いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年3月10日日曜日

【かもかてSS】花蜜アドゥレセンス

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・魔の15歳ネタあり
 一部割と直截なので、成人向け




花蜜アドゥレセンス



 知識はあった。
 村での大人たちの遣り取りと、篭りの最中の手ほどき、その二つのおかげで。だから舐めてかかっていたのだ、実地経験のなさは心底恐ろしい。私はある朝飛び起きることとなった。
 長引いた篭りを終え、ひと月経った頃だ。思ったほどの忙しさはなく、縁談の類もとんと舞い込まず、なのにタナッセはいやに駆け回っていてゆっくり話す機会も設けられないままだった。それが昨日、中庭で休んでいた彼と偶然会えて色々話せた。ひと月ぶりに口づけもかなった。以前は軽い接触だけだったそれは少しだけ深くなり、未分化の時分に感じた記憶のない感覚を私にもたらした。実際に触れ絡まる場所ではなく、下腹に熱が凝るような、逆に何かが広がるような、捉え所のなさだ。
 そして翌朝、面妖な夢と得も言われぬ不快感を……遠回しに言って下肢に覚え、上半身を跳ね起こした。
「――――!!」
 夢の内容はなんというか、えぇとその、村での大人たちの遣り取りと、篭りの最中の手ほどきと、……暇に飽かして手を伸ばした恋愛小説の三つが混濁した様相で、やはり私はそういう嗜好持ちなのかもしれないと考えさせられる内容だった。微に入り細を穿ち夢の内容を覚えてはいたが詳細は伏せたい。というか恥で死にたい。
 そして下肢の不快感を確認すべく、もう一度布団に潜り込み指をそっと分化で出来た場所に滑らせる。しっとり湿り気を帯びていて、予想通りだと内心うな垂れる。でも、湿り気どころではないという予感があった。盛り上がった二つの肉と奥の薄い二枚を恐るおそる広げてやれば、ぬるつく感触が指を、太ももを、溢れて伝っていく。
 恥で死にたいというか。
 恥で、死ぬ。

