いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2015年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年4月14日日曜日

【かもかてSS】青色アンジャベル

【 注 意 】
・タナッセ愛情ルート、生殺し後かつ篭り前
・恋は盲目/いっぱいいっぱい、ぬいぐるむ
・タナッセ視点三人称


青色アンジャベル



「……それはなんだ」
 部屋を訪れての第一声としては礼を失している自覚はあったが、タナッセは眉根を寄せて問うしかなかった。部屋の主はなるべく優しい態度で接したいと思っている相手だ。問いただすような調子になり後悔を覚えもしたものの、部屋の主にして寝台で上半身を起こすこどもは頬を薄紅にしながらも花がほころぶような笑顔を彼に向けて、僅かに覗けていた“それ”を掛布の下からタナッセへ両手で突き出してきた。そして端的に言う。
「タナッセ君三号……!」
「だ、だから何を……何故、どうして、そんな代物を作ったのかと聞いているんだ!」
“それ”は人の形を戯画化したような見目のぬいぐるみだった。おおよそ二等身から二.五等身。釣った眉に丸い目、への字の口はさておき、他の部分はタナッセが鏡石でしょっちゅう目にしている存在に似ていた。大きく左に寄せられた前髪だとか、右肩にかけられた薄布だとか、短い手が持っている詩集と書かれた書物だとか。
 というか、三号ってなんだ。一号と二号が既にあるのか。第一倒れたと聞いたのに案外元気だなお前。タナッセは思ったがひとまず眼前の疑問が優先して口から発された。
 こどもはやはり敷布の下に隠しておいたのだろう針道具を片付けながら、上手く言えないのだがと考えるそぶりを見せる。何度か唇を空回りさせたあと、一つ肯きタナッセを窺うように上目で話し始めた。その様子に胸が高鳴るのは年上としてどうだと彼は唇を引き結び、けれど話の中身は比較しようもないほどとんでもないものだった。
 この前調子を悪くした時、タナッセがすぐに帰ってしまってとても寂しかった。それだけでも充分哀しかったのに、これから少なくともひと月、下手するともっと長い期間苦しくても会えないとなると、どれぐらい辛いか分からない。だから。
 こどもは喋っている間からずっと恥ずかしそうにしていたが、言い終えればとうとうタナッセ君三号とやらに顔を埋めて俯いてしまう。言われたタナッセも羞恥で逃げ出したかった。
 ただ、顔を伏せながら呟かれた言葉が相変わらずきつかった。陰険なところなどもよく出来たと、心底嬉しそうにタナッセ君三号に一層強く抱き締めるこどもには取り敢えず問いただしたい。陰険そう、ならまあ今までこどもへしてきた仕打ちを思えば否定出来たものではないが、陰険と言い切られては一言もの申したくなる。というか他にも言いたい部分が山積しすぎて追いつかない。
 結局タナッセはあどけない表情のこどもを前に文句の類を全て喉の手前で潰し、
「その……名前からするとそれは三つめだと思うのだが、残り二つはどうしたんだ。試作品か何かだったのか?」
 問いにこどもは顔を上げて、半分だけは肯定した。一つめはまさに試作品、ただし二つめは大きさ違いだという。幼稚にも持ち歩きたいと考えてしまうかもしれないから上着の下に隠れるようなものを、と、消え入るようなか細さで口にする。
 ぐ、と喉を鳴らしながらタナッセは思った。先程から新手の拷問めいた心地を覚えているが、あけすけに白状し続けているこどもの頬もどんどん赤さを増していて。……いっそ誤魔化せばよいものを、しない。そもそも最初の段階で、隠そうとしている物なのだから見ないふりをしろ、と怒っても良かったはずだがなかった。恥ずかしいだろうに素直に答え続けている。
 思考がそこに至った瞬間、痛痒い感触がタナッセの背に一気に広がる。脂汗が吹き出る感触だ。焦っていたという言い訳はある。あるが、見舞いに来たくせに自分はずっと気遣いに欠けた言動ではなかったか。
「…………」
 まずい、と謝罪をしようとする彼の態度を勘違いしたのだろう。眉尻を下げた相手に、もうすぐ大人に成るのに子供っぽくてごめんなさい、でもこんな行為は今回で最後にするから安心して欲しい、と先に謝られてしまった。
