いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2014年5月18日日曜日

【かもかて小ネタ】花のかたち

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・タナッセ視点三人称、そうだ南へ行こう


花 の か た ち



 けど、本当にいいのか、旅行なんてさせてもらえるのか。
 弾む声音、はにかんだ笑顔。
 彼が――タナッセが、あぁ勿論と肯いて、自分がそうしたいのだと続ければ、笑みはとうとう目をなくす満面のそれになる。曇りも穢れも歪みもない表情は見る者を幸福にしてくれる。これ程にあどけない面を持った人間だと気付けて、こうして自らの手でそれを守ることが叶って、日々安堵しているなど妻はきっと知らないだろう。
 タナッセの師匠がいると教えて貰ってから一層行きたくて堪らなかったのだ。でも難しいだろうと思っていたから嬉しい。嬉しい。ありがとうタナッセ。
 一度長椅子から立ち上がった彼女は、彼の左太股を挟み込む形で座り直す。身を預けてくる。
 己を律し続け、幼さなどという代物はとうに置いてきたと言いたげだった。子供なのに表情は醒めきっていた。だから、あの愚行以降に溢れ出した頼りない様には驚いたし、こども自身戸惑う様子に見えたことには困惑もした。
 擦り寄ってくる、柔さと脆さを併せ持った身体。タナッセは確かな存在を伝えてくる彼女に腕を回す。
 あぁもう、今の私は莫迦みたいに浮かれている。小さい子のようだ。恥ずかしい。最近自制が上手く働いてくれない。
 かつては彼女自身無意識のうちに閉ざして心の奥底に沈めていた、子供の側面。汚れて清さが失われてしまうことなどありふれており、そのまま喪われてしまうことすら大人の諦観としては普遍的で。切り捨てるは容易いが、たとえばタナッセのように芯から捻くれきってしまった彼女など、想像するのも苦痛が走る。
「その、なんだ。お前は当分それでいい。構わん。……むしろ」
 先を言うには羞恥が勝った。
 代わりに彼女を抱き締める力を強める。
「とにかく、再来週だ。あぁ、手配は全てしてあるからそちらに関しては気にするな」
 ん、と短い返事からしばらくのち。
 母さんがどんなものを見ていたか、タナッセが何を見せてくれるか、楽しみに待っている。
「……精々期待に応えねばな」
 長らくああでもないこうでもないとこねくり回した計画。趣味嗜好の傾向は似通った部分もある。しかし自信は薄く、自然答えは歯切れ悪いものになった。
 だが、鈴の音に似た短い声が届く。
 笑い声の類と気付いたのは、腕の中のあたたかさが言葉を紡ぎ出してからだ。
 タナッセなら大丈夫。絶対に。
 タナッセの足に座っていてすら腕の中にすっぽり収まる小さな存在の、端的で単純な信頼表現は、今日もこうして不甲斐ない彼を掬い上げる。










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タイトル元ネタ:新居昭乃の楽曲。