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2013年12月11日水曜日

【かもかてSS】連理の誓いを/御伽話

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後、タナッセ視点三人称
・表裏一体どちらもきみで、成人向け

 「連理の誓いを」直後から開始です


連理の誓いを/御伽話



 あの、と。
 食事を終えた彼女は火照った頬を冷やすためか窓近くの壁に背を預け、おずおず声を掛けてきた。
 今夜は、たくさんタナッセを感じたい。あなたで満たして欲しい。……一回蝋の灯りが消えるぐらい何度もしたことがあるけれど、あの時以上に。
 ――普段であれば。
 つまり、こんな席が用意されて、あまつさえ贈り物など渡されていなければ。
 タナッセは申し出を羞恥に沈みながら呑むなり限度を考えろとがなるなり出来たろう。
 だがあらゆる状況が積み重なっており、感情を現在値より積載するのは無理があった。
 つまり。
 つまるところ、彼は昨年の転機ののちの地下湖同様に、我慢を働かせられなかった。
 もしかしていきなり今からするのか、と慌てる彼女の唇を、塞いだ。
 舌を差し入れながらうなじを、背筋を指でなぞると、胸の辺りの布地を握っていた彼女の手がタナッセを押してきた。浅く身を捩る動き同様逃れようとする動作だが、始まりの頃にはよくある態度であるから彼は気にしない。むしろ、と口を離し言ってやる。
「気持ちが良すぎてこわい、だったか? こうして嫌がるのは。……逆に酷くしてしまいそうになるから、少し落ち着け」
 彼を見上げる瞳は潤んでいた。ふた呼吸の間、彼女は何も言わずそうしていたが、ごめんなさい、と彼の手を取り自身の胸のふくらみに当ててくる。
 自制しようとしてくれているあなたには悪いけれど、今日は、ううん、これからは、むしろして欲しい。酷く、して欲しいと思う。タナッセにならいくらでも。……気持ち良すぎておかしくなった私でもいいのなら、いくらだってあなたでおかしくなりたいのだから、本当は。
「……ん、」
 甘く揺れる声が、最後にタナッセの五指を押し込んだ。そのまま揉みしだいてしまえと言いたげに二度三度と身を寄せてきたものだから、言葉に辛うじて耐えてきたタナッセも限界だった。先より乱暴に口付けし、わざと音を立てて懇願を紡いだ彼女の舌に己のそれを絡めしごく。男の手でも余る豊かな胸を、弄ぶのと同然の身勝手さで捏ねるように揉んだ。
 追い立てる求めに、元から反り気味だった小さな身体は一歩後退してしまう。ぴったり重なり合った唇からは、それでも飲み込みきれない唾液が一筋を描き、差し出した胸の頂を彼の指が掠めるたび身を震わせ――けれどもまだ出来ることはあると、タナッセは彼女の足を割るように引かれた分と追い込むための二歩を踏み込んだ。
 いつもと、と。
 一息付こうと離せば、愛らしい唇は、荒い息で疑問してきた。
 いつもと違う。いつもは、順番にしてくれるのに、こんな一緒に、一度にしたら、したら……どうして。
「……それは、愚問だろう」
 割り入れた足で敏感なところを擦り上げる。解放された淡紅色は喘ぎを零し、まだ入ってないのにこんなの本当に、とかぶりを振ったが、足の動きも指の動きも止める気などさらさらない。つい先程、彼女自身が口にした通り、望んだ通りにしただけなのだから。
 でも、でも、と言い募る声が上がる。嬌声に邪魔されてその短さですら苦しげな耳朶をタナッセは甘噛みした。
「っ!」
