いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年6月9日日曜日

【かもかてSS】MORAL

【 注 意 】
・ヴァイル憎悪B、主人公の印愛は「好意」~「愛している」を行ったり来たり
・ヴァイル視点三人称、成人向け





M O R A L



 六代国王について回る話がある。面白おかしく貴族たちの間で取り沙汰される話が、ある。塔のある部屋に、かつて王位を争った寵愛者がいて、彼は女性を選んだもう一人の寵愛者を飼っているのだという、そんな話。
 事実だから痛くも痒くもない。つつき回される本人、六代国王ヴァイルは、どころか外野の声などそよ風ほどにも感じていなかった。貴族たちが趣味や娯楽の一環で小鳥を閉じ込め愛玩することと同じだと、そう考えているからだ。
 己がヴァイルの決して手に入れられないものを元から持っているのに気付かず、その上自身の勝手な感情をその場その場でぶつけてくるだけの傲慢な存在を閉じ込め、考えられる全ての自由を奪い満ち足りている――大差ないだろう、と。

 憎らしい彼女は、白の寝台の上で自身を強く抱きしめて横になっていた。頬や首など紅潮して、わずかに開いた唇からは鼻にかかった媚びるような声が断続的に上がっている。ドレスの中、おそらくは足を擦り合わせているのだろう動きもあり、
「医者先生にまた配合とか変えてもらったんだけどさ、よく効いてるみたいだね」
 彼女の身体を覗きこむように伸し掛かって、ヴァイルは囁きかける。吐息がかかる距離での声に彼女の肩が跳ねた。
 ヴァイルが訪れる日は、必ず夕食のあと、彼女は薬湯を飲まされている。別に、今の状態を作るような強烈な代物ではないのだが、やはり少しは皮膚感覚が敏感になるし、言葉は素直にもなる。抵抗されるのは対処が面倒な上痛いので、多少曖昧な心地にもなってもらっている。更に真偽はともかく、快楽を強めるとか言う香油も塗らせていた。
 そうしたお膳立てを初めて組み敷いた日から行なっているせいか、今では本当にその種の薬を濃厚に服用させたような状態で彼女はヴァイルを待つようになった。今日など以前より薄めさせたのに、既に一人盛り上がっている。
「でも、指で慰めたりはしてない、ね」
 未分化の頃から成長が見られないどころか小さくなって見える細い指に、蜜は絡んでいない。彼女も大きく肯いて、おこられたからまってた、と舌足らずに言う。昨夜彼女は堪えきれず、指を入れて慰めていた。勝手なことをとヴァイルは腹を立て、謝る彼女を置いて部屋から出て行き、結局その夜は戻らなかったのだ。
 ほめて、と彼女は身をくねらせながらねだってくる。言われてするのは業腹だが、言う通りに我慢されたことで機嫌がいいのは誤魔化しようがない。
 ヴァイルは彼女の衣装に手をかける。彼自身は大嫌いな、飾りの多いずるずるとした服。縄で括りつける代わりの、重苦しいドレス。
 もう何もしなくても構わないための拘束は、けれど二つの利点を有していた。
 一つは、それぞれのふくらみの頂点を中心とした薄紅を隠すためだけの小さな二枚の布地。間に渡されたリボンを緩めてやれば、豊かな丸みがさらけ出される。
 もう一つは、衣装が上下に分かたれていること。腰から下だけを脱がせてしまえば半端な様が逆に扇情的であるし、他には触れず、ただ中をかき回すだけかき回したい気分の時にも非常に楽だった。
 そうして、今も、ヴァイルはむき出しにした円やかな形に指を食い込ませる。ほとんど潰すような強さで五指を食い込ませたが、彼女は眉根を寄せながらも大きな嬌声を上げて悦んだ。
「ほんっとあんたって……ま、加減必要ないっての、俺はいいんだけど」
 ヴァイルはぼやきながら思い出す。最初からこうじゃなかったな、と。
 初めのうちは、痛いは痛いだった。中には感覚を鈍麻させる薬を二度、三度目までは塗り込んでいたから、そちらに対してではなく、同じように加減する余裕なく潰してしまったり、先端をつねってしまった時のことだ。知識と、実際の肉体への不慣れと、彼女への感情とで、荒い扱いは多くある。
 いつ頃からか。中に入れず肌身への刺激だけで達してしまうようになった頃からか。痛い、だけだったのが、痛いけど気持ちよくもある、に変わったのは。
 おそらくは、曖昧で鋭敏という矛盾した感覚がもたらす錯誤なのだろう。だが、言いたくなる。言ってしまう。理性で力を緩めて片方の胸を優しく揉み、もう一方の、触れる前から既に大きく尖っている薄紅に甘く歯を立て、衣装の下半分の留め具を外しながら。
「……変態」
 唾棄すべき反応だと思う。痛みにも苦しみながら甘い声を上げ、昨夜詰まらない理由で放って置かれたくせに愚直にもヴァイルを待っていた。変態だと、被虐的だと言わずなんと評すればよいのか。
 だが、半ば害をなす触れ方であっても、ヴァイルの手であれば彼女は最初の頃から痛いと怯えていながらも、身を捩ることすらしなかった。力こそ入らなかったろうが、その程度の抵抗は出来たはずなのに――――
「あんたみたいな莫迦、嫌いだ」
 苛立ちが腹の奥に生まれ、ヴァイルは吐き捨てた。快楽を訴える嬌声に混じり、嫌、そんなこと言わないで、と否定の語があったが、何もつけていない下肢が空気に晒されると、彼女は一度瞳閉じる。強くつよく、ぎゅうっと閉じて。そのまま、視線を交えないまま、呟いた。
 嫌いでいいから、せめて――ちょうだい、と。
 お断り、と反射的にヴァイルは思う。
 毎夜、彼女の体は彼が声を掛けるより早く爛れきっていて、つまりしようと思えば本当にいつだって足の付根にある花弁の奥を貫ける。言う通りに、出来る。彼には十分心地良い。
 それでも突くだけで終わらせた経験はほとんどない。どうしようもなく時間がない時だけ。普段は、どこに触れてもびくびくと震える肌を指で、てのひらで、唇で、舌で、時には吐息で丹念に撫でて、何度も達した彼女と一つになっている。
 愛玩される小鳥は住処だけでなく餌も水も他者から与えられるものだ。喉が渇こうが何しようが、小鳥は精々がところうるさく騒ぐしか出来やしない。かつてのヴァイルと同じだ。
 ゆるゆると黒い瞳を開いた彼女を確かめ、ヴァイルはすぐ隣へ仰向けに寝転がった。どうして、と悲痛な抗議がかかる。
「なんかさ、面倒。すっごい面倒になった。いっつも俺ばっか動いてるし、あんたの言うこと聞く気なんかさらさらないし。……だからさあ」
 おねだりを聞き入れるのは癪。普段通りは気が乗らなくなった。なら、とヴァイルは昏く笑った。
「だから、あんた頑張りなよ。俺、こうしてるから。服脱がして――あぁ入れてもらいたいだけなんだっけ? なら俺の出してさ、自分で入れて、そんで腰振れば? それぐらい出来るよね。嫌われてる相手から無理強いされて悦んでるような、倒錯した恥知らずなんだから」
「――――」
 息を呑む音がヴァイルの耳に届く。嗚咽を飲み込む音にも、よく似ていた。
 あ、とか、私、とか。下腹の熱に喘ぎながら、震える言葉が何かを紡ごうとする。繰り返し、くりかえし。
 でも。
 分かった、と。
 か細い声は、返事をした。

