いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2015年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年3月17日日曜日

【かもかてSS】Harvest(ペリドット)

【 注 意 】
・タナッセ友情経由愛情ルートで宿題提出が出来たら
・押しかけたりやきもち焼いたり忙しない




Harvest(ペリドット)



 少し前までは意地になって手を着けなかったタナッセから押しつけられた宿題。
 私は朝からそれに取り組んでいた。今更やるのかという突っ込みは内心ないではなかったが、……タナッセの部屋に入るのには、いい口実になるかと思って。
 逃げられたら、その、大層落ち込むので、絶対部屋にいて確実に夕食直前だろうという時間に訪れる。彼は律儀な生活を送っているらしくその辺り行動が読みやすい。居留守を使われる可能性も考えたが、幸い応接室へ通された。宿題を見ている間待っていろと指示されたので、茶を飲みつつ菓子に手を伸ばす。
 私はこの応接室があまり好きではない。生地はともかく、飾り気自体はあまりない衣装を好んでいるタナッセの印象と重ならないのだ。でこぼこで拗くれた関係を構築していた二人が晴れて健全な間柄になれたのだし、もう一歩くらい踏み込めたらいい。というか、踏み込む。
 戻ってきた彼へ、いやに重い顎を動かし言ってみた。
 これから二人で一緒にご飯を食べたい。
 単純な誘いかけ。だというのに私の全身には異様なほど力が籠もっていた。強ばっている感覚は眼球にもある。常以上に上目になっている自分を感じる。……睨んでいるようにしか見えないだろうに、何をやっているのだろう、私は。頬には熱を覚えているし、下手すれば怒っているようにも受け取れるはずだ。最低。可愛げをどこかで調達してきたい。
 タナッセは、押し黙っている。いつもは表情のせいで隠れている品の良さが滲んでいて、つまりは不愉快を抱いていない様子で、だからどうして。
 彼は先日の儀式からこっち、罪悪感だとか責任という言葉を顔に浮かばせてこちらを気遣いすることが多々あり、もどかしいと思っている。だが、そういう反応でもない。まして、悪友関係を築いていた際の口うるささで有りはしない。友人としての態度に振れているなら――顔を赤くして沈黙するわけがないのだ。
 なんというか、えぇと。
 地下湖で唇を触れ合わせた直後のような独特の雰囲気が、伝わってくる。
 気のせいかもしれないので念のために尋ねることにした。不愉快だったろうかと。否定は歯切れ悪く返ってきたけれど、予想が当たっていたんだなと安堵が胸中に浮かぶ。廊下で擦れ違った時の応対と同じだ。贖罪ももちろんあれど、突発で口づけしてくれる程度には、私のことを恋愛対象として想ってくれていると、そういうこと。
 ひと安心と息つく私に少しぎこちない返答があった。
「どこでだ。いや、まあ、ここで飲み食い……か? お前がいいのなら……私は構わないが。……本当にいいのだろうな」
 懸念の理由は、なんとなく伝わってくる。生命の危機に追い込まれたあの日、多分睡眠薬入りだった酒を飲んだのは今座っている席でのことだから、タナッセは気にかけてくれているのだろう。
 あれをいい思い出と称したら熱でも測られかねないものの、実のところ感謝してもいる。色々複雑だった私とタナッセの諸々が解消するには、おそらくあの一連の出来事がなければ不可能だった。莫迦と言われようとも、素直に飲んで良かったと、私は笑って言いきれるのだ。
 でも、と首を傾げる。
 タナッセは他者が出入りする部屋で普段から食事しているのだろうか。まさかと首を振られたので、嬉々として我儘を口にする。拒否された場合は諦めてこの応接室でも全然構わないのだけれど、端から拒否が折り込み済みなんだけれど、やはり期待は隠せない。
「……で」
 で?
「出来るか貴様莫迦か貴様!!」
 いっそう顔の赤を強めての叫び。さすがに一瞬固まり半目にもなった。折り込み済み。うん、折り込み済み。……うん。
 一人納得を繰り返しているとタナッセの頬から少し色が抜けていき、
「あ……の、だな。ここならともかく、私の自室となれば、否応なく噂になる。お前が本当のところ何を望んでいるにせよ、足を引っ張ることになりかねん」
 彼はため息にも似た呼気を吐き出して、「……すまない。今日はここに配膳させる」
 謝られてしまうと逆にこちらの方が恐縮してしまうというか、あぁとにかく、私も今日は引かないと。
 私の方からも謝り、以降の食事は総じてつつがなく終え、ではお邪魔しましたの段になって、タナッセは視線を僅かに泳がせつつ申し出てきた。
 部屋まで送る、と。
 時間的にも人目などあるはずなく、だから彼の中では問題ないのか。なんにせよ、嬉しい。一も二もなく肯けば、彼ははにかむように微笑んでくれた。少々の距離を開け付いてきている巨漢の護衛はしょうがない、口づけの瞬間も目撃されているのだ、今更恥ずかしくはない、といくらかの思い込ませが必要だったが。
 タナッセはしばらく歩いていると、腰の辺りに手を回してきた。疑問すると気遣うように言われる。
「多少ふらついているようだが……無理はしていないだろうな、お前」
 あまり良くはないが、倒れるような感覚もない。儀式からこっちの普段の体調だ。首を横に振るけれど、心配そうな面持ちはあまり晴れなかった。全く、ため息を盛大に吐いてしまいたい。
 私は幸せなのに。
 彼が腰に手を回してくれているなんて舞い上がってしまうし、曲がりなりにも王子であるタナッセの行動だから、自分が何か上等な存在になった気がしている。
 この数週間、私ばかりが積極的だから、心の底から幸せなのに。口づけは一度してもらえた。感情が爆発したような行為は、好きだと告白され返したようでたまらなく嬉しかった。
 私ばかりがタナッセを好きで、ずるい。
「――――ななな何を言って……突然何を……な、なんだ! なんなんだ!?」
 どうも、音として出ていたらしかった。場合によっては憤死ものなので、発言確認をしてみる。へどもど状態の彼の言葉は随分意味が取りにくかったが、最後の一言だけの様子。じゃあ、許容範囲だ。
 腰に回された男性のてのひらに自身の手を当て軽い拘束にする。そのまま立ち止まり、言い回しを換えてもう一度告げる。
 タナッセは、きっと私へ申し訳ないと感じて考えているから大切に扱ってくれているだけで、他に本命が居るんだ。
 ……城に流れている噂が加味されたけど。
 うん、誤差範囲だと思う。
「なっ――。ま、またお前はおかしな発言を! 謝罪の気持ちが強いのは否定せんが、私は贖いのためにこんな……こんな……」
 徐々に勢いをなくす彼の言葉の先を知りたくて身を乗り出すが、タナッセは背を反らし離れた。私が手を押さえているからそれ以上は叶わない。振れているだけも同様の淡いものでいくらでも振り払えるのに、しなかった。
 だから、ついお願いをしてしまう。
 言いにくいなら先は聞かないから、代わりにして欲しい。この前みたいに一方的で一瞬だけではなく、口づけを。
 タナッセが大胆に背を反らしているせいで、またも私は上目がきつくなる。これは芽がないかなと残念を感じた時、固い動きで背筋が戻ってきた。視線がやけに真剣で、唇も引き結ばれ、その表情のまま左右を見やる。
 私が理由を問うため首を傾げようとしたところ、腰の辺りが引っ張られてよろめいてしまった。けれど倒れ込みはしないで済む。タナッセの胸にぶつかったからだ。
「……確認するが。その、いいのだな」
 目的語が、と即座に返しそうになったのは、率直に言って照れ隠しだった。でもしない。飲み込む。代わりの返事として私は軽く背伸びをし、顎を上向け、瞳を閉じる。背伸びで不安定な分は、タナッセの胸板に両手を当てることで代理とした。
 そうしてから吐かれた重たげな嘆息に肩がすくんだが、すぐに後頭部と背に腕が周り、顔に近づく何かを覚える。唇に、優しい感触が降りてきた。感触は、離れては触れるを繰り返す。初めは撫でるような淡さだったものが、段々重ねるという語に相応しい強さに変わっていく。押しつけられていると錯覚するほどまでぴったりと重ね合わされたあとは、もう離されることはなかった。
 どれくらい口づけし合っていたのか。気付くと私の足裏全体は床上に戻っていたし、タナッセの腕も背に回された方はそのままだったが後頭部を支えてくれていた方は私の頬を包んでいる。
「わ、……分かった、か」
 耳まで朱色のタナッセが顔全体を壁に向けながら問う。私も頬に熱を上らせながら、自分自身気持ち悪いぐらいのしおらしい抑揚で、とてもよく分かったと肯いた。
 互いに二の句を告げられず、音だけを唇の隙間から零すだけの時間が過ぎていく。先に口火を切ったのは私だった。感謝を伝えていないと慌てたためだ。感謝――ありがとうと言うべきはたくさんある。食事を共にする我儘を聞き届けてもらえた。口づけもたっぷりしてもらえた。
 そして、私なんかを好きになってくれて、本当にありがとう、と。
 田舎者だわ態度悪いわ彼の劣等感を刺激する印持ちだわ、あの日の告白はタナッセにけちょんけちょんにされても文句は言えなかったのに、同じ想いを返してもらえた。友人としてなら今まで通りでも、とか、生殺しの返答だって覚悟していたのだ。友情だけでなくなってしまった相手とただの友人として付き合っていくことは、私にはとうてい無理。本当に、本当に、上手い言い方なんてまるきり思いつかないぐらいに嬉しくてたまらない。
 タナッセは目を見開いて固まってしまった。何故だろう。
 全くもう、と私は彼を促した。頬を包む手を撫でるように触れ、部屋まで送っていってくれるのだろう、行こう、と。くすぐったいらしく彼はどもりながらやめろ莫迦と動き出した。
 こうして半歩先を行くことが多い関係もいいけれど、いつかは彼から手を引かれたいなと思いながら、帰り道を行く。
 タナッセに恋心を抱いて気付いたが、私は結構甘ったれみたいなのだ。だから、ちょっとエスコートされるぐらいが気持ちいい気がしている。
 でも、彼の父クレッセへの訪問の同行を頼まれた時だって、今思い返せば幸せだったのだから、あまりべったりは良くない。甘やかされて、でも時々は、我慢強い彼が甘えられる私になるのだ。
 だから今は、隣を行く彼を見上げて微笑んだ。
 もし彼が未成年最後の日、申し込んでくれなくとも。
 私は絶対、彼に結婚を申し込みに行こう。










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タイトル元ネタ:『Rewrite Harvest festa!』OP曲。
しかし何故鉱石類はすぐにすぴ云々になるのでしょう。
石言葉とか、それ自体は好きなのですが。

タナッセは何故試合は帰り見舞いも帰るのか。帰るのか。
そちらはまあ置いておくにせよ、何故主人公は提出しないのか。
とはいえ、宿題提出しない主人公の心情に思いを馳せるのもまた一興かと思ったり。