 びくりと跳ねた彼女の耳の穴を舐める。ここも妻の弱い場所だ。甘い声が止めどなく溢れ、彼女と交わし合う口付けは堪らないが、している最中はこれを耳に出来ないのが欠点だと思いながらより追い立てていく。胸の柔さを、肌身のきめ細かさを、熱を高めつつある秘された場所を、いや、と身悶えされても責め続ける。幾度も快楽の果てを見させて、それでもやめない。下着をしとどに濡らす蜜はタナッセの脚すら湿らせるが――淫らな音に恥じらう彼女は夜露を湛えた花めいて美しかった。
 とうとう彼女の足は身体を支えられないぐらい震えだし、その分必死にタナッセの服を強い力で繰り返し掴み直した。
 もう、いじわるしないで。おなか、熱い。入れて、お願い。それに……いつもみたいに、他のところにもあなたに触れて欲しくて堪らない。気持ちはいいけど、いいのに、タナッセが全然足りない。
 唇から首筋、鎖骨……普段はそうやって順を追って触れていく。そうして内股に至る頃には一、二度気をやってしまって、足裏に辿り着くまでにまた恍惚とするのが当たり前だった。愛しい彼女を抱くのに不慣れな頃はまだしも、常のことだった。つまり、足らないのは快感ではない。肌身をまさぐるタナッセの指や唇が足らないと、そう言っているのだ。
「自分が何を言っているか、きちんと分かって言っているのか?」
 彼の息も今や熱く。
 囁けば妻はくぐもった声を上げながらがくがくと肯いた。
 分かってる。分かってます。それとも、そういう意味ではなくて、その、いやらしい体で、だらしない体で……こんな淫乱は、嫌いになるだろうか。なったのか。
「い、いんら……っ! お前どこでそんな言葉を、いやそれよりもだな」
 いやらしい、のは確かにそうだろう。薄紅に染まる真白の肌も、太股を伝う程溢れる甘酸っぱい蜜も、どちらも容易く得られるものだ。けれどそれらは回数を重ねるごとに敏感になっていったが故であり、結局は、
「――私が、お前をそうしたのだろうが。嫌いになどなるものか」
 大体彼女を示すなら、もっと違う形容があるだろう。
 いやと言いながら求める媚態は淫靡である。彼が彼女の中に身を埋めた時などは懸命に腰をくねらせてくるが、あれはいかにも艶めかしい。積極的な癖に遠回しな言葉遣いで、ないと思っていた筈の彼のとある欲を煽ってくるのなど、最早なんと表せば良いのか。
 ただ、そのどれもこれもで表情に浮かぶ純さが、瞳にに浮かぶ真っ直ぐさが、年にそぐわぬあどけなさを思わせる。微かな罪悪感と上回る昏さが彼の内を染め上げようとする。
「あぁ、だからな。……だから、」
 彼で満ちて、常以上に乱れる彼女が見たかった。昏さの種類を単語として示すことは、確定させることは避けていたのに、彼で満たされることを愛しい彼女が望むから閉じておくことは最早難しい。優しく繊細に慈しもうと決めて、それでもとうに寝台では自身への誓いを半ば破っていたのに、音にまでしてしまえば、きっと彼女をおかしくするどころでは済まないかもしれないとタナッセは思う。
 何? と快楽に焦点のぶれる眼差しが小首を傾げ、甘い懊悩に沈む彼を上目で窺ってきた。
 黒の瞳は潤んでいる分、普段よりも相手の姿をはっきり映しこんでくる。
 妻の大きな瞳に、夫の彼だけが映っている。ただ、彼一人だけが。
 踏みとどまろうとするタナッセへの、最後の一押しだった。
「あぁもう知るか。知るものか。知らんぞ私は。お前が悪いのだからな」
 昼の彼女は、彼女自身と彼女が大切に思う者達のために。
 だが、夜の――タナッセの腕の中にある時の彼女だけは。
「今だけは、お前は私の……私だけの、」
 続く熱い囁きには、先以上の反応が返った。
