いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年3月23日土曜日

【かもかてSS】煉獄楽土

【 注 意 】
・ヴァイル憎悪B(反転)後
・主人公女性分化かつ印愛は大体常に運命の人
・反転憎悪とはいえ憎悪ルートには違いないので
 一部嫌な気分になる描写も
・電○文庫程度のおいろけ描写あり



煉 獄 楽 土



          *

 静かな夜。
 二人の夜。
 でも、起きているのは私だけ。
 息苦しさに目を覚ました、私だけがこの夜を感じている。
 ちゃんと衣服を纏うヴァイルとは対照的に下着も何もつけていない裸の私は、男性らしく密度の高い彼の身体に強くつよく抱きしめられていた。私を散々愉しんだあと、憎んでいると言った相手なのにヴァイルはいつもいつだってそうする。
 ヴァイルはほとんど毎日、部屋に訪ねてきていた。毎夜、ではない。朝なこと、日中のこと、夜になること。いずれもあった。特に多いのは夜だったけれど、行われる内容はある時期から例外なく一つだけだ。彼の好きなように、私を抱く。痛がっても辛がっても変わらず好きなように。
 けれど数ヶ月前から、違う行為が混ざるようになってきた。数ヶ月前――私が二度目の流産をしてしまってから。彼はごく稀にだが、嬲るように抱かず、部屋の外へ連れ出してくれるようになった。塔の中を二人で歩き回る。中庭まで行く時間はないが、部屋以外の景色をもう碌々見ていない私にとっては塔の中であっても部屋の外であるという一点で大きな価値を持つ。
 どうしてと、私は聞けない。
 ヴァイルを私は酷く傷つけてしまった。
 今ならその理由も分かるのに。だから、忙しい中毎日まいにち時間を割いて来てくれることも、本当は部屋から連れ出してくれる理由も、気付いている。でも、敢えて理由を問いたくて、でも、傷つけた過去を思うと自分が卑怯な気がして。
 静かな寝息を聞かせる彼にすら、言える言葉は多くない。
 分からないのだと名前を呼ぶだけだ。
 子供なんていらないと言っていた癖に。

          *

 珍しいと私は首を傾げる。
 その昼下がりやってきた医士が、ヴァイルの御典医という男性だったからだ。若い御典医はどうも私を嫌っているらしく、成人前から大概な扱いを受けることが多かった。ヴァイルも分かっているのだろう、監禁されて以降も彼は私の担当医ではなかったのだが。
 彼――確かテエロと言ったろうか。テエロは私の医士が調子を崩しているので代わりに来たと言う。お医者様の不養生、という言葉がよぎったが、私は愛想のない彼のことを愛想以外の理由で嫌いだったから、口にはしないで用件を伝える。いつもの先生でないと見て貰う気にならない、出て行け。
 医士は色々言い募ったが主であるヴァイルが部屋に入ってきたので一礼と共に去っていった。去り際に、主へ軽く視線を向けて。……だから嫌い、この男。
 ヴァイルは私の方だけを見て、寝台の上で本を読んでいるこちらへやってくる。いつも通り本を取り上げいつも通り下着なんか着けていないドレスの、品なく大きく開いた襟ぐりに指を這わせる。鎖骨を肩側からくぼみへ。くぼみから胸の谷間へ。そして、お情け程度に覆われている胸の生地を胸下まで一気に下げてしまう。莫迦ばかしいほど大きな剥き出しの二つが反動で跳ねるようにまろび出て、けれど私は隠すものなく、隠す気もなかった。
 感触を楽しむようにつつき、揉みしだき、五指を食い込ませて強制的に形を変えて、肝心には触れない。なのに早くも鼻に掛かった声が出始める。ヴァイルは何か嬉しいことでも起きたように笑う。恥ずかしいけれど、ヴァイルが嬉しそうだから、いい。構わない。
 私も、どんなされ方でも彼と繋がりたい。だから、いい。それにヴァイルは私を抱いている最中なら、言うことを許してくれるのだ。
 大好き。嘘なんかじゃない。愛している。ヴァイルが私を嫌いになっても、これからも、ずっと。何をされても。
 私の身体は朝から少し熱っぽくて、ヴァイルのてのひらをやけに冷たく感じた。哀しくて、少し目を伏せる。気に障ったらしく、左のふくらみが思い切り鷲掴まれた。