          *

 あまりのあんまりさで、私は朝から部屋に引きこもって過ごしていた。篭りで体力を消耗したためか前よりも疲れやすさが増していたものだし、たまには読書で一日を潰すというのも乙なものだと考えたためだ。
 けれど、甘かった。
 私の考えもそうだけれど、何より彼の気にしいっぷりの想定が甘かった。そうだ、あの一件以後知ることになったが、彼は、タナッセは、本当にほんとうに面倒見がいい気遣いの人だったのだ。
 昼食を終えしばらく経ち、読んでいた本の区切りも良く、あぁお昼寝してもいいかななんて寝台に入った時だった。ローニカが婚約者の訪れを知らせてきたのは。あらゆる意味で最悪の状況下。でも、追い返したりなんか出来るはずもない。叶うことならもっと彼と一緒に居たいと常々思っているし、拒絶されたとかなんとかおかしな勘違いで悩まれても嫌だし。
 私を案じる顔で部屋に入ってきたタナッセに、先んじて切り込んでおく。昼寝をしようと思っていただけということ、朝から部屋を出なかったのは読書に一日費やそうと考えたためであること。――結果だけ先に述べるなら、出来なかったが。
 タナッセの、その、心配で寄せられた柳眉に、引き結ばれた柔らかい唇に、緊張に開閉を繰り返す細長い指に。
 一瞬で夢の内容が思い出されてしまって。
 頬が火照っているのがよく分かり、それがまた羞恥を煽った。おかげで口から出たのはどもりながらの名前の呼びかけだ。しかも何度もなんども呼んでしまう。我ながら頭が空っぽに感じられて別の意味でも恥ずかしい。なのにタナッセは呆れもせず、どころか彼も顔を赤くして、椅子でなく寝台に腰掛けた。手が伸びて、額や首筋に触れる。熱はないようだなと彼は上擦る声で言う。てのひらは熱すぎず、ただあたたかい。
 本来なら余計に夢を思い出して慌てそうなものだ。けれど私は妙に落ち着けて、ようやく考えていた内容を伝えるべく口を開いた。だから身体は問題がなく、変な気を遣わせてごめんなさいと頭を下げる。
「い、いや、それならいい。お前に何かあったら……。…………。ああ、これ以上は昼寝の邪魔になるな。すまない、失礼する」
 私は安定を取り戻したのに、彼はよりぎくしゃくとぎこちなさを増していく。最初の名前連呼以外変な行動をとった覚えはないのに。というか、落ち着いてしまったし、だからこんなに早く別れるのは、
「……イヤ」
 もう少しだけでいいから、一緒に居たい。
 けれどタナッセは困ったような表情になる。なら代わりに、と私は瞳と唇を閉じて顔を少し仰向けた。意味するところは明らかだろう。果たして彼は応えてくれた。唇のあたたかさと柔らかさを交わし合うだけの優しい接触が、今は少しだけもどかしい。皮膚の表面が掻痒を感じる。不快も笑いももたらさないのに、掻痒を意識するたび身体の中心に怖気にも痺れにも似た何かが走ってしまう。足らないと、どこかで私は感じている。不足を補いたい気がしている。
 村にいた頃の、篭りで教わった時の。二つの知識が合わさって、理由はよく分かっていた。
 言うのは恥ずかしい。というか無理だ。タナッセは潔癖なところがあると常々感じている。この、どうしようもなく優しいひとに嫌われたら。思考がそこで止まる。
 でも、辛い。
 二律背反が、腕を彼の背に回させる。縋っているようだし、何より彼の行動を拘束しているように感じてしまってしたことは少ない体勢だったが、回して、しかも衣服を握りこんでしまった。皺が出来てしまうだろう。
 唇が離されても、私はそんな縋り付きのままねだっていた。
 もっと。もっといっぱい、もっと深く、たくさんタナッセが欲しい。
 どうしようもない奴だと自嘲しながら、我慢は出来ず。そのくせ明瞭に伝えることも出来やしない。情けないったらなかった。なのにこちらの身体は抱き返され、私は背に固い腕の感触を、胸に自身のものでない鼓動を感じていて。次の瞬間、またタナッセの顔が近づいて来た。
 最初にあったのは湿りながらもざらついた感触。舌だ。唇を湿りがなぞってから、口の中に入ってくる。そうしてようやく唇があたたかみを伝え合った。口内の舌は私の舌を絡め取り、表も裏も関係なく全てを味わうように蠢く。こちらは翻弄されるだけだ。何も出来ないのに、ひたすら心地よくてたまらない。背に回った腕にいっそう力が込められて、それも無性に嬉しかった。
 呼吸のために一旦離れ、もう一度同じようにする。私も今度は稚拙ながらもタナッセがしたように舌を自分から絡めてみたりもした。
 せがんだとおりにしてもらうと、いくらか落ち着いてきた。身体の反応自体は、その、吐息が頬に掠めるだけでも打ち震えてしまうほど過敏になっていたけれど、うん、気持ちとしては。
 お互い荒く浅い息を抱えながら唇は離す。抱き合ったまま、無言でしばらく居る。正しくは、タナッセが力の抜けきった私の身体を支えるように抱きしめてくれている。私は手にさえ力が入らず、弛緩して寝台の上にだらしなく放り出されてあった。
 ……口づけだけなのに。先までしたら頭がおかしくなってしまうんじゃなかろうか、私。
 不安はあるが、先程の酷いおねだりは全く完遂されている。朝同様熱と濡れを覚えていたが、心の中はタナッセで満たされていて、一向に気になどならない。肌は布がこすれるだけで熱を増していくが、気持ちは穏やかですらあった。だから感謝した。タナッセは急に慌てだしてこちらの身体を引っぺがしにかかる。
「たた、確かに婚約者同士ではあるがな、こんなお前……お前……。……私か、私の慎みが不足していた。篭り明けで不安定な相手に……すまない」
 独り合点しない。私はお礼を言ったのに彼は何を言い募っているのか。それに、口づけするとなんとはなしに体調も落ち着く気がするのだ。
 第一、口づけぐらい婚約者同士なら貴族たちだってしているのに、どこをどうひっくり返したら慎みなどと言う言葉が転がり出てくるのだろう。怪訝な顔をすると、タナッセはまた慌てた。反応で言わんとするところは伝わってくる。どうしても男性の方が我慢が難しいとは村でも聞き及んでいたので、納得。
 少し、嬉しかった。
 城で暮らしていれば色んな――本当に様々な噂が真偽すらも混濁させて耳に届くし、罪悪感や憐憫ではないかと不安がゼロなものでもなかったし、こうも激しく求められると払拭されて心が浮き立つのだ。村にいた頃は、タナッセへの感情に気付く前は、恋愛に酔い足取り不確かな人間を浅はかと思っていたのに。慣れないうちは皆、大なり小なり愚かになってしまうのだと身に染みて分かった。
 それだから、謝られると無闇に哀しい。心の底から幸せなのