【 注 意 】
・タナッセ「生殺し」後の「心変わり」
・生涯縁がないものと思っていたもの(配点:伴侶)
コイサイテハナ
爆発した感覚が広がる。
一瞬置いて、心臓があまりに強く鼓動を打ったからだと理解が言う。
私は手足に残るじんわりした痺れに苦笑した。原因なんて明白で、そんなの視線の先の背中なんて明白で、あぁもう機能さえあるなら顔からはとっくに火が噴いてる。幸か不幸か知らないけれど、私はかまどじゃないし無理。
こっちの気なんて一切知る由もないその背中は考える間にも悠々去っていく。
タナッセ。
声を掛けたかった。どうしてあんなことをしたのか、理由を聞きたかった。でも、一音足りとて喉を震わせてくれないし、吐息さえも口からは漏れでないし、当然彼は足を止めてくれない。行ってしまう。
自分を莫迦にする自分もあったものの、駄目だ。叱咤にならない。背に覚えた冷たさや固さと好対照の肩や唇のあたたかさと――唇にだけ与えられた柔らかさ。それらを思い出してしまって。つい今し方口付けされたような生々しさに胸の高鳴りが止められず、一層恥ずかしさが増していった。
あんなのして一体何を確かめようとしたんだろう。
確かなのは、私の感情が一時の気の間違いでないと思い知らされたぐらいで、つまりは本気の気持ちということぐらいで、いじわる。……本当に駄目だ、私。主部と述部に齟齬が生じてる。
タナッセの莫迦。ばか。衛士からもあなたからも逃げなかったんだから、私の信頼も想いも本気なのは伝わったんじゃなかったのか。なのに逃げて、会いに来てはくれない。
私はもう、母さんがかつて父親を指して口にした呼び方を使ってしまうぐらい、もうどうしようもなくているんだから、だから。
「……会いたい」
ちゃんとした形で、会いたい。話をしたい。
隠しおおすことも可能だったろう莫迦な真似と、もし助かって本人の証言が取れればすぐさま相応の罪に問われたろう莫迦。後者の可能性を含む選択肢を選んだひと。
会おう、と。
そう思った。
彼の確かめたいことが信頼の真偽なのか、想いの真偽なのか、とか、結果口付けされて恥ずかしいのどうのとか、そういったものを全て後回しにして、まずは会いたいと私は思う。会わないと、話さないと何も始まらない。いつも私ばかりだらだら喋っている気がするけれど、関係を真逆にしたいと申し出たこっちがちゃんと向き合わなう必要がある。
だから。
そう、だから、次は今日みたいに立ち竦まずに追いかけよう。三度目を、しよう。
決めて、まだうるさい胸を押さえながら来た道をひとまず帰っていく。次の機会がいつあるか分からないけれど、早々に気持ちの整理を済ませる。絶対に今度彼の背を見たら追いかける。
果たして私は雨降る主日ようやく彼と久々に、そう、久しぶりに――あるいは初めて、僅かな時間ながら会い、話すことになった。
城の石造りが遠い、緑と雨と、巻き上げられた土埃のもたらす懐かしさの中。
いつもいる護衛が雨除けと着替えを取りに行ったおかげで、二人だけで。
全身ずぶ濡れだった私は追い返されず、彼も逃げず。
身震いしそうな冷えさえも、心地良かった。
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タイトル元ネタ:sasakure.UKアルバム『幻実アイソーポス』より
タナッセ愛情且つ「不穏」や「神の業~」辺りで反転だと、
主日「生殺し」→中日「心変わり」となるので
思わず画面に突っ込んだ覚えがあります。今!?
そういうプレイヤーは結構いるんじゃないでしょうか。