いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2015年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年3月23日土曜日

【かもかて小ネタ】子守唄一つ心に抱いて

【 注 意 】
・タナッセ友情(印愛高、好愛上昇中)
・タナッセ的には主人公が何故あの応対で仲良くしようと思ったか
 プレイヤー的には何故あの対応で初っ端から印愛に振れたのか




子守唄一つ心に抱いて



 軽やかな足音。
 同じくらい気安げな声掛けは、彼にとってもう得られないだろうと思っていたものだ。
 回廊の向こうからやってくる、タナッセの姿に足早になったこどもは好意を隠さぬ視線を向けてきた。無防備としか言えないこどもが話すのは他愛もない日々の出来事で、タナッセの、時には皮肉を交えた相槌へは達者に言い返してくる。言い返しする際の少し偉ぶった調子は年相応に見え、笑みが浮かんでしまう。こどもは流れにそぐわぬ反応に目を丸めながら小首を傾げるが、真実を告げればむくれる気もしたので代わりに更なる皮肉を重ねれば、習い立てだろうこなれない語句も用いて眉を浅く立てる。
 タナッセにとって初めての友人である三つ年下の彼は、どう考えても酷い態度を取っていた出会って間もない相手へ、不審を抱くぐらい懐いてきた。疑問はあったが尋ねたためしはなかったなと、会話の区切りの良いところで口を挟む。
 こどもから返ったのは気の抜ける音。声だとすぐに分からないような複雑な音が口から漏れて、唐突、と次に単語だけで反応された。流れを断ち切る問いだったのは確かだと目を泳がせるタナッセを他所に、私は構わないがあなたには気分の良くない話にはなると眉根を寄せて言う。
 意味するところが掴めないが、
「いや、他人に言い難い話であるなら――」
 そう留めかけ、しかしこどもは半眼で切り捨てた。
 タナッセは友人だし、全くの他人ならともかくあなたには別にいいと言った。というか、根性曲がりとしか仲良くなれない変人だと勘違いされたくもないので言う。言うことに決めた。
 演劇のように大袈裟な動作で腰に手を当て鼻を鳴らすこどもは最後に言い放つ。
 聞いて後悔するといい。
 思わずタナッセはため息を吐いた。盛大に墓穴を掘った。
 こどもの話はごくごく簡潔に為される。
 箇条書きや年表にも似た、味気ない語り。
 表情も同じく淡々としており、感情の表れやすいという彼への印象を揺らがせた。
 ただ、おかげで衝撃が少なかったのも確かだろう。内容そのものは、確かに先の忠告通り気分の良いものではなかったのだから。
 単純と言えば、それは単純な話だった。
 父親がどこの誰とも知れぬこどもと、口に出来ない相手と関係を持ち子を成した母親。しかも、他所からやってきた親子。村では母子ともに煙たがられており、しかし生きて行くには村の仕事をこなすよりほかなかった。こどもは物心つくより以前からの環境故当たり前の顔で慣れていくが、母親は違う。鬱屈は溜まるだけ溜まっていくが辺境の小さな村にそれを発散出来る娯楽など望むべくもないとなれば、何を持って鬱憤晴らしをすればいいのか言うまでもない。何しろ、自分より弱い者は身近にいるのだ。そしてこどもは、物心ついた頃には既に与えられていた母親からの心身の痛みにも慣れていく。人間常に不安定でいられるわけもなく、親らしく優しい時もあったため、こどもは彼女を存外好きでもあった。
 それでつまり、とこざっぱりした口調がタナッセへの回答をする。
 苦しい胸の内を誰かにぶつけてしまう人というのは、結構辛い状況だとそいつは母親の死を――自殺をきっかけに考えるようになった。だから、タナッセもきっと大変な苦労を抱えた人間なのだろうと思い、嫌いになどなれなかった。
 包み隠さず明かされたのは、いっそ無味簡素な調子が雄弁に物語っている。ただ、同情なのかと冷える思いもあってタナッセは非難に口を開き、けれどもこどもが頬を染める方が早かった。
 むしろ、タナッセのことは最初から好きで。
「何故そうなる。お前、私をからかって……いないな、いないのだな、分かったからその目をやめろ」
 後半宥めに入ったのは、一気に理解不能が脳裏を埋め思わず鋭い物言いを取ったタナッセを見上げるこどもの表情が、一瞬で生硬なものに変じてしまったためだ。詩歌にも興味を持つこどもを対等と感じながらも、こんな時思うのだ。あぁ、これは三つも年下のこどもだったな、と。
 上目に彼の様子を伺ってくるこどもはさて、何を言えば機嫌を直して、いや、妙に幼い仕草をやめてくれるだろうか。
 友人として対等な様も、年相応にこまっしゃくれた様も、今のように年よりあどけなく見える様も、いずれも決して苦手ではない。ないのだが、最後の言動には妙に弱い。
 全くどうしたことかとタナッセは吐息しながらこどもが喜びそうな話をしてやるべく頭を悩ませ始めるのだった。










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タイトルの元ネタはCoccoのアルバムタイトルから。