いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年3月20日水曜日

【かもかてSS】Morgen-Nacht

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・結婚と初夜、成人向け
・三人称とタナッセ視点三人称



Morgen - Nacht



          §

 継承権を放棄し、上級貴族の一人として新たに名を連ねることとなったもう一人の寵愛者の婚姻の儀が、雲一つない鮮やかな蒼穹の日に執り行われた。
 女性を選んだ寵愛者が纏うのは昼の空色に映える赤を基調にしたドレスだ。差し色として白や、あるいは金糸銀糸が用いられてもいるが、地位や結婚相手を鑑みれば些か地味とも言える。件の結婚相手自体、二人の元々の関係、前年の最終月にあった不穏な動き、以降の関係性の反転など、話題に事欠かない人物たちの婚姻故、どこからも関心が寄せられていた割には、と添えることも出来た。
 先代国王の息子とは思えぬ非才の元王子殿下と、前年に突然現れた田舎出身の寵愛者。
 その、二人の片割れとしては、本当に。
 合わせるように、元王子であるタナッセの衣装も、色にしろ装飾にしろ少ない代物だった。妻となる彼女が濃く強い色味を用いているためか、常より深い寒色だ。しかし彼の場合、普段の不機嫌顔や渋面の印象が強く、むしろ表情の甘さに大半の目は向いた。打算の二語を打ち砕く破壊力があったのだ。先日の公表でようやく主役たちの関係性の深度を知った者は驚愕し、既にもう一人の寵愛者と二人きりの光景を目撃していた者は賢しげに驚愕する者へ語った。
 六代国王ヴァイルが数年後には更に、と感嘆の息を漏らすほど威厳ある凛とした男性に分化したように、もう一人の彼女もまた、田舎者だったとは分からないほど優艶な女性となった。ただ、現国王は成人してから隙がなくなったが、もう一人は成人してからむしろどことなく隙が生まれ、おかげでヴァイルをある種の本気で狙う女は影に、彼女を狙う男は分かりやすく増えている。
 良くも悪くも話題の的たる双方の婚姻の儀はつつがなく終わり、押しかけた貴族たちは二人について面白おかしく話題を繰り広げる。
 が、そんな背景たちは当の両人の視界に入っていなかった。
 入っていたが、ものの数ではなかった。
 互いに互いのことしか見えていなかったのだから、当然である。

