女は振り向き、先より少し離れた位置から普段より細い声で何度も謝ってくる。
 時間を無駄に取ってごめんなさい、今からはちゃんとするから。今は仕事の時間、なのに、けじめをつけないといけないのに。
 そうして勢いよく首を横に何遍も振ると、締めに大きな肯きを見せ、眉をまた浅く立てた。それでこちらの要望だけれど、と改めて語り始めるものの、表情は幼い雰囲気のままだ。強いて平常心たろうと必死になっているようにしか見えない。
 おかげで彼が本題に頭を切り換えるまで、数度ふくれっ面を拝む羽目になる。
 ようよう一通り説明を終えた妻の元へ、侍従が教師の来訪を告げに来た。そこでやっと、気を張っている際のきつい顔になった彼女を見ながら、あぁもういいか、と、不意にタナッセは躊躇いが消えている事実に気付いた。
 自分にしては相当な話をしてしまったせいだろう、大本は、そもそもの原因は突如、滑らかに音となった。
 つまり。
 妻を狙う諦めの悪い莫迦を思い出し、勝手に苛立っていただけだ、と。
 ついでに、肝心の女性がおかしな色眼鏡をかけているせいで、その種の対象に己がなると考えておらず、一向に警戒してくれないのだ、と愚痴まで添えて。
 嫉妬なのだ、と。
 やはり彼女は、決してタナッセには真似出来ず、字に記せないような可愛らしい声で驚き、首や耳まで真っ赤に染め上げてしまった。
 突然何を、だとか、なんで急に、だとか。
 似た語句が数度細い声で叫ぶように発され、無意味にきょろきょろ辺りを見回し、腕は我儘を口にする子供の動き。
 彼が名前を呼ぶといきなり動きが止まったが、それも束の間。
 私だってたくさんやきもち焼く。どうして最近色んな人に人当たりがいいのか。私の旦那さまなのに。どうして私が初……とにかくとにかく、タナッセだけじゃないのだから。私だって、一杯いっぱいやきもち焼くのだから!
 と、がなりながら慌ただしい音を上げて部屋から出て行った。
「何故……」
 思わず疑問が口から出てしまう。
 何故、そんな奇妙な言い捨てをするのやら。
 だが、一番の謎はタナッセ自身にあった。己のそれは愚かしいと感じたものが、何故彼女のまるで対抗でもしたような言葉には、頬が熱を持ち、口の端が緩んでしまうのか。
 あぁ、と吐息しながら彼は天を仰ぐ。
 全く彼女はタナッセにとって、大切で愛しくて、どこまでも不思議な――そしてそこもまた可愛らしい存在なのだ。










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赤紅と白藍。
赤と青。

牛歩系恋愛。字面も響きもアレですがそんな感じで。
何年経ってもなんか初々しくて、
本人達より周りが何故か照れるという。
あと、急転直下のゴールインはなんだったのと絶対言われている。

ちなみに、大体のSSでうちの主人公は城の従兄弟間については嫉妬しています。
中日噂以外でも耳に入っているだろう&
登場時や舞踏会会話でタナッセと親しそうだったユリリエに、
子供の頃の彼はどんなの?とそれとなく水向けているだろう等々で。
黙っているか(コレ/突っ込まれなかったし藪つついて蛇出したくない)
口にするか(Je te veux/突っ込まれたから嘘も誤魔化しも厭なら言うしかない)の差はありますが。