 いや私の方こそ配慮が足らなかったお前が誤ることではないと口にしてはみるものの、取って付けた感は否めない。タナッセは初手を誤ったつい先刻の自身の頭を殴ってやりたい気持ちにかられる。
 お見舞いに来てくれて嬉しかったと、こどもはどこか苦さの漂う笑みで場を締め始めた。まずい、と再度思う。力なげな表情を見ればタナッセの言動が悪手を選び続けたのは明白だ。このまま部屋から立ち去れるものかと強く感じながらも、何を言えばいいのかは欠片とて考えつかないまま口を開く。
「待て! そのだな……と、とにかく待て!」
 彼自身無様と痛罵したくなる言い様だ。しかしこどもは二つ返事で素直に待った。
 何を言うか考える時間こそ出来たものの、謝罪は時既に遅しというか、誤解なく伝えるだけの技量をタナッセは持っていない。悩みながら死線を彷徨わせると、敷布に覆われたこどもの膝上横たわるぬいぐるみが目に入った。入ってしまう。タナッセに長期間会えないことが辛いなどとこどもが考えた故の産物が。
 ――彼の焦りの原因であるのに、打開するための要素を与えてきたのもまたそれだった。
 えぇいままよと、逡巡を振り払う勢いでタナッセは今までの自身の態度を打ち払い、けれど彼の耳や首までをも熱に包む言葉を紡いだ。
「つ、作れ」
 何を、と目を丸くしたこどもが尋ねてくる。
「おま、お前が私に会えないだけじゃないだろうが! そ、その、私もだな……」
 え? と語尾をかすれさせるタナッセに小首を傾げられてしまう。
「だだ大体だな、用済みになったらあれか、どうせ捨てるのだろうそれらを。だから……そう、そうだ、自分を模した物品があっさりと捨てられるなど最高に気分が悪い。悪いから、な」
 言いたいことが掴めない、と困惑を深める姿に最後の言葉を伝える。
「だから、お、お前の人形も作れ。……お前とて自分の似姿を捨てられるのは躊躇うだろうからな、あぁ、簡単に捨てられないようにしてやる」
 私は、と。
 こどもは首を横に振る。
 私は自分の姿などいらない、鏡石でいつでも見られる。
「っ……! 莫迦か、ももも持つのは私だ。お前が私の似姿を捨てるなら、私もお前のそれを捨ててやると……!」
 タナッセはそこまでを言い切ってしみじみ死にたくなった。全てをなかったことにしたくなる程度には酷い理論である。意味が通っていない。成人男性が、しかも自身がぬいぐるみを所持する光景というのも凄まじく、一周回って笑えてすら来た。拳を爪が食い込むほど握り込んでも痛みが薄いぐらいに羞恥が全身を覆っている。
 そんな彼の耳へ、不意に甘い声音が滑り込む。
 おそろい。
 いつの間にか逸らしていた顔を、彼が甘やかな音を零したこどもに向け直すと、こどもは泣き出す一歩手前の面で、それでも真っ直ぐ彼を見つめて微笑んだ。視線を合わせたタナッセに、ばか、と呟く。貶す意味しかないはずの単語はやけに柔らかくタナッセの中で反響する。
 そんなこと言われたら本当に作って押しつけてしまうじゃないか。
 続けてこどもは言った。
 あぁもうこれで後戻り出来ないと、タナッセは吐息を漏らした。
 彼だって、そんな顔で微笑まれては発言の撤回など叶わない。





 しばらくのち、件の品を受け取ったタナッセは散々悩んだ挙句、目につく場所へ置くことにした。
 寝台で共に寝るのはいささか難易度が高すぎるが――その日こどもと短くも大切な時間を過ごした彼は仕舞い込む選択肢を選べなくなってしまったのだ。あれならともかく不似合いにも限度があるだろうと、自嘲しながらも彼は決めた場所に、存外大きかった物を据えた。
 こども曰く私二号とやらは、机の上から持ち主をじっと真っ直ぐ見つめてくる。
「これから少なくともひと月、下手するともっと長い期間苦しくても会えない、か」
 音にする気もなかった言葉は口をついて出てしまう。
 全く、不似合いだわ子供っぽいわお為ごかしだわ、布と綿で出来た人形などあったところでどうしようもない。だが彼は、正解だったのかもしれないと思い直し始めていた。こんなぬいぐるみ一つでも、ないよりはきっと、遙かにましなのだろう。










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花言葉は永遠の幸福。
このブログの中でも一、二を争う勢いで
子供っぽいor少女趣味な主人公かもしれない。