          *

 朝、目を覚ますと背中が温かい。
 感じ慣れた心地はヴァイルのものだ。彼は昔、仲が良かった頃はいきなり背に抱きついてくることが多かったが、今もやはり後ろから私を抱くことが多い。こうしてただ抱きしめる時はもちろん、乱暴に身体を押し広げる時も。顔が見えないのも、まるで獣のようなことも、どちらも辛さがあるけれど、思い出しての懐かしさもあるから幸せも覚えてしまう。感情は二つとも真実で、だから苦しくて堪らない。
 ヴァイルの顔が見たかった。でも、今日も私を抱く身体には力が籠もっているから、動いては起こしてしまうだろう。あの時、約束出来ていたらば、きちんと関係が結べていたはずだ。私はどうして、いくつもの詰まらない自身の拘泥へ一人勝手に捕らわれていたのか。
 何をしても湖上の出来事は全て過去。覆らない。ヴァイルは私の言うことを聞いてはくれても聴いてくれない。せめて、私は彼のためにあることにする。そう決めて、だから一度も言ったことはなかった。外に出たいとか、出して欲しいとか。
 初めに私を塔の高みに押し込めたのは彼だけれど、私は強制されてではなく自分から入った気でいるし出る気はないと伝えてもある。リリアノも言っていたが、ヴァイルは私を閉じ込めて満足らしい。なら、彼のためだけの生き物で構わなかった。
 他に出来ることが、今のヴァイルには思いつかなくて。
 ごめんなさい。
 視界が歪んでいると気付いた時、私の身体の前面に回された腕が食い込んでくる。あんた、と声が掛かる。さっきからずっと、何泣いてんの。何、謝ってんの。
 ずっとは泣いていないと思うし、謝ったのは――理由がいくつもあって咄嗟に言葉にならなかった。ただ、ずっと快楽に沈む中でしか言わないでいた一言を伝えてしまう。
 ヴァイルが私を大嫌いでも、どうしても好き。ごめんなさい。
 彼は短く鼻で嗤い、夜着の上から身体をまさぐり出す。今朝のように、いつの間にか寝台に入ってきた時は、したことないのに。
 言わなきゃ良かった。
 けどやっぱり、言葉は喉奥に戻ってはくれない。
 全然学習しないのだから、我ながら呆れ果てる。
 普段なら一度や二度で済む八つ当たりみたいな抱き方は、初めての夜のように何度もなんども繰り返された。初めてと異なり、中がヴァイルの熱を気持ちよいものと感じてくれることは少しの救いだ。
 初めての夜。私はよく覚えている。
 リリアノが監禁された私を訪ねてきた日。その日の夜、足音も荒く入ってきたヴァイルが冷たい声で怒り始め――私の顔を寝台に押しつけると腰を高く上げさせて、おざなりな撫で回しののちに熱いものを押し込んできた。
 かつて私は生理的な涙を流したけれど、今、揺さぶられながら視界を霞ませている涙は決して違う。身体の感覚で溢れているものでは決してない。
 かつてリリアノは言った。ヴァイルは満足そうだと。私もそう感じていたから、ほっとした。僅かでも彼のためになっているのなら良かったと、思って。けれどこんな黒い道を選ばせたのは私に他ならないから生きていることすら苦しくて。
 何を思っても感じても考えても間違いの気が、ずっとずっとしている。

          *

 静かな夜。
 二人の夜。
 でも、起きているのは私だけ。
 息苦しさに目を覚ました、私だけがこの夜を感じている。
 もし私の身体を抱きしめるヴァイルが私を本当の意味で嫌い、憎んでいたなら。あるいは、もし私がヴァイル以外の誰かに好意を抱いていたなら。あの日、彼の御典医が熱を出している私に処方したろう薬を飲み干していただろう。死ぬのか、死にはしないが苦しむのか、全く分からなかったけれど、居る意味など何もないなら追い返したりはしなかった。
 ヴァイルは、喜んだ。
 二度の妊娠のどちらも、口では素っ気なかったが命が宿っている間は何もせず私の身体を優しく抱きしめるだけだったし、夜中にふと目を覚ますとまだ何が感じられるはずもないのにこちらの腹部に耳を当てていた。
 駄目になってしまった時は私を罵倒しながらも、昔、私が約束を断った日や告白した日みたいな揺れる瞳を見せた。
 だから抱きしめて。
 ヴァイルは苛立たしげに振り払いながらもわざと痛めつけるように乾いた場所を奥まで一気に埋めてきたけれど、辛いのは身体だけだから構わなかった。心が痛いのは、ヴァイルだ。きっとそっちの方が、遙かに辛い。
 子供、出来ないだろうか。
 印があってもなくても、ヴァイルが喜んでくれるかは分からない。
 分からないが、私がヴァイルのために出来ることなんてさほどないから、実現可能そうなことぐらいはしてあげたかった。
 湖にはもう行けない。散歩は塔の中を軽くするだけだ。手が届く距離の筈なのに、散歩はヴァイルと出なければ叶わないからあとは足を伸ばすだけなのに、かつてのやり直しは望めない。そもそも今の彼は、以前のように私の姿を認めただけで去りはしないが何かを言っても押し黙ってしまって返事をくれず、ずっと一緒と神に誓うと手を繋いでみようにもふざけるなと踏みにじってくる。
 出来ること、なんにもない。
 私、なんにも出来ない。
 言う気はなかったのに音として零れてしまった。寵愛者は全てに優れるなんて妄言だ。どうしたらヴァイルの傷を癒せるか、何年考えてもなんにもなんにも分かりはしないのに。自業自得に過ぎないのに、私は身動き一つ取れないほど強く抱き込んでくる彼へ、ヴァイルへ、更に一言を呟いてしまう。
 ヴァイルのために私が何を出来るか、全然分からない。
 腕の力が強まった気がする。
 どうせ、錯覚だ。
 こんな言葉を耳にした彼が私を好きなようにしないわけがない。
 本当に静かな夜だ。
 息苦しくて、今にも死んでしまいそうなほど。

          *










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ヴァイル憎悪Bは単品でも
複合(他キャラエンドとの組み合わせ)でもいいよねという話。
「まとめ」ラベルでその他区分のSS(「世界の果て」とか)とか益体もない感じの話は
個人的に好きなのですが、えぇ、なんというか、すみません。
いえ、常に自分の萌えしか発散してない作品ばかりアップしてはいるのですが。