いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年4月25日木曜日

【かもかて小ネタ】いずれいつかのチシマアマナ


【 注 意 】
・タナッセと婚約済みかつ「善意の忠告」未発生
・タナッセ視点三人称





いずれいつかのチシマアマナ



 衣装部屋の扉を開くと黄色い声が耳に入った。
 発しているのは衣装係の男であり、黄色い声と評するのも微妙な按配だったものの、そう形容してしまうほど甲高い調子で色々と鏡石の前の小柄に話しかけている。鏡石の前で首を傾げつつ半身を幾度も捻って自身を見つめる小柄は、先日彼がとある契約を交わした冷めた瞳を持つこどもだ。
 姿を認め、浮ついた雰囲気にも早速嫌気が差し。タナッセは入ったばかりの部屋から出ようと踵を返す。
「――――あ、」
 判断は少々遅きに失していたらしい。物言いたげな一音がタナッセを見つめていた。高くもなければ低くもない、子供らしからぬ声音の「婚約者」は身体の動きを止めている。彼を視界に写している時は釣り気味な眉や目は今下がり気味で、しかも瞳は真ん丸くある。無防備という一語が感想としてよぎった。
 そんなこどもの衣装は、成人した男がよく着ている型だ。こどもの日頃の動作は溜めが少なく情感を残さない代物で、喋りも同様なのだから、全く似合うはずであるのに、
「は、なんだそれは。貴様、まさか自分に似合うと魅入りでもしていたか? ……さっぱり馴染んでいないではないか。見目を繕う小手先の技術だけは随分とましになったと思っていたが、やはり田舎者は田舎者に過ぎんな、まるでなっていない。選び直せ。お前に着られる衣装が哀れだ」
 タナッセが鼻で笑うと、こどもはさすがに表情を鋭くする。睨め付け言い放つ。小手先の技術を習得するために組み合わせを試しているのだ、邪魔をするな。
 顔を大きく振って彼から背け、嘲られた衣服をほとんど一息で脱ぎ捨てた。乱暴な扱いに衣装係が慌てる。受け取った衣装係は矯めつ眇めつしたが問題はなかったようで安堵の息を零した。針やボタン、紐の類などはあまり使わず言った通り試着も試着、まずは自身との兼ね合いを見ていた段階だったのだろう。
 とはいえ、人前で下着姿というのは論外だ。タナッセはともかく、未文化でもという趣味の悪い人間は存在しており、何より貴人に仲間入りした者としては品も恥じらいもなさすぎる。不愉快さに口を開きかけた彼へ、ならこちらはどうかと背後の椅子に掛けてあった華美な布地を持ってこどもは見上げてきた。着るから判断しろ、と言いたいらしい。
「莫迦莫迦しい。私が何故、お前なんぞのためにそんな時間を割かねばならん」
 心底くだらないとタナッセが目を細めれば、こどもは何事か呟いたあと唇を引き結ぶ。
 無言の相手を置いて彼は今度こそ扉に手をかけ、だが、振り返った。
 特に意味はない。
 強いて挙げるなら。行動に理由付けをするのなら。
 無言の直前の唇の動きが「分かってた」と。
 そう読めたから、だろうか。
 だが結局理由は分からずじまいだった。こどもはタナッセなどいなかったかのように、手にしていた衣装を試し始めていたからだ。本当に色々と確かめているのか、纏う服の型は女性もので、
「…………はっ」
 似合わないものは、似合わない。
 胸焼けがするほどあしらわれたフリルやレースを気にかけながら鏡石の前で何度もなんども半回転するこどもの表情には、微かに戸惑いが浮かんでいた。










*+++*+++*+++*+++*+++*
タイトル元ネタ:
『境界線上のホライゾン 演目披露2』「花咲舞」と、
「高嶺舞」の表示枠。

とっときに酷いエンドロールも可能なんですが、
愛情ルート・女性分化verくらいは(一部状況的にアレですが)
この歌詞くらい前向きキラキラで幸せになればいいんじゃないかなーと思ったり。