いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2015年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年9月7日土曜日

【かもかて小ネタ】永遠

【 注 意 】
・『世界の果て』の続き
・相変わらず薄暗い、台詞付きモブが出る



「どう? ね、どー?」
 額に輝く徴戴く子供は天真爛漫としか形容出来ない笑みを浮かべ、その年にしては幼い声音でタナッセに問うてきた。小さな唇を彼の頬に押しつけた直後である。
「すきなひとにするんだよ。タナッセすきーだいすきー」
 返事を待たず子供はタナッセの首根っこにしがみついてきた。空を仰げば青が広がり、周囲を囲むは濃淡ある緑で、彼はベンチに腰を下ろしている。中庭だ。余人に見られる可能性と見られた場合に起こりうる面倒を説いてやれば、子供は素直に眉尻を下げて謝った。普段いかに幼い言動が目立とうともそろそろ十の年を数えようかという印持ちだ。理解は即座に染み込み、子供は彼の首から身体を離すと隣に座り直す。
「やめたよー。だから教えてくれるよね? タナッセは? タナッセはわたし、すき?」
 肩口ほどの銀髪も、藤鼠の瞳も、決して連想させはしない。
 しないはずが、する部分などないはずが、どうしてもある一人の記憶を刺激してやまない。
 向けられる好意があまりに直截なせいか、どうしても思い出す。昔、共にありたいと、守りたいと願ったこどものことを。
 あのこどもは、愚かな真似をした王子に好意を告白した。
 そして彼は、それに応えた。己の父親のようにはしない、逃げない、と。
 約束は従弟の失踪前に行われており、従弟は――こどもへ愛情を覚えるようになっても十七年共に過ごした家族であり、また、彼の愚かを赦せる度量を持ったこどもならば、とタナッセは許可を取った。こどもの籠りより一足早く分化し終え行方くらました従弟の捜索を、けれど何も言わずに出立するわけにもいくまいと、特例でこどもに会い、直接許しを得た。
 勿論構わない、と謝罪する彼に笑みをくれて。
 私こそ謝らないと、と泣き出しそうな困り顔を見せて。
 じゃあね、と終始負の表情しか見せなかった婚約者を穏やかに送り出した。
 従弟よりずっと分化の遅れていたこどもは、その時もまだ未成年の頃とほとんど何も変わらず、捜索の数年間に城を訪れた際も互いの忙しさ故顔を合わせる機会などありはしない。
 だから、こどもは幼い姿のまま、タナッセの中に刻まれてしまっている。
 もう、大人になった彼を、彼女を、知ることはない。
 せめて、と残した伝言には、いつもあの丁寧な、少しばかり癖ある文字が優しく迎えてくれたのに、自死の際には最早何一つ書き記してはくれなかった。言葉ですら、彼女を偲べなかった。
 答えられるわけがない、とタナッセは思う。
 隣で返事を待つ子供の言動が深い意味を持とうと持つまいと。
 けれど、彼の中の別の彼は言うのだ。従弟が子供の親を僻地にやってしまった以上、子供の一番身近な、そして利害を持たぬ大人はお前しかいないだろうに。
 六代国王は、下級貴族である子供の両親を僻地に押し込め、実の親子を引き剥がした。“始末”させなかったことだけが、従弟を見つけた彼が十年の間で成し遂げた唯一であるのだからお粗末極まると、いつでも自分の不出来を嗤うしかない。
 空回りかける唇を意地で抑制し、可能な限り優しさを込めてタナッセは肯き返した。
「あぁ、勿論」
 どうせ、これくらいしかしてやれないのだ。

          *

 もしも。
 万が一。
 有り得ないと思うが、私が仮に王様に指名されたとしても、断ろうと思っている。……許してくれるだろうか。
 こわごわとタナッセを見上げる黒蛋白石の上目に、どうして否を突きつけられようか。元よりこどもを油断させるためが大きかったのだから、王になるのならぬの今更でもある。肯き返してやれば、力を抜いた笑みがありがとうと口にした。
 あぁ、とタナッセは吐息して、こんなでは貴族どもに食い荒らされるのが関の山だ、と思い、
「この程度で一々礼を言う必要はない。……私がしでかしたことを考えれば、当然の権利だ」
 砂糖菓子の微笑みに熱を帯びる顔を逸らすのだった。

 ――――意識が浮上すると、暗闇がある。
 黒の月半ばの真夜中だ。月の色はより暗くなりつつあり、夜の闇は一層濃色になって、夜中目覚めたタナッセは一瞬自身の居場所が分からない。寝台だと、一瞬気付けない。あのこどもの輝く黒とはまるで異なる、墨染めの、身体にこびりついてくるような黒色。
 こどもは、あのあと指名された事実を覆す間も与えられないままに従弟に決闘を申し込まれ、断らなかった。撥ね付けられなかったのだろう。
 そうして、いかな天の采配か、勝利したのはこどものほう。
 下らない男の言葉に心底から喜びを感じてしまうようでは貴族連中のいい餌だ、と思った通り、後ろ盾はなくたった一年分の交流だけを持ち王となった彼女は、守りたかったこどもは、結局食い荒らされてしまった。
 私こそ謝らないとと以前あれは口にしたが、従弟があそこまで行き詰まるより前に周囲の人間がもっとしてやれる行動はあったはずで。
 同じように、一度した約束を反故にした婚約者相手に、もっとしてやらねばならない……向けてやらねばならない態度はあったはずで。
 何もかもが今更だというのに、夢など見てしまったから、全てを隠すように今が暗いから、タナッセは何度目になるかしれない後悔をする。
 ……今でも。
 今でも、ふとした折に、あの小さな姿がタナッセの後ろから小走りにやってくる気がして、振り返る。足音はしない。不安定で、なのに愚かしい程真っ直ぐな足音は、しない。
 しないのだ、もう。
 絶対に。










永 遠/げんそうふうけい










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タイトル元ネタは『yukar~ユーカラ~』収録曲より。
更に大本はkey公式で以前アップされていたインスト曲「折れない翼」。