【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・成長中。一部が。つまりバ会話、タナッセ視点三人称
抱え咲きの椿
長い髪の両脇を結い上げるでなくただまとめ、紅と真白のリボンが頭部に二つ。
薄く細く脆い基礎と、乗るべき場所へは上には豊かに下へは適度に肉が乗った女性らしさを覆うのも、やはり同色のドレス。
肌の雪花石膏と豊かな黒玉の髪と、黒曜石の瞳。
互いが互いを映えさせた。
ただ、今彼女の瞳の黒は純粋に一色ではない。黒蛋白石に似て碧が見える。つまり、
「……な、何をじっと見て……くっ、言いたいことがあるなら言え」
タナッセは隣に座る妻に、半眼かつ無言で見られていた。彼女は身を斜めにする形で彼を上目で見て、しかも唇を子供っぽく尖らせて更に迫ってくる。物理的にだ。長椅子上へ並べて置かれた両腕で中央へ寄っていたふくらみが一層押しつぶされ、どうにも有害だった。彼女はあまりかっちりした骨組みのファウンデーションは好まないためにそうなる。だがそれに顔を熱くすると、尖った唇が一段と高い形を作った。
彼女は休息時間に部屋隅へ置かれた長椅子にタナッセを連れてきて以降、長らく唇を引き結んだ表情のまま半眼を向けたまま黙りこくっている。最初は恥じらいの強かったはずが、最早怒り出しかねない程に眉を吊り上げていた。さっぱり分からんとタナッセは背に脂汗をかく。
「おい、……おい」
私は何かやったか、と記憶をさらうも、今日の行為に思い当たる節は皆無だった。何度もなんども総ざらえしたのだ。間違いなどあるはずないと、タナッセは内心肯き、それにしてもと思考を移す。彼女が着ている衣装は少々身に添いすぎてやしなかろうかと、
「まさかとは思うが――外れていたら殴っても構わんが、いやともかく。朝していた衣装合わせで何かあったのか?」
「――――っ!」
彼女の頬が瞬時に紅潮した。それはそれで綺麗だなと見とれるが、首を振ってタナッセは思いを払う。そんな場合か。
ゆるんだ唇の隙間から、擬声語じみた言い表しづらい音が断続して発された。そのあと、
「また大きく……」
片手で彼女は胸元に触れる。
作り直しになった。胸回りが入らないと言われて。タナッセはする時にここを触ってばかりだから、だが大きくなったと知らせることになるから羞恥も強く、つまりはだから、タナッセのせいだ。
「ぐぬぅ……」
詰まりながらも抜ける音がタナッセの喉や噛んだ歯の間、あるいは鼻の奥から漏れた。頬どころか全身くまなく熱くなり、汗も同様。昼間に言う話かと思い、いやだが夜にしたら流れで違う事態に陥るしなと考え直す。
一番初めの夜、好きにされてもいいというかむしろ好きにしていいというかどれも少し違うな、好きにされたいんだ私は、と丸投げの許可を彼女は口にした。よって――結構素で忘れがちだが――タナッセが注意して自分を抑える必要がある。
身体同士が僅かでも触れ合っておらず助かった、と彼は嘆息した。
しかし現状はまるで解決していない。
とはいえ、何をどうしたらいいのか。
大きいのが厭なのか作り直しで負担を掛けるのが厭なのかそれ以前に揉む頻度を減らして欲しいのか。
確かに大きいが全身と不調和を来す程ではない。衣装の作り直しに関しても、篭りを終えても成長著しい事例はあるので考慮してある。
揉むのは……最中触れていない部分はないが、終盤、比喩で言うなら食べたり食べられたりしている辺りで触れるには腰など頼りなく、選択肢は柔らかな三ヶ所に自然となる。頬か胸か尻。が、そんなことは言えたものではなく、元より彼女が口にしたのは理由の問いではなかった。
二つはまだしも最後の仮定が合っていた場合、進退窮まった感がある。時間的に寝台での話は言いたくはないが、心情的には瞳を揺らしている彼女へ善処すると言ってやりたい。寝台ではなかった経験もあるが今は捨て置く。
悩むタナッセに、弱ったような妻の呼びかけがある。
ごめんなさい、八つ当たりしてしまった。私自身は特段こだわりなどないが、あなたの好みの大きさから外れてしまったら厭だと思って、なのに不可解な言い様も取った。
タナッセは内心拳を握った。
最悪は免れた、と。
だが、言葉は続いた。
だからその、もう少し大きくなったとしてもタナッセの許容範囲だろうか。
脅威としては取るに足りないはずのそれは、一度安心を叫んだ心を思い切りひっぱたいた。
「おおおおおま、貴様、」
妻へ訴えたい内容は山とあり、喉を塞いだ。どもる彼に首を傾けた彼女の指通り良い髪が幾筋か唇にかかる。彼女は微かに鬱陶しげな雰囲気を漂わせ自分で髪を払った。タナッセは懐かしさを覚え、焦りと慌てを一瞬忘れて笑みを零す。髪を払う際の棘ある無表情の雰囲気が、二人していがみ合っていた頃見ていたものとよくよく似通っていたためだが、無論妻に伝わるわけもない。
彼女は顎を引き、見上げの度合いを強くする。どうしたのか。
「いや――」
答えかけ、あぁなんだ、とタナッセは苦笑する。
確かに好みはある。理想。夢想とも言うべき像が存在はしている。けれど、彼女は、こどもは、重なっていただろうか。異なっていて、しかしなお愛しいと感じたのではなかったのか。愛おしいと感じていたと、気付かされたのではなかったのか。
ならば返すべき答えは一つであるし、品なく直截な物言いをせずとも問題はない。見苦しく言葉に詰まる必要性はなおのこと。
とはいうものの、やはり彼にとっては不慣れな行為だ。
今の二人の関係性において、積極性は目の前の小さないきものが所持している。故に、耳に唇を寄せた。どんな小さな声でも届く距離で、告げる。
言い終えると妻は火照った全身を彼に預け、呟いた。
タナッセは時々とんでもなくずるい。
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グラドネーラ通神帯検索上位:あの王子(リアルタイム反映)
(元ネタ:境ホラ。実際あの世界に通神帯あったら実際常時高い位置にいそうですが)