          *

 特に隠れていなかった問題が結婚の夜、タナッセの前に現れた。
 問題を先送りにしたままだったとも言う。
 彼自身情けなくて仕方がないのだが、真面目に夜について考えようとしても想像力が過剰に働きすぎて毎回中断せざるを得なかったのだ。知識だけは仕入れた。彼のせいで体調が優れない日も崩してしまう日も多くなってしまった彼女のために。前述の理由が為に、仕入れただけで終わってしまったのだが。
 だから妻がそろそろ寝ようと水を向けてきた時、諸々が合わさり、顔どころか頭から爪先まで熱に覆われた。
 妻との部屋は、どうせ間もなく領地へ旅立つという事情もあって、タナッセの居室を使用している。居なかった人物が居て、しかも居続けるというのは、違和と共に感動ももたらした。だが、寝台で二人眠るとなると――眠りにつく前に寝ながら行う行為となると、違和や感動では済まされないだろう。
 大切にしたい。傷つけたくない。貴族社会で生きる以上最低限の義務はあるにせよ、それ以外からは何ものからも守りたいのだ。それがたとえ、タナッセ自身や彼女本人からでも同じこと。
 今日妻となった彼女は額に印戴くに足る気丈な才能者にも関わらず、彼女なりの理屈があるにしても自身を殺しかけた犯人を赦し愛す、聖人もかくやの愚かなあどけなさを持ち合わせている。加えて、救けられたこと、同意なき口づけ、最後の日された横抱きを蕩けきった表情で嬉しかったと何度も伝えてきた。一つ目は感謝されるものではない。二つ目は無体の一種だ。三つ目に至っては、彼だった彼女へ触れたいという側面が強かった。再びの口づけは難度が高かったし、ただ抱きしめるにしても知ってしまった唇の柔らかへ自身のそれを重ねたい欲を抑えきれる自信もなかったのである。
 ……今夜は我慢の必要などないわけだが、また別種の苦悩があった。どうしても初めては強い痛みを伴うという。タナッセの中にある彼女への想いの何もかもに抵触している。
 しかし、動きを止めてしまった彼の腕の中へ、妻から飛び込んできてしまう。色々考えているのだろうが、私だってタナッセともっと深く触れ合いたいのだ、だからお願いと、彼の理性を溶かす吐息と共に。
 反射で背に腕を回せば夜着の生地は薄く、素肌に触れている錯覚すらある。鼓動が早く体温も上がっているせいか、甘酸っぱい香りがふわふわと立ち上ってきた。好んでいる香もそうなのだろうが、彼女自身の肉体そのものが馨しいのかもしれない。
 女性らしく膨らんだ二つの丸みは、柔らかくも張りのある感触もさることながら、襟ぐりの開いた夜着から覗く押しつぶされながら尚大きく深い谷間を作っている見目が視覚の暴力だった。下肢が意思とは無縁に熱を帯びながら強ばりつつある。
 舞踏会の衣装ですら胸元を隠している彼女らしからぬ無防備の衣服。愛おしいほど愚かな彼女のことだ、またぞろ変な気遣いでもしたに違いなかった。だからタナッセは、未分化の頃からまるで成長していないような小柄な身体に言う。僅かでも不調を覚えたのならすぐに言葉にするように。
 果たして肯きは返り、彼は腕の中の女性を抱き上げ、寝台に静かに横たえた。
 彼女は眉尻を極限まで下げると小首を傾げる。
 村で色々耳に入っていたし、城に来てからも耳に入ったし、そういう本も読んだことはあるが、実際自分がするとなると、頭が真っ白でさっぱり勝手が分からない。緊張しているから厭とか言いかねないが信じないで欲しい。
 一息つき、ひたむきな瞳が言い募る。
 痛くても、辛くても、いい。最初タナッセとの仲は苦しくて痛いものだったが、今はこうして幸せをもらっている。これからすることも同じだ。痛いのは初めのうちで、第一私は繋がれること自体が嬉しい。
 だから、と。
 情事についての話だと忘れさせる真っ直ぐさで、けれど確実にタナッセの理性を千切れさせつつある蜜の響きが最後の後押しをした。
 だから、私はタナッセの好きにされてもいい……いや、タナッセの好きにして……違う、好きにされたいのだ。……お願いだから、なんでもしてください。
 伏し気味の瞳を彩る長い睫毛を震わせている妻の薄紅の唇を塞ぐことから、彼は始めた。全く、このまま話させていたら経験のないタナッセとてどんな酷い抱き方を取ってしまうか分からない。
 辛うじて残った自制心をかき集めつつ、彼は薄布の上から寝転がっても上向いた円やかなふくらみに五指を沈める。やわい受け止めと押し返しが心地よく、てのひらで転がすように揉んだ。そのたび形は容易に変わってしまう。感触を味わっているうち、布を押し上げる尖りに指先が触れ、塞いだままだった唇の奥から短く声が上がった。タナッセは唇を解放してやり、そのまま二つの尖りを指の腹で擦ってみる。息を多く含んだ高い音が、擦るたび発された。痺れのようなものが全身に走る。
 自分で身体拭いている時は何もないのにと、恥ずかしそうな声音が言う。どう感じているか聞いてみたいとタナッセは尋ねてみたが、変な感じとしか返事がなかった。
 彼はむっときて、再度の口づけはせずむき出しの首筋から鎖骨を唇でなぞり、手も胸から腹へ下り、女性らしい腰のくびれをてのひら全体で撫でることにした。それでも欲を伴った接触そのものが気持ちよいのか、彼女は身体をくねらせ鼻に掛かった吐息を聞かせてくる。
 夜着越しでも明確な曲線に、普段から隠れている場所のもう一つとして、タナッセは両の脚が気になった。未分化も男性も、多少の別はあれど直線を主体とした体付きをしているが、曲線主体の女性の腰から下も、やはり柔らかなかたちをしているのだろうか。昼はドレスで、夜は――妻の夜着は薄地ながら腰回りや袖などはたっぷり布地が用いられてふわふわと広がっており、やはり判明しなかった。似合ってはいるのだが。裾を脚の付け根までたくし上げる。あ、と頬を熟れた苺に染めた彼女のまばたきがあるが、想像通り肉付きの良い太ももを腰から膝へ、膝から内ももへ、行き来を繰り返す。内ももの辺りが特に弱いのか、胸先を擦った時ほどではないが甘い声を彼女が上げる。下肢が段々と熱を帯びているところにやってきたそのあえかな響きは、熱の溜まる速度を一層早めた。
 いや、と敷布を爪先で引っ掻く動きを繰り返す彼女は首を振った。内側はだめ、近い。
 近い?とタナッセは瞬間首を傾げたが、すぐ合点がいく。内ももの先、一枚の布が隠している場所がある。脚の付け根からへそ下まで更に夜着をたくし上げれば、身を清める際にしか触れない場所を覆う小さな白布が空気にさらされた。身を竦める動きがあったものの、彼女は先程から言葉以外の抵抗を見せはしないのだ。言葉でも言わせてみたいともたげてくるものがタナッセの中に生じ、だがもう少しあとだと自身に言い聞かせて堪えることにする。
 身体の両脇で蝶結びされた頼りない白布をタナッセはさっさと脱がせてしまう。現れたのは淡紅色の花と、花弁の奥から漂う甘酸っぱい匂い。彼女の華奢な身体を抱きしめて香る柑橘の甘酸っぱさとは異なる独特な芳香だ。
 何を凝視しているのかと舌足らずな焦り声が頭上の方で発されている。綺麗であると言ってやろうかと彼は思う。彼女の肌は乳白色を基調に、あとは差し色として唇や爪、頬や関節などの薄紅色しかない。穢れとほど遠い、明るくも淡い色味。男を受け入れる場所であってもそれは同じことだった。茂みとも呼べない黒がお情け程度にそれらの上部を飾っていたが、毛は細く触れても頼りないものだ。
 だから何しているのか。彼女はとうとう腰をくねらせ始める。おそらくタナッセから逃れようと動いたものだろうが、今の状況では彼の興奮を煽る方向にしか作用しなかった。
 甘酸っぱい透明な蜜を零す場所より上、小さな尖りがある。知識として、タナッセは知っている。これは、円いふくらみにあったものと同様に、触れ、擦り、あるいは舌先でいじってやってると、女性は清い身体でも快感を得やすいのだと。潤滑液となる蜜は既に彼女の花を濡らしているが、十全かどうかはタナッセにはまるで分からない。
 分からないので。言い訳にして。
 その匂いに誘われるようにして顔を近づけ、花芯を舌で包むように刺激した。瞬間、跳ねる動きが妻の身体に起きる。嬌声も、今までで一番大きく高く幼いものが、否定の言葉と共に届く。汚い、洗ったけれど汚い、だめ、いや、と喘ぎに幾度も邪魔されながら言い募る彼女の身のよじりに拍車が掛かったが、両手で腰を押さえ込んでしまうと思うように叶わなくなったらしく、砂糖菓子の声を漏らすだけになった。
 時に花芯全体を舌全てで包み、時に舌先で弾くように舐める。繰り返しているうちに、花芯は膨らみ、彼女の口から放たれる否定さえもお決まりの単語いくつかに終始し初め、いつしか甘酸っぱいものは敷布に染みまで作り出してしまう。タナッセはそのまま舌を、蜜を溢れさせる熱い泉に伝わせた。やはり、舐め取っても馨しい匂い通りの味がしている。
 甘い声。柑橘の甘酸っぱい体臭。花弁を浸す、やはり甘酸っぱい蜜。彼女は何もかもが甘く、しかし極端な甘味を好まない彼にも美味な、愛しい甘露だった。何もかもが美しく、愛らしく、なのにどこか嗜虐をそそる。
 本来は、舌や指で泉の奥を慣らしてやるべきだ。そうすれば、途中を壊す時訪れる苦痛はともかく、異物で中を圧迫される不慣れは減じてやれる。もっとタナッセが冷静だったのならそうしたろう手段は、度重なる彼女の言動で甘露を味わう目的に捕らわれてしまった以上、行われない。
 そもそも。
 大体、彼はずっと堪えていただけで、未分化であった頃からもっと彼女と唇を触れ合わせたかった。成人してもとから整っていた造作に、誰しもに明白な美が乗った時など、気が気ではなかった。護衛すら付いていないのに、彼女は自身が個々人の好みすら一旦は脇に置いて美しさを認めねばならない外見を手に入れた自覚が薄いのだ。莫迦息子と称されているような連中が力尽くで無体を働く可能性すら、下らないと思いながらもタナッセは一笑に付せずにいた。物憂げにも映る伏し気味の瞳にじっと見上げられれば、見慣れた彼でも思わず抱きしめたくなる威力があるのだから。心底彼女は愚かしい。使えるもの全てを用いて守ってやりたいほどに。――心のどこかで、昏い想いを抱くほどに。