 喉を震わせる笑いを抑えずに、彼は細い両脚を抱え上げる。だが、それだけでは安定が足らないだろうと彼女の背を壁に預けさせて、一気に自身を埋めた。軽い肢体は激しく痙攣し、あえかな吐息が絶頂をタナッセに伝える。
 豊かに育った胸は立て続けの忘我の境地に浅く荒く酸素を欲し、彼女に意図はなかろうが彼をそそって仕方ない。手は、どちらも彼女の脚で塞がっていた。空いているのは無論、
「吸っ、や……!」
 服の上からでも明瞭なほどにふくらみ、芯を持った胸の尖りを含み、舌でいじりながら強く吸うと、彼女は蜜壺を蠢かせた。足のばたつきも付いてきたが小柄で軽い彼女の、それも本気でない逃げの動作などどうという話でもなく、むしろ刺激が心地良いくらいだ。
 タナッセは改めて衣装に包まれたままのふくらみを口で包み、次第に頂へすぼめて行った。あ、と間延びした喘ぎは、どこか切ない。だというのに彼の背に怖気にも似た感覚が走り抜ける。
 衝動のまま、とうに熱く蕩けた花の奥を味わっていた己の嵩高な部分までを引き抜き、また最奥まで押し込んでやれば、タナッセと名を呼びながら大量の蜜で床に染みを作った。粘質のそれが雨の如く降るまで溢れかえるなど、彼女は本当にいやらしい体になったものだ。そうしたのは無論他ならぬタナッセである。そして、他の誰も知りはしないこと。思えば背にはまた怖気のような、しかしまるで異なる代物を感じた。
 正体を確かめたいというように、先までの律動を何度もなんどもする。繰り返すたび熱が高まり、彼女の細腰がくねった。
「あ、おっき、おっき、くなっ、いつもよ、り」
 頼りない身体を押し広げるものは、硬さも大きさも増した。普段よりも膨らむ理由は明白に過ぎる。極限まで花の外まで出そうとすると、襞の全てで懸命に甘えてくるせいだ。そして、タナッセが、彼女へ抱く昏さを今だけにしろ認めたからだ。そう、制御不能なまでの愛情の、もう一つの側面を。
 してはならない、したくないという願いは真なのに。
 彼だけの、彼女にしたい。
 タナッセを赦し受け容れた彼女への束縛を忌避する一方で、けれども強く願う。
 だから、この行為だけは、二人きりの二人だけの密やかで甘い情事の今だけは、彼女の全てを己に向けさせたかった。互いを成立させる方法だ。これまでは気付かないふりで、これからは自覚して行うだろう。
 彼女の最奥のその奥さえも暴く強さで抽送を繰り返しながらタナッセは思う。
 基本としてあるのは愛情である。
 されど裏の想いは執着であると言い表されるだろうと自嘲した。
 赦し、受け容れ、愛を差し出し、繰り返される拒絶すら超えてきた、奇蹟の存在。愛しくて、大切で、守りたくて、幸せであって欲しくて――他の誰にも渡せやしなかった。
 独占、支配。そういう感情だ。半ば暴走してしてしまうことのある乱暴な交わりに恍惚とされれば嗜虐のような感情さえ生まれる。
 愛している、と彼女の名を呼ぶ。
 熱で溶け合う行為のさなかだから、直截な言葉も紡げる。ありがとうすら音にはならなかった少し前とは大違いだ。今そんなこと言ったら、と首が反った。熱い襞が埋められたものから精を搾り取ろうと蠢き、タナッセは喉を鳴らしながら逆らわず奥へ注ぎ込む。
 いつもよりいっぱい出てる。
 酔いしれた舌足らずが、繋がる場所を茫洋とした眼差しで見詰めた。彼女を快楽の果てに染め抜く白濁は最奥を叩き付ける勢いで吐き出されて、さほど萎えてはいない彼を蜜と混じり合いながら床を汚していく。
「分かるか? お前のせいだぞ」
 問うタナッセに小首を傾げる動きが返った。
「お前がここで誘ったせいで、絨毯が一つ使い物にならなくなった」
 いじわる、タナッセの方が私のよりべとべとじゃないか。
 あえかな嬌声の必死な反論に彼は苦笑した。そのべとべと、が溢れかえるほどにしたのは彼女だというのに。
 一度吐き出し、冷静が多少は戻ったタナッセは姿勢を変える。
 彼は今日という日を後悔で埋め尽くしかけて、彼女は感謝で満たして。捧げられたもの達へ見合うそれを、ひたすら悔やむだけであった彼が持っているはずもなく。今叶うのは、彼女の求めに応じるぐらいだった。
 彼女の足は久方ぶりに地について、両の手も壁に。要は、
「うし、ろ、」
 二人の間では珍しい、後ろから繋がる体位だ。
 どうせもう染み込んでいるのだから、場所を移すのも面倒で――何より僅かな距離すら彼の方が持ちそうになかった。
 彼女は高く掲げられた自身の小ぶりな、けれどもまろい形の尻を揺らめかせた。向けられる陶然とした視線は期待に充ち満ちて、しどけない動きが早くと願う誘惑だと教えてくる。
 当たり方が違うから気持ちよさが違って好き。以前した際にそんな感想を零していた。
 動きで硬さを取り戻した自身を、タナッセはゆっくり捏ねるようにして爛れた蜜壺を刺激する。けれど、もう駄目、とあえかな声が上がった。壁に爪を立てて沈む身体を支えようとする彼女の、胸のまろやかより張りの強い尻を指で鷲掴めばまた同じ声が響く。やはり折れそうな細腰よりこちらの方が精神衛生上良いのだが、彼女は腰より尻の刺激に弱いのだ。……前よりは太った、と言われたが、肉が付いてこの脆さなら以前は病的との形容が似合う裸体だったのかもしれない。
 激しく突き上げられるのも駄目。優しくかき混ぜるのも駄目。
 淫らな体がとにかく可愛らしくて仕方がないし、こうして彼女を追い詰め貪れることの出来る性を選択して本当に正解だったと、タナッセは最奥により一層先端を押しつける形で腰を動かした。
 奥ばかりそんなにいじめないで、と必死に無慈悲な壁に縋り付く繊手の懇願は、その一言を言い終えるまでに二度大きく身を震わせてしまう。タナッセを受け容れる花の絡め取りはそのたび強烈なものへ変じていった。彼女が意識したものではない。中を味わう緩い動作であるからこそ出来る、かたちをよくよく把握した無意識の柔い受け容れときつい締め付けに、二度目の吐精をする。同時に絶頂した彼女はとうとうくずおれ、
「や……タナ、ッセ。もう、立ってするの、は……」
 淡く朱に染まった尻に五指を埋めたまま荒い息つく彼に、お願いと足を震わせながらねだってきた。
 座って、抱き上げて貰って……その体勢でしたい。……今度はタナッセの顔、ちゃんと見たい。
 タナッセにとっての三度目を始めようとすると、そう別の体位を望まれた。さすがに床に直に座ってでは辛かろうと、幾度か深呼吸を行ったあとで彼女を横抱きにして寝台の端に腰掛ける。
 蕩けた思考の彼女に“いじわる”を言うと、返ってくる反応が堪らない。わざと自分で挿れてみたらどうだと水を向ければ、うん、と即座に素直な返事があった。彼をまたいで膝をつき、片手で自身の花弁を広げながらもう片方で白と透明にまみれたものを支え、
「ん……んんっ!」
 鼻に掛かった糖蜜の喘ぎが半ば萎えていた肉を飲み込んでいく。宛がって、入り口を押し広げて、中に嵩高な先端を埋めて――そのたびごとに脚を閉じようとしたり腰を捩る彼女は、根元まで包み込むととうとう堪えきれずタナッセの方に倒れ込む。小さなてのひらを彼の両肩に掛け首を繰り返し振りながら、言う。
 頑張ったけど、もうこれ以上は無理。タナッセとこうして繋がっているだけで気持ち良すぎて、全然力が入らない。
「お前は……」
 莫迦か、と言いかけてやめる。別段彼女は彼を煽るために言葉を紡いだのではないはず。タナッセから動いて欲しかったに過ぎないだろう。
 だから代わりに耳元で囁いた。
 胸の柔肉をまさぐりながら、私に掴まっているぐらいは出来るな、と。
 果たして肯きは返る。がんばる、などと上半身を寄せてくる。豊満なかたちが潰れ、感触が暴力的だと彼は突き上げ、すると今度は布地越しに尻の甘美な跳ね返りが加わったから、いっそ笑うしかない。
 たっぷりしたドレスのスカート部分は、繋がる場所を隠す。けれど粘質の水音は彼女の足指が敷布を捕らえる動き一つのみでも大きく響き、そのたびこの音恥ずかしい、と細い声が首を振った。
 普段なら、それでも蜜の分泌が増すことを指摘してやる。だが、珍しく淡く涙が浮いている。仕方ない奴だと華奢な身体を抱きしめ宥めるように背を撫でた。寄った眉根がたったそれだけで見る間に緩く解けていくのは、奇蹟のようだ。
 やっと、と彼女がはにかんだ笑みを浮かべる。続ける。
 私の、かたち。輪郭。分かるからあなたに触れられるのが好きなのだ、と。
 タナッセと繋がれるのも、それで気持ちがいいのも好きだけれど、私にはぼんやりとしか分からないものがあなたで明確になるのが好きだ。私は、私だけでは、自分のことが全然分からない莫迦だから。鏡石に映る身体も、私にさえ見えない心も。
 声色は砂糖菓子。
 貫かれ内壁は悦びにざわめいているにも関わらず、舌足らずで幼い。
 紡ぎ出す小さな唇を、タナッセは奪った。膨らみきった肉に多量の蜜がまとわりつく感触があり、さすがに驚く。口付けは別段舌を絡めたものではない。重ね合ったに過ぎないから離れようと思えばいくらでも顔を逸らすことは可能で、けれど彼女は鼻に掛かった声を一度上げただけ。
 ややあって彼から口を解放すると名残惜しげな視線が自身の薄紅の唇に指を宛がい、もう少しで、と独りごちた。意味するところは、うねる内壁に搾り取られそうだったタナッセがよく分かっている。
「……お前は本当に好きだな、これが」
 うん、もっとして欲しい、お願い、と懸命に尻を動かし彼女は誘ってきた。
 曰くタナッセがそうしたらしい。タナッセが同意なく口付けしてくるなどという直接的な行動に出ると思わなかったから大層印象深く、以降口付けられただけでどうにも堪らない心地になってしまう、と言っていたことがあった。
 それだけで、と思わされることが多いがこれもその一つだ。
 だが、愛らしく愛おしい。
 はしたない寵愛者様だな、と再度の口付け前に彼女を煽る。黒の大きな瞳は一瞬丸まり――次の瞬間幸せそうに細められた。神様なんて知らないけれどあなたが言うのなら、と舌を差し出してきた。
 かき混ぜる。擦り上げ、奥まで味わいかき乱す。
 唾液も蜜も互いに混ざり合いながら伝い落ち、耳には獣じみた息づかいと品のない水音だけが届く。
 まろやかな胸が柔さを押しつけ律動で形を変える。むき出しの尻も彼の動作で彼女の意図から外れて跳ねる。
 肌身を隔てる衣服は煩わしいが脱ぐ手間は惜しく、そのもどかしささえも興奮を倍加させた。
 上でも下でも一方的な無体をされながら彼女は歓喜の声で受け容れた。ほとんど一度の抽送で一度達している体感で、タナッセが奥に注ぐと同時にとうとう失神してしまう。
 頼りない小柄。
 力をなくした彼女は、抱き止めても腕に碌々衝撃を与えてこない。
 濡れた唇は色を濃くし、もの言いたげに開いている様がいかにも淫靡である。その唇は、吐息で名を呼んだ。
 ――――タナッセ。
 語尾の伸びた、甘えた響きだった。
 浅く荒い息を繰り返す意識をなくした肢体を抱え直し、寝台に横たえる。めくれあがった衣装の奥からは止め処なく精が溢れて、さすがに清めてやらねばならないだろうとタナッセは背を向けたあと、腹の底から固まりのような息を吐き出した。己を沈めようと試みた。
 三度は、した経験がある。今までにもあったのだ。熱は滾ったままで、気を抜けば自身はまた硬く反り返ってしまいかねない。四度目に至りかねない。彼女は気を失ってしまったというのに、だ。
 まさか意識のない相手に出来るものか。
 先の呼びかけは、全身に衝動を走らせた。
 そうしてしまおうか、と惑わせてきた。
 タナッセは大きくかぶりを振る。彼女の願いを叶えるためという起点を忘れるのだけはならない。
 は、と強く息を吐き出し己を鼓舞し――瞬間、
「あ……、タナッセ……?」
 困惑混じりなそれは多少舌足らずであったものの、幼子の発音ではなかった。
 向き直る。緩いまばたきは初め現状を忘れていた様子だったが、身を捩ると同時いくらか薄れていた頬の熱を蘇らせて爪先で掛布を掻いた。僅かに身を起こし覗き込もうとするのは充血し肉厚な自身の花だろう。
 そこでは相も変わらず常以上の量の蜜と白濁が混じり合い、溢れ、鮮やかな花弁が穢されていく。幾度彼に抱かれようと、鮮やかに咲き誇ろうとも美しいそこが。二つの丘に秘された慎ましく清い場所が。
 なのに、やだ、と彼女はタナッセの袖を掴んだ。
 いっぱい貰えたのに中から出て行ってしまう。だから、だから入れておいて。抜かないで。
 幼い調子で縋ってくる彼女に萎えたかたちは即座に硬くなる。
「気を……気を失ったのだぞ。身体、はもう元に戻ったようだが、今日はもう……いや、さすがに今日のようには……」
 即物的な反応に羞恥が走り反応と真逆を告げようとするも、糊塗するためだけの音の羅列は一向に説得力を持たない。
 じゃあ口で、と熟れた林檎の唇が囁く。
 口で、綺麗にさせて欲しい。それなら……気持ち良すぎて失神なんて情けないことにもならないのだから。塞いでくれないのなら、私の口であなたの……あなたを綺麗にさせて。
 そうして、彼女は更に続けた。
 動けないから、手にも足にも力が入らないから私に跨って貰いたい。
 即座に想像が走った。
 無防備に横たわる伏し気味の眼差しがのしかかられ、愛らしい唇に対極の上汚れたかたちが押しつけられている、そんな様子が思い浮かんだ。細い手指を添えながら舌先が舐め取る姿が。
「お前、狙っているだろう」
 きょとんと見詰め返され、思考を捨てた。「……いや、違う、か。天然……なのだろうな」
 あまりにも明瞭だった想像は情欲を燃え上がらせる。あまりにも純な反応は、先に自覚した昏い想いも同様にする。
 頭を撫で、耳元に口を寄せた。
 お前の、望むとおりに。
 囁けば、嬉しそうな声が返った。面に浮かぶのは、ひだまりのあたたかと、月明かりの柔らかを持った、あの妻らしい笑顔に違いない。
 そうして。
 綺麗にするという名目であれ刺激されれば、一旦は拭われてもまた溢れかえり、そのまま再びもつれ合うしかなかった。
 回数を重ねればまた彼女は気を失い、けれど二度目以降は最早気遣いも叶わず蜜壺を味わって、激しい求めにそのたび目を覚ます繰り返しだ。
 そのうち彼女はもういや、本当に駄目、と頑是ない子供のごとく首を振った。とは言ってもここまで来るとまともに文章の体を為しておらず、辛うじて単語と受け取れる短い語句があるだけだった。
 止める気はない。言ったのは彼女自身なのだ。いくらだってあなたでおかしくなりたい、などと。
 姿勢を変えながら、揺さぶった。時に愛を囁き、時に羞恥を煽り、拒否の言葉を口にしながら達してしまう彼女に最初の願いを指摘する。飽きもせず繰り返すうち観念したのか、しまいにはタナッセが耳にしたこともないような品のない単語で悦び始めた。
 常であれば眉をひそめかねないそれ。今は、彼女が“おかしくな”った証として心地良く響く。
 何度目か判じ得ない吐精に、夢見る表情が久方ぶりに意味ある言葉を発した。
 あなただけの、私。
 タナッセは舌で貪り合う口付けを彼女に求めた。
 紗幕に覆われた寝台の中、爛れた行為はやがて空が白むまで続いた。
 それからようやく、二人は眠りにつくため身を清め始めた。
 とうに身を支えるどころか瞼すら重たげな妻の全身はタナッセが拭き、今更ではあるが夜着に着替えさせる。ごめんなさい、ともごもご謝罪されたが、小さく軽くその上細い彼女の世話を焼くことなど大した労力でもない。
 真白くリボンやフリルの飾りが可愛い夜着で肌身を隠してやると、一輪の花に似て清楚な女が現れる。ぼんやりした面持ちのせいで元から幼い顔が一層幼くも映った。つい先頃まで淫らによがって乱れていたなど、信じる者はいないだろう。
 自身も着替え横になり、タナッセは華奢な彼女を抱き寄せた。小さく丸まりかけていた身体はゆるゆる伸びて彼の腕に大人しく収まって、すぐに寝息を立て始める。一人で先に眠る時彼女は肘も膝も曲げ小さくちいさくなっているが、彼がこうすれば解けていって、
「…………」
 なんなんだろうな、と内心ごちる。分かっているのだ、己にとってどんな意味を持つ存在であるかは。ただ、あやふやな疑問を思ってしまうぐらい、想いがこみ上げ堪らない存在でもあった。
 愛おしい。
 次の一年も、また次の一年も、彼の方こそ共に居て欲しい。
 彼女が今日の日のような行いをする程の自分でありたいと、そう思う。いや、誓う。
 泥の眠りにつく花の彼女をタナッセは朝より優しく抱きしめる。鼻をくすぐる香りに抱きしめ返されながら、彼もまた、短い眠りに落ちていった。

          *

 眠たげな妻は、急かす訳じゃないのだけれど、と前置きした上で朝食をつつきながら小首を傾げた。
 忘れ去られている気がしている、昨日渡したものを。
 同じく重い瞼を抱えたタナッセは、しかし瞬時にはっきり目を覚ます。確かあれは、と視線を巡らせると、席の隣の背もたれがない低い椅子に贈られた袋は置いてある。普段はない椅子だから、おそらく食事前に渡すことを考えた彼女の心配りだろう。
 内心冷や汗をかいた彼は食事をさておき、中身を確かめることにする。
「……これは、」
 羽筆と、本。
 入っていたのはその二つだ。
 本は複写を要求しようと考えながら、直後にあったもう一人の発見から始まる一年ですっかりしそびれていたもの。だが、これの作者や題名について言及したのは、まだ仲の悪かった頃に一度舞踏会で厭味の応酬をした際、次が籠りを終えた彼女に問われ読書傾向を話した際。
「まさか覚えていたのか? ……いや、そんな……」
 覚えていた。
 きっぱり彼女は言い切った。
 読んだことはあるがまだ持っていない口ぶりだったし、こちらへ来てからもそういう気配がなかったから。
 上目がちに告げる彼女にタナッセの顔が熱くなる。
 ――黒の月は。
 初めの主日から訪れる五日の悪夢は。
 確かに彼女のおかげで全く過去のものと化しそうだ。










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エンド投票愛情及び友情1位、また総合1位おめでとう記念。
二つでワンセット。
ある意味『Morgen~』とも対。
羽筆プレイには持ち込めなかった。無念。