いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年6月27日木曜日

【かもかて小ネタ】花冠の庭、神様の国

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後、覚り悟ったつもりでいても身近なひとの死は
・電○文庫程度のおいろけ描写がある





花冠の庭、神様の国



 頭。
 頬。
 胸。
 てのひら。
 足の付根。
 足の裏側。

 どこもかしこも熱い。
 全身が熱を帯びているけれど、分けてもその部位がたまらなかった。
 一番どうしようもないのは、やっぱり彼と触れ合っているところ。部屋に帰ってきてすぐ、椅子に座り込んでしまった彼、夫であり今日の別れを最も辛く苦しく感じている一人だろうタナッセと、これ以上ないほど深く繋がっている溶けて蕩けたところ。
 あの黒色から着替える余裕もなかった彼を追って来たから、私も重苦しいものを纏ったまま。だから、どこもかしこもを感じ合うのは叶わない。唇を交わして、指やてのひらを、あるいは顔の輪郭をなぞり合って、そして、深くふかく、互いの体の中心で繋がり合う。
 彼の脚上に座る、というのはよくする。座ったままの横抱きもそうだし、何より彼と戯れたい時、逃げにくいよう片脚を両の太ももで挟むように座り込んでやったりする。
 今日は、そうじゃなかった。
 届けを読んでも、領地を出たあとも、案外タナッセは淡々としていて。
 私は逆に心配になった。
 かなしい、という感情が重すぎる時、のしかかった場所は潰れることも出来ずにただただ穴を開ける。そんな様子に見えたから。私が母さんを死なせてしまった時と、同じに感じられたから。
 故人を個人として偲ぶではなく、先代国王として、神の国へ至る寵愛者として悼みながらもどこか華やかな色が見える長たらしい儀が終わって、帰ってきたさっき、だから少しだけ安堵もした。
 さっき、膝をつき言葉を探す私を、座り込み俯いた彼が、強く、けれど壊れ物を扱うように引っ張りあげ、触れ合った。触れ合い、重なり、絡み合った。冷えてしまった唇と、彼のものより幾分あたたかい唇が。
 肌身に指や唇が這わされなくても受け止められるぐらいになった頃、ようやくタナッセは言葉を紡いだ。
 お前はあたたかいな、と。
 私の熱くも冷えた心は、でもあたたかいだけでは足らない。彼はきっと、もっとずっと、と思う。思った。だから、羞恥に――そう、恥ずかしいだけだ、私は、そうじゃないと今は駄目だ――掠れた声で、囁く。
 果たして、求めは受け容れられる。タナッセにもたれるような半端な姿勢から、彼の脚上に乗る今の体勢に、なる。
 全身が甘く痺れてしまうから、動くのは苦手だ。けれど今日は、彼の肩に手を当てて、上下に、あるいはくねるように、更なる熱を引き出そうと頑張る。息を多分に含んだ声は、音は、どっちの発したものか分からない。普段うるさいのは私なのに。
 タナッセと私。
 二人で蜜みたいに甘い吐息を交わし合っていると、もう繋がる場所はどちらがどうではなく、ひたすら熱いだけになっていく。分けられない。分かち合っているから。
 繋がっている場所の奥に流れ込むものも、同じくらいの熱さ。感触ばかりが感じられる。それでもいつも言ってしまうのは、どうしてなのか、私には全然理解出来ない。でも、分かる。今は、分かった上で、言う。
 花と棺に包まれていた、かつて凛々しい面立ちと表情を、背筋の伸びた長身を持っていた人を思い浮かべながら。
 彼の、逝ってしまった母親を――母さん思いながら。
 息が出来ないほど私をきつく抱きすくめてくるタナッセが、愛しくて。嘆きを少しでも減らしたくて。あるいは、涙ぐらい、溢れさせて欲しくて。
 タナッセ、と呼び掛ける。
 すごくあつい、わたしたち。
 浅く荒い息で、出来うる限り円やかな響きを探ると、タナッセが首筋に唇を押し付けてきた。数呼吸ののち、ようやく返事が返る。
 あぁ。
 短い応えでもはっきり感じ取れるほど声が揺れていて、私はそっと息をついた。










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『イギリス植物民俗事典』の「葬式の花」の項を読んでいたら、
別口で書くはずだった
主人公視点のセッションネタとミラクルドッキングを起こしました。
降ってきたのはリリアノの死に関して一回単品で書くかーぐらいで
同項自体はさっぱり活用出来ていません酷い(死者と花は現代では割とポピュラーですし)。