いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2015年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年5月29日水曜日

【かもかてSS】あめのち晴れの髪長姫

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後、ご挨拶道中
・タナッセ視点三人称





あめのち晴れの髪長姫



 小さな頭が左右に揺れて、単調な歌を口ずさんでいる。
 そのたびふわふわフリルが風に乗り、ひらひらリボンが空に舞った。
 ついでに言うならタナッセの腕に絡められた両腕も揺れるので当然のように頼りなくも張りのある感触を左右に強く覚えることになり――非常に辛い。が、きつく告げても梨の礫というか、むしろ押し付けられたのでもう何も言わないことに彼は決めた。ごきげんな彼女に水を指すのを躊躇った面もある。
 そう、全く彼女は上機嫌だった。理由は大きく二つあるようにタナッセは思う。城の外へ出られるためと、その目的が彼の父親に会うためという、二つだ。同じような旋律を紡ぐ唇が語るのも外出と挨拶に焦点が合っており、間違いないだろう。
 正直、父クレッセと顔を合わせるのは気が進まなかった。鹿車に現在進行形で揺られているものの、作るべき表情も言うべき言葉も、タナッセの中では未だ不定型である。最低限の義理は果たすべきであると理解はしているのだが。
 開けられた小窓に掛かるカーテンを風がくすぐり、伴って小鳥や人の声、雑多な匂いで小さな室内は満たされる。一層、思考は散漫になった。
 だいじょうぶ。
 疑問するようでありながら断定する調子。矛盾を孕んだ、高くも低くもない声音が彼の顔を覗きこんできて言う。
 大丈夫。今日は、配偶者が出来たと報告に行くだけ。だってもう、タナッセは私をあの領地に連れて行ってくれると決めているし、私もタナッセと一緒にあの領地に行くと決めているのだから。新しい家族になるのではなく、新しく家族を作りに行くのだから。
 城で聞く音楽とはまるで異なる素朴に過ぎる調べを奏でていた唇は、歌の名残か微かに音楽的な抑揚を持っていた。ささくれたタナッセの心を穏やかに撫でる響きだと感じる。先の即興歌も、歌詞はともかく歌声は暖かく心地よい。
 浮かべられた表情は、いがみ合っていた頃よく目にしていた眉尻や目尻の釣った気の強うそうなそれではなく、どちらも柔らかに下がったもの。気を抜いた微笑みと呼べるもの。一層タナッセの腕を強い力で抱いてきた彼女は、子供のように純な笑顔は、しかし僅かに申し訳なさそうに続ける。
 でもごめん。私、とうさんって――とうさまっていうの、どんなのかちょっと楽しみでいる。私の前に現れるとうさんは、私を嫌ってる村の人か、私におもねってくる貴族だから……タナッセの父様のクレッセさんが、そういう方でないといいのだけれど、と。
 タナッセの意識が数瞬空白を得、次に、あぁそうか、と納得する思いが生まれた。彼の親であるから嫌われたくないし、寵愛者だからと変におもねられるのは厭なのだろう。
 そして。
 彼女には父と呼べる存在の記憶が無いから、不安はあっても、自分の父でなくとも、「父親」という人物に会えることが――――
「過度な期待はするな。ご機嫌伺いをするような性質の男ではないが、とぼけた男だ」
 タナッセは思考を寸断するため、口を開いた。
 だが、一言を付け加える。
「とぼけた人間だから、まぁ、私のようにのっけからお前に負の感情を抱いている、なんてことはあるまい。……気負う必要は、ないからな」
 長い伏し気味の睫毛の奥、宝石めいて輝く黒の瞳が上目に彼をじっと見つめたまま、一つ肯いた。
 ありがとう。タナッセはやっぱり優しい。
 はにかむ彼女の告げた内容に、頬が瞬時に熱を帯びる。タナッセは意味のない単語を散々まき散らしたあと、ようやくこれだけ言ってやった。
「っ、お前、莫迦もいい加減にしろ。そんなでよくあれだけの評判を勝ち取れたな!」
 けれども彼女は荒い語気も気にせず、知らなかったのかと花が綻ぶ笑顔で返してくる。
 私はタナッセの前でだけ、完全に気を抜いて、一つの気負いもなく、莫迦でいられるのだ、などと。
 そうして彼女はいつものように、彼にまろやかなかたちの頬を擦りつけてきた。懐き、甘える仕草。美しい彼女のあどけない様を目にするたび、タナッセの頑なな部分がほどけていく気がする。全く、彼は聡明で品のある女性を自身の好みに据えていたはずなのだが。
 堪らなく甘美な心地で柔らかな感触を覚えていると、ふと先の彼女の言葉が脳裏をよぎった。
「新しく家族を作」る。
 過失とはいえ、命を奪いかけた相手を赦し許す彼女がいずれは妻になり、やがては二人の子供が出来るということ。額にあるいは、と恐れる思いがないなどとは口が裂けても言えない。ないが、何より思ってしまうことがある。彼女によく似た、真っ直ぐで優しい、強い子が欲しい。
 タナッセに似てる部分も欲しい、私も母さんにだけ似てる訳じゃなく、父さんにも似ているらしいし、きっとそうなってくれると思うけど、と。
 そんな異議の声が上がった。無論それは、近い将来、妻となる女性の声。音にまでしていた自身の願望の強烈さにタナッセは短く唸る。一方、彼女はまた小さな頭を左右に揺らしだした。歌を口ずさむ。大きく異なる旋律で、歌詞にはどこか聞き覚えがあった。
 澄んだ湖の笑みを浮かべる彼女が微かに瞳を潤ませ紡ぐのは、ある古いふるい童話を基盤にした、やはり古い――三足族にルラントが現れる以前の歌。元は他種族の物語なのだろう。字面で見たことはあるが、耳慣れない単語が交じる。話の、詩の流れ自体は至極単純だ。魔に属する存在のせいで波乱がありつつも、最終的には幸福を得る男の王子と長い髪の乙女。
 タナッセは咄嗟に何事か口に仕掛けたものの、しばし考えを巡らせたあと結局思うがままにさせた。歌は、途切れる以前とは別の形で続いていく。
 彼女が歌い切る前にヨアマキスの邸に到着しなければいい。タナッセは聞き入るために瞳を閉じる。風は幾度も鼻先をくすぐるが、耳に届くのは彼女の蕩けた甘い声音だけになった。外からの雑音は、囁くような歌声を超えては来ない。ただ彼女の音だけを感じている。
 再び目を開けた時は父の待つ家屋敷にいるのだろうと考えても、もうタナッセの心は凪いだままだった。










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男の王子、とか三足族じゃなきゃ成立しない表記ですな。
女の弟、とかもそう。

取り敢えず二人は三年から五年くらい、
新婚気分どころか恋人気分で突っ走っててもいいんじゃないかと思ったりします。
まともな婚約者時代とかなきに等しいですし。
あの界隈政略結婚多数ですけど、
恋愛婚約でスタートしてたら
蜂蜜も足を生やして逃げるデレドロ空間だったと信じてやみません。

しかし当方の主人公氏はあんまり長く婚約期間があったら勢い余って押し倒してそうです。
タナッセはなんだかんだ言いつつも、結婚までは我慢する気が。
奴は「こうであれかし」ががっちり脳内にありそう。
まあ食べ物とかでもあんま発酵させると瓶の蓋がフッ飛んだりするので、ほどほどが一番かと。