 形の良い、丁寧に手入れされた爪を持つ白い指が、ヴァイルの硬く大きくなっているそれを取り出す。てのひらや指先がこすれるたび反応する身体のせいでやけに時間がかかったものの、切なげな吐息がもどかしげに彼の下肢をまさぐる様はひどくヴァイルを満足させた。縋るように伏し目がちな瞳で伺ってくるのも、気分を良くする。
「ほら、あんたが出して終わりじゃないだろ? 俺が出さなきゃ終わりじゃないじゃん」
 はい、と彼女はよろめくようにヴァイルに跨がった。跨がって、蜜を滴らせる自身の割れ目に熱いものを当てると、
「…………っ!」
 一気に彼を飲み込んだ。
 甘い、甘ったるい声が部屋を満たす。砂糖に蜂蜜をかけたらこうだろうという、胸焼けしそうな甘い嬌声。おなか、おなかのほうに、あたって、とヴァイルから搾り取るように彼女は腰をくねらせながら上下にも動き、粘質の水音を激しく響かせた。
 彼女の熱くぬるついた内壁はヴァイルのかたちをすっかり覚えてしまっている。時に締め付け、時に包み込み、的確に蠢いていく。動く気などまるでなかったのに、気付けば彼女の最奥まで突き上げてしまった。
 彼女は一際高い声でヴァイルの名を呼びながら、彼の胸に倒れこんでくる。一人だけ絶頂を感じたのだろうが、彼にはまだ刺激が足りない。いや、気を許せば間もなく先端から白く熱くねばつく液が溢れそうになるが、――今夜は彼女の喜ぶこようにしたくはなくて、もう少しと堪える。
 まだ、かたい。ヴァイルの、おっきいまんま。
「それ、ないんじゃない? 一人、だけ良く……なっておいて」
 薬と悦楽が彼女の舌先を更に怪しくして、どうにも子供めいた喋りだ。とはいえ続くのは、おねがい出して、と再び腰を揺らめかせ始める淫靡な動き。一度達した身体は力が入りにくいようで、自身を支えることも困難そうだったが、それでも言う。
 私だけこんなで、ごめんなさい。ごめん、がんばるから、もっと。
 先程より大きく、彼女の全身が動く。そのたび、首に何重にもまかれたヴァイルと揃いのリボンが場違いにふわふわ煌めいた。同じ色のものが、袖に隠れた両手首でも揺れていて、今はむき出しの両足首には解けかけながら潰されているだろう。
 だめ? これじゃ、私じゃ、きもちよくできない?
 舌足らずな媚びた声がヴァイルの堪えを壊そうとする。
 彼女は腰を振るたび何度も訪れる絶頂の誘惑に耐えるためか時折動きを小さくするが、取り戻すようにまた激しく動き出す。蜜に蕩ける中もうねりの緩急を強めてきた。
 さすがにそろそろ無理、とヴァイルは顔をしかめる。
 だから、今度は意識して、彼女を下から突き上げた。
 ヴァイルの律動への快感から来る、ん、という鼻にかかった喘ぎと、急に始まったことから来る驚きの、や、という音が続けて彼女の唇をついて出る。
 次に浮かんだ嬉しそうな柔らかな笑みが。
 憎らしくも手放せない彼女の、どうしようもなく場違いな、表情が。
 腹が立つことに。心底苛立たしいことに。
 ヴァイルの熱を全てすべて、彼女へ吐き出させてしまった。

 運動も碌々かなわない生活で体力が落ちているのか、ほぼ毎夜行われる投薬と行為に疲労が溜まっているのか、彼女はヴァイルの名を呼びながら吐き出されたものを受け止めたあと、間もなく眠りについた。
 横たわる姿は、いくらかの場所以外子供の時分と変化していない気すらする。胸は大きくなったし、尻周りも広がって、自然太ももの肉付きも良くなった。身長は多少伸びたようだがあまり差が感じられない。手足も小さなままだ。
 全体の雰囲気が華奢だとか、頼りないだとか頭をよぎるのは、彼の方の変化が要因だろう。――そんな彼女を、以前ヴァイルが彼女にされたように手酷く壊してやりたいとか、強く思うのも。
 そう、たまには優しさも見せて、まるで懐柔の余地があるように見せかけて。
「…………」
 なのに何故、安堵混じりの嬉しそうな笑顔に絆されそうになっているのか。
 体さえ重ねていなければ、冷たく接していられる。互いの体温を、喜悦を、共有する行為。しなければいいと考えもするけれど、身体に訪れた「男を選んだ結果」に負けて初めて彼女を抱いたあの日から、熱を交わし合わなかった日はまずない。巡幸も長期間離れず済むよう細切れに何度も行なって。
 行為に溺れているだけだ。頭の芯が痺れる程の、思考が白く飛ぶ程の悦楽を感じずにはいられないだけだ。
 言い聞かせるが、薬で敷布を汚すほど蜜を零し快楽に堕ちている彼女の全身を改めて愛撫する意味はないと、話しかける必要すらないと――――
「……ちが……」
 違う、と穏やかな寝顔を見せる彼女に背を向け、ヴァイルは首を振った。
 壊すのなら、ヴァイルの手で。
 そう、だから、だ。彼女が勝手に傷つき、一人壊れていくのでは意味がない。全くない。まるでない。彼女は籠の中の鳥なのだ。籠の中で、毎夜やってくるヴァイルの腕の中でだけ囀る愛玩用の小鳥。餌や水を取り上げるのも、風切羽以外の羽根をもぎ取るのも、彼にしか出来ないこと。
 自分の行いに頭を悩ませるたびヴァイルが思い出すのは、今はもういない女性の言葉だった。彼女を助ける気でいた先代国王の問いかけだ。ただ一言先代は言った。
 ――――良いのか。
 かつて彼はなんの陰りもない心持ちで、他に言うことないの伯母さん、と嗤ったのに、いつどうして思いが変質したのか、ヴァイルには理解出来なかった。自分ばかり大事な視野の狭い……半身たれと請い願っていた、もう一人の寵愛者。
 ――――私だけこんなで、ごめんなさい。ごめん、がんばるから、もっと。
 最中の、喘ぎに途切れがちな言葉を考えると、混迷は更に深まる。
 ヴァイルは回答の出ないありとあらゆるを一旦全て閉ざしたくて、寝息を立てる彼女の身体に指を這わせ始めた。特に感じやすい部分には触れず、徐々に性感を高めていくことにする。すぐには目覚めないように、蜜を溢れさせないように、と。
 そうすれば、長く楽しめる。
 そうすれば。
 ヴァイルも意識を失うように眠りに落ちることが、きっと出来るはずだ。










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タイトル元ネタ:某エロゲのOP。
作曲がエレガの藤田淳平氏なので
それ絡みで聞いたことある方もいるかもしれません。
密かにストーリー系でもあった。

さておき。
刺激の少ない監禁生活って暗示系がかかりやすい環境下ですし
ヴァイルはもっと弾けてもいい気がするんですが
そこまでやったら自称20歳かなという気もするしどうなんだ。