いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年5月26日日曜日

【かもかて】てんのまにまに


【 注 意 】
拙二次SS『SUB ROSA』の没ネタ回収、前提設定はそちら参照でお願いします
・タナッセ視点三人称、行かない話行く話





てんのまにまに



 木に登る、という響きはタナッセを憂鬱にさせる。
 運動は世辞でも得意とは言えず、けれども従兄弟たちは揃って軽やかに高みを目指していくし、もたついていれば急かされるのが常のことだ。
 この差はなんなのかとタナッセは歯噛みしながら思う。母は武芸にも秀でており、従兄弟たちも――年齢の関係でヴァイルはやや危なっかしさがあったが――彼を置いて器用に枝を幹を伝い、進んでいく。対してこちらは地表付近の幹と枝に遊ばれていた。
 遅いおそいとヴァイルとユリリエから声が投げかけられ、仕方なしにタナッセは再び茶の木肌に手をかける。が、その声には今までないものがくっついていた。
 二人して、と。
 自身と先を行く従兄弟たちに気が向かっていた彼は、そこでようやく目を移す。タナッセよりいくらか先の枝で一休みしている存在。最近遊びの輪に加わるようになった、ヴァイルと同い年の少年に。
 義弟となった彼はタナッセを見つめていたが、
「もー! きいてるの?」
 頭上からの言葉で不満気なヴァイルに顔を向け直した。二度肯き、待たせてごめんと謝った彼は小首を傾げたあと、小さな掛け声とともにまた上を目指し出す。タナッセの目にも慣れた動作に見える。だが、すぐに止まった。上を――従兄弟たちというよりもその先にある蒼穹を見やり、次にゆっくりと地面ではなくタナッセへと物言いたげな口と視線を見せた。
「……なんだ」
 短い問いに、ようやく言葉が発せられる。
 誰かと一緒に木の上に登ってみたいと考えたこと、あった。今は、誰かと一緒でないと登りたくないって思ってる。タナッセが高いところ嫌いなら、このまま降りたいと考えてる。……見てるから、行きたいように見えるけど、どっち?
 可愛のがないしっかりした口調と裏腹に、籠められた感情と告げる表情は泣きそうなぐらいにしょげかえっていた。返事をするより先に、へぇ、とユリリエの笑いを含んだ納得がタナッセの耳に届く。悪寒が走った。今までの経験からすると、碌なことにならない。
 しかし笑いや納得の意図を問うのは愚行だとも重々分かっていたのでそちらは聞き流し、
「今一お前の言っている意味が掴めないが、登らないと酷い目に遭わされるからな」
 分からないながらも義弟の声には答えると、へぇ、というユリリエの響きが今度は低く落ちてきた。固まるタナッセに、待ってる、と義弟が呟きを漏らす。
 今日何度目かしれない嘆息を軽く吐き出し、タナッセはうろの部分に足を掛けた。
 待ちかねている従兄弟たちの声援――としておく――を尻目に義弟の近く枝に腰掛けた時には、正直もう上を目指したくはない気持ちが強くなっていた。ヴァイル達の居場所を見上げると、やる気がしぼむ。
 降りようか。
 じれったげなヴァイルとにやつくユリリエに顔を向けたまま、タナッセは彼の張り詰めた声を聞く。
 僕は、別に、だし。登っても木だし、木じゃなくてもいる訳ないし、木のてっぺんに行かなきゃ酷いことされないとかもうないみたいだし。だから、二人には悪いけど、悪いけど――。
 言い募りは中途で終わった。半端なまま先が告げられないから何を言うべきかもタナッセには見当がつかず、促すべきか、自分の運動能力と相談して返事をすべきか考えることにする。
 けれど、思考は従兄のからかいを乗せた調子で中断させられた。義弟の名を呼び、ユリリエは言う。
「そこまで言えたのに、諦めるんだ。そこに居ることにしたのに、やめるんだ。ま、タナッセはこっちしか見てないしね。――ねぇ?」
 最後の疑問形だけ、ユリリエはタナッセに笑顔を寄越してきた。
 僕は見てるから、と。
 義弟の上方への強い語調でようやく「こっちしか見てない」の意味を悟り、タナッセは空の方ばかりに向いていた顔を自然な角度に戻す。そして、改めて義弟の、柔らかさの足りない頬へ視線をやった。彼の黒い瞳は真っ直ぐタナッセを見つめている。唇が軽く引き結ばれている。眉根は寄せられているが、眉尻は吊り上がってはおらず、むしろ限りなく垂れ下がっている。
 話をしている相手を見ないというのは明らかに軽く流した風であるのだから当然だろうとタナッセはその辺りを謝罪したが、義弟の表情はさほど晴れない。疲れたから先に降りていると言って一人下って行ってしまう。
 取って付けたような疲労の言い訳に、タナッセもため息一つで付いて行くことに決めた。上で待つ従兄弟たちに悪いとは感じたが、ユリリエは初対面の年下相手に終始あの態度であり、義弟のことに関しては母リリアノ直々によろしく頼まれてもいる。
 そう、タナッセが追わないと、どうにもならない。
「なんで? なんでおりてっちゃうの? もーもーもー、つまんないー」
 ヴァイルもとうとうへそを曲げてしまい従兄弟二人も降りてくる様子だったが、見上げている余裕など、急ぎ手足を動かすタナッセにはさっぱりなかった。










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お前のかーちゃん魔の国行きー、とかなんとか。
注意記載通り没ネタの一つだったのですが
もったいないなーと日和ったので手直ししつつサルベージ。
海に行「け」ない二人(外伝ですな)と
山(今回は高い場所)へ行「か」ない二人の対比話の一環だった。



アレ書いている最中真っ先にシーン切られるのがローニカ、サニャで
次点で切られるのがユリリエでした。
ヴァイルは主人公視点ならあの1.5~2倍は出た、使用人ズやユリリエも同様。
(タナッセ視点だともうヴァイルは外伝時系列で書くことほとんどないので
 彼視点の時点で出番は少なく切る以前だった)