【 注 意 】
・ヴァイル憎悪B(反転版)、「秘密の場所」好愛高いver.、主人公反転せず
・夜に二人で初めての/地雷踏まれといじけ虫
深 層 森 林
静寂。
しじま、とも言う。
誰もが寝静まっている黒の世界。
私を抱き上げたままのヴァイルの顔を窺うけれど、閉ざされていて意図は読めなかった。
普段の私の居場所は遠い――いや、見上げればすぐそこの塔にあるけれど、その、私はもう随分と部屋の外にさえ足を踏み出したことはなかったから。まぁ今も地面に足なんて付いてないのだが。
今夜はもうこないと思われた彼は、眠っていた私を抱えてそのまま塔を降り、中庭の中でも手入れが為されていないところまで歩いてきたらしい。
らしい、というのは先程目が覚めたばかりだから。
……尋ねて、つっけんどんに返されるのも、辛いから。
疑問、それでも湧いてくる。
閉じ込めておきたいんじゃないのか。
最重要は私を自由にしないことだろうから、酷く不思議だった。
緑の香りに表情筋が緩みそうになるのを押さえつついると、ふと記憶が揺さぶられた感覚を覚えて声を漏らしてしまう。
アネキウスの寝姿があっても、昼日中とはまるで印象が変わっているのだ。確証もない。する意味がない。なのに、あの場所だと私は思う。
道なき道。
気をつけていないと服が汚れてしまうような、秘密の場所へ続く、これは。
「……ヴァイル、ここ、その」
賭に負けた彼が連れてきてくれたところ。秘密の良い場所だが、私なら来ても構わないと教えてくれたところだ。
「あ、ちゃんと起きてたんだ。何も喋んないからさ、まだ寝ぼけてるのかと思ってた」
冷笑的な調子。私は簡単に言葉に詰まった。するとヴァイルは呆れ顔で嘆息して、
「そのいかにも私傷ついてますーって顔やめてよ。ただでさえ顔色悪いのに。あんまり辛気くさくしてるなら帰るけど、俺」
「別に、顔色悪くは、」
ない、ないはずだ、と言い掛けたけれど、今度はわざとらしいため息がある。私はまた沈黙を選んだ。
ヴァイルは木の根元に腰を下ろす。私は相変わらず横抱きされたままで、結局夜中の散策の理由は掴めずにいる。
時折、風が吹く。
優しく頬を撫でる程度だったけれど、彼は私の身体を抱え直した。上に一枚羽織ってあるとはいえ、羞恥を煽るぐらいに露出の高い胸元には些か涼しすぎて、きっとそれを気遣われたのだろうとは思う。
思う、けれど。
私は目を伏せた。
より接触面積は増え、鼓動が伝わってくる。懐かしい自然の香りと性的な匂いのしない触れ合いに、安らぎそうになってしまう。抱きしめ返したいと手が伸びかけ、引っ込めた。別に、ヴァイルは望んでいないだろうし。
一人冗長極まる進歩のない思考に沈んでいると、また身体の向きを変えられた。近さは変わらず、ただ、近い。顔を上向かされたせいで、当然ヴァイルと顔が近くなって、でもそれだけではなくて、つまりつまり。
顔が近付いてくる。眼差しの色は読めない。
息を呑む私が問うより先に唇が重なり合った。
時間は短かった、んじゃないだろうか。離れる時、ヴァイルはこっちの下唇を三度甘く食んだ。舌が侵入せず、それを強制もされない口付けは、それで終わった。
「さっきから気付いてる? 物欲しそうな顔。物足りないって顔」
からかう声はやっぱりきつかったけれど、ふと深く考えなかった疑問を口にしてみる。
今日はしないのか、と尋ねる。
「毎日してたら体保たないだろ。あんたと違って俺は忙しいの。王様なの」
じゃあどうしてここに来たのか、とは尋ねない。肯くだけにする。代わりに告げるのは、一言だけ。
ここ好き、と。
ただそれだけ。
「――――あっそ、そりゃ良かったね」
掠れた語尾が顔を背けた。
まだ、ヴァイルは動こうとしない。
まだ、しばらくは夜にとどまれる。
忙しいなら睡眠時間削るのは良くないんじゃないか、とか、そんな話もやめ。
今だけは、とヴァイルの腕の中目を閉じた。
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タイトル元ネタ:RewriteのOST
エンド投票憎悪1位おめでとう記念。なので?健全に。
二人だけだとこれ以上にはなれない感じで、ある意味そこがいい。
これ以下にも墜ちないし。主人公が反転しない限り。