 服を脱がせることも、自身が脱ぐ暇も惜しい。タナッセは妻の脚を更に開かせ、取り出した自身を蜜の出所にあてがった。久しぶりに黒の瞳と見つめ合うことになる。焦点がぶれがちな彼女は力なく首を振るが、敢えて尋ねた。
 お前が本当にそれでいいのなら、私は止めよう。身を整えて、眠るだけだ。……どうしたい?
 いや、と。
 小さく彼女は言った。重ねて問う。
 どうしたい?
 組み敷かれた彼女は恥じらうように首を竦め、けれど、ややあって。
 お願い。
 切羽詰まった懇願が続いた。
 欲しい。繋がりたい。もうこれ以上は耐えられないからだから。熱くて堪らないから。入れて。タナッセのを、入れて欲しい。お願いだから。
 タナッセの背筋を駆け上る感情がある。
 言わせたと、そういう思いがある。
 かつて、突然やってきた無謀な王位の簒奪者は、その実居場所が欲しいだけ、飼い殺しが恐ろしいだけのこどもだった。どれ程醜悪な横顔かといがみ合ってみても、無視か、同等程度の報復しかされない上、彼が過ぎた行いをすれば何もかもを諦めようとする天涯孤独のこどもだった。
 だからこんな、最後のさいごで良心に負けただけの半端な男など赦す愚かの極みとしか言えない行動に出る。
 ぼろぼろの身体で、愛などを告白してしまう。
 思い通りにならない身体を抱え、彼を恋うる瞳でただ真っ直ぐにやってきて。
 雨に全身を冷やしながら側にいたいと追いかけてきたこともあった。
 読み書きも出来ないところからタナッセの助力付きとはいえ王候補と噂されるほどの名声まで手に入れた、後発と言えども間違いなく寵愛者であるはずなのに、こどもは度し難いほど愚かだった。
 愚かなほどに――いっそ、無垢ですらあった。
 彼女への感情は最早恋や愛などと言う言葉だけでは足りはしない。
 執着さえも絡まって、時にタナッセ自身手を着けられなくなる。恋しているし、愛しているし、守りたいし、何より手放せない。
 無理矢理彼女にねだらせたが、初めに丸投げの許可をされたのだから、言わせる意味などなかったのだ。なのに彼女の方から望ませてしまったのは結局のところ、タナッセが手に入れることが出来たなどという今の現実が、有り得ない現実ではないと打ち消したかったのだ。疑いの色など欠片も浮かべぬあどけなくさえある瞳を向けてくる相手へ行う仕打ちではない。
 けれども彼の唇は弧を描いてしまう。
 今更気付こうとも遅いと、よっぽど言って回りたかったのだ。この隙だらけな大輪の清い花を摘んだのは自分に他ならないのだ、と。
 タナッセは朱に染まる妻の頬を撫で、抵抗があるまで自身を沈める。引っかかった場所で、泣きそうにも見える彼女に一つ肯き、彼女も囁き声で同意した。
 邪魔なものを突き破ると、短く悲鳴が上がり、すぐに止む。自身の夜着を掴んでいた妻の指がふっくらした花唇に一本突っ込まれたからだが、白く滑らかな指に傷が付いてしまうと手首を掴み、しかし既に歯の後がついている。堪えるにしても遣りようがあるだろうにと頭が痛い。
 自由な逆の手がやはり同じようにしかけたので、両方まとめて彼女の頭の上に押さえつけた。片手がそちらにかかり切りになるのは不便でしかなく、タナッセは妻の黒の長い髪を緩くまとめていたリボンをほどき、それで縛り上げる。彼女は拘束されてしまった自身の両手首を、忙しく瞳を瞬かせながらのろのろ見上げた。逆に言えば、反応はそれだけだった。
 ……ほら、痕が付いてしまったではないか。本当に莫迦だなお前は。
 言って彼は再度彼女の中を進んでいった。熱くて仕方ない粘膜の壺は、襞状のものを内壁に有している。それらは初めての侵入者を上手く受け入れられないでいるらしく、蠢きながらもどこか萎縮するようでもあった。苦しげな妻の表情や声からすると、膜を破った痛みが尾を引いているのが最大の問題かもしれない。
 タナッセは先程録に愛撫してやれなかった二つのふくらみを揉みしだきはじめた。指の間で尖りを挟み、時折擦ってやると、彼女の零す声に喘ぎと呼べるものが混ざり初め、壺にもまた蜜が満ち始める。戸惑いがちな内壁も侵入者をゆるゆる包み始めた。
 彼女の豊かな胸は、夜着の切り替えが胸下で行われるせいでやけに強調されて見え、持ち上げるとはちきれそうだ。白の丸みに映えたろう薄紅を見られないのには後悔の念がよぎるが、ほとんど衣服を乱さぬままに肉体だけを乱れさせる姿もしどけなかった。
 最早硬度も何も増さないと思っていた自身の一部が、中のまとわりつきと相まって更に彼女を押し広げる。いたい、くるしい、と、胸を弄ばれる悦楽の響きにかき消されながら訴える声が聞こえたが、堪らずタナッセは最奥まで打ち込んだ。
