【 注 意 】
・現代パラレル
・タナッセといっしょ/秋
Raised bed
木々のざわめく風が外では吹いている。
けれど、二人の並ぶ室内は一線を画し、穏やかな時間のみが流れていた。部屋に染み入るように広がるのは家具の音楽に類するもので、時折紙をめくる音が混じる以外は身じろぎの衣擦れしかない。
一人が読むのは詩集で、もう一人が読むのは家庭菜園の本。二人が座るソファの前、テーブルの上には詩集の書籍の山が一つと、レース編みのパターン集や弓道の入門書など雑多な山が一つある。重ならない内容ではあったが、お互い時折顔を上げては相手の様子をしばらく眺め、また手元に視線を落とすことを繰り返していた。
会話はない。
外界の騒がしさだけが異質な、緩やかな沈黙が降りている。
タナッセ、と。
甘える響きがそれを破ったのは、空の光が茜を帯び始めた時分だった。
乱読な方は、読み進めていた小説をテーブルに伏せ、隣の少年に声を掛ける。最早青年の域に足を踏み入れかけている彼もまた詩集に栞を挟んで返事をする。
眠くなってしまったから、膝を貸して。
首を傾げる少女に、なら部屋に戻って一眠りしてこい、と言う。
タナッセの膝がいい。夕飯まで、一緒に居たい。居させて。
食い下がる声は、拗ねると言うよりただ甘えしか含んでいないものだから、彼は面映ゆそうに、けれど呆れを口にする。
全く。……そう時間もないだろうに。
了解だと解釈する、と彼女は微笑み頭を預けてきた。身体を小動物めいて丸めると、吐息をつく。
ちょっとノルマが多かった、冬が来るまでに読み終わらなさそう。
彼が愚痴る彼女の頭を撫でると、むずがゆそうにしたが振り払いはしない。
もうそんなに急ぐ必要もあるまい。視力が落ちたらどうする。
そう説くと、ん、と短い返事こそあったが、でも、ヴァイルも張り合いが出るかと思って、とも続けた。
少年の手は頭から頬までを撫でる。それはお前にとっても楽しいことか、と問う。果たして答えは肯きで返る。
なら、いい。
彼もまた肯きで返し、少女はゆるゆると瞼を閉じた。
しばらくして、呼吸が寝息に移り変わったのを確認した彼は詩集を開き直す。小さな頭の重みを覚えながらの読書は、先よりペースが落ちたものとなった。
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タイトル元ネタ:『Rewrite』OST。
まったり系日常曲ですな。
現代パラレルだろうとそれなりにコトは起きている感じで。
さすがに全てがまんまではありませんが。