 先が奥へ当たる感触を感じると、蜜壺の入り口近くまで引き抜く。そしてまた、絡みつく肉の襞をかきわけて奥までを貫く。彼は二つのふくらみや、固く大きく立ち上がったふくらみの頂点を指で摘み上げることも忘れずにして、苦痛だけではないようにしてやる。
 彼女は正反対の感覚に激しく反応した。揉まれ摘まれるたびに背を反らし、抽送のごとに腰をくねらせ、どちらの時でも高い声と浅い息を激しく零して爪先が敷布を引っ掻く。周囲の色を移し込む黒の瞳はしばし閉じられてしまう。自由に動かせない手がもどかしいのか、引っ張るように縛られた両手をそれぞれに動かしている。
 より強いのは快楽なのだろう。タナッセは甘酸っぱいものを溢れさせる花を見て好奇にかられた。花芯をそうしたように、夜着を押し上げる尖りを指ではなく口に含み舌で転がしたならば、更に彼女は乱れるのだろうかと。試してみると、摘み擦る触れ方より声の艶も甘さも遙かに強いものになった。
 痙攣するような動きが全身に広がり、襞も激しくうねる。溜まっていたものを吐き出したい衝動を誘われて、彼は内壁の蠢きを楽しむ速度を早めていった。
 鼓膜を打つ粘質の音がより卑猥に響き、なすがままの彼女はそれでも恥じらうように、この音いやと、長い睫毛を震わせて首を横に振った。だが、肉欲に高ぶる肌身の熱と、悦楽に焦点をぶれさせる瞳では説得力が感じられやしない。
 ふくらみの形を変えて尖りを嬲り、粘膜の中を叩きつけるように穿ってとめどなく溢れる蜜を勢いよく掻き出す。単純な行為を、だから止める気などタナッセにはさらさらなかった。
 タナッセの昇りつめに、彼女も嬌声を響かせるだけになっていく。彼女が腰をくねらせれば快感はどこまでも増して、限界がやってくる。溜まっていた液を柔く包み込む蜜壺の中にぶちまけた。
 一瞬意識が白んだ。愛しい妻も同じ時に達したようで、意識を現実に戻してくれば、華奢な全身を弛緩させてぼんやり中空を見つめていた。熱を放出しきったことで彼の中に冷静が一気に戻ってくる。
 乱された夜着、縛り上げられた手首、蜜やタナッセの吐き出した白い液と混ざって敷布を汚す血の赤。脆い細身や遠くを見つめている眼差しなど色々な要素と噛み合って、抱いたと言うよりまさに犯した、貪った、とでも形容したくなる酷い光景だ。
 小さな身体を組み敷いたまま、タナッセは長らく時を止めた。
 彼を動かし始めたのは、いつも通り妻の動き。鼻に掛かったような声と共に、今は少し疲労を帯びた輝く瞳が夫の名を呼んだのだ。
 どうしたのか、顔がこわいけれど。
 どうもこうもあったものかと反射で返す彼に、普段の無防備な表情に戻っていた彼女が見る間に困惑を得る。心細げな顔が爆弾発言を投下した。
 何かまずいことをしてしまったのなら言って欲しい……私の身体では気持ちよくなれなかったとか、おまけに嫌になったとか、なんでもはっきりと。
 意地でもって保っていた体勢が一言で突き崩された。――要はタナッセは身体の力を抜かし彼女にのしかかったのである。慌てふためく妻の声に、しかし彼は唸り声だけを返した。思いがけず体重を預けてしまった守りたい存在は相も変わらずか細く頼りないもので、不慣れや緊張、興奮等々、複数の要因が積み重なったにせよ、蹂躙していいわけがない。
 えぇと、もし最中のタナッセ自身について後悔しているなら、初めに伝えたお願いを思い出して欲しい。
 彼女は今紡いだ言葉通り、何もかもを端から受容する気でいたのだろうから、タナッセがもっとずっと、自身に気をつけ彼女を宝物のように抱いてやるべきだったのだ。いや、実際そうしてやりたかったのに、自分に負けた。赦しが甘美であればあるほど、情けなさが募る。無言の彼に対し、あどけなくもある真っ直ぐな声音が続けて喋る。
 ……それに、その。今、疲労から来る倦怠感はあるけれど、それとは別に身体の感覚が儀式以前のものに少しだけ戻ったような、気が。魔術師が「人を食う法」と言っていたし……私がまあ、タナッセのことを今“食べた”から、うん、少し戻ってきたのかもしれない。ごちそうさま、……は違うような。
 言いながら寝台の上でぴょんぴょん上半身を跳ねさせ、ようやくタナッセは縛りっぱなしだった妻の手首を思い出して脱力しながら解放するのだった。何かこういう全身を跳ねさせ進んでいく小さな虫がいた気がする。行っているのが彼女だからか、虫を連想しつつも可愛らしく感じた。
 いや、それより何より、とタナッセは白いままの手首に胸を撫で下ろし言う。
 ――本当に、平気か。
 満面の笑みが肯定し、でも、と混ぜっ返す調子でねだってきた。
 そんなに落ち込むのなら、あなたが私の身体を拭くというのはどうだろう。
 普段ならば私はお前の侍従かと言うところだが、このときばかりはほとんど反射で同意してしまったタナッセだった。

          *

 タナッセは他者の身を清めるなどした試しがない。
 妻も妻で、沐浴の類を誰かに任せることをしたことがなかった。
 不慣れな二人が不慣れなりに情事の残滓を拭ったあとやってきたのは、当然のように眠気。どちらからともなく、タナッセと彼女は身体を寄せ合う。タナッセは腕を回し、彼女は鼻を鳴らして彼の胸に顔を擦り寄せてきた。
 簡単に骨など折ることが出来てしまいそうな身体はあたたかく心地よい。この身体は端的に彼女の内面を表しているなと最近彼は考えている。強い癖に時々簡単に折れて、結構言う割に――彼の心を救う言葉を計算なく口にするのである。先などもそうだ。本当に彼女という存在を手に入れたのはタナッセなのだろうかと、今でも不思議を禁じ得ないような奇跡じみた、神の遣いという噂も一生にふせなくなってしまったぐらいの妻。いつでも彼女は彼が見て見ぬふりをしたり、気付けずいたりする答えを持ってきてくれる。
 抱いている最中にも考えていた内容をまた別の形でタナッセは思い、回した腕に力を入れた。
 明日も、明日の朝も本当に彼女は彼の腕の中居てくれるのだろうか。
 やくたいもない不安をよぎらせてしまうぐらい、彼は幸せでいる。とうに眠りに落ちてしまったらしい妻の額、彼女が言うところの二人を合わせてくれた変な痣に唇を寄せ、タナッセ自身、瞳を閉じた。明日、彼女に目覚めの挨拶をするために。









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タイトル元ネタ:『境界線上のホライゾン』BD初回限定版特典CDから。

質問企画でウエディングドレスが近代バージョンの白ではなく、
モデルとなった実世界の歴史通り多色と判明したのでそんな感じ。
下着は……下着は浪漫優先で……。
城は石造りだからやはり涼しいのか(湖の中に建っていることだし)、
異世界石ゆえそんなことはないのかとか今更気になる。

ヴァイルが強く厳しく鋭いなので、
ルート・相手にもよりますが(少しずつ自分内設定違うため)
主人公は賢く礼儀正しく美しいにしがちです。
でも交渉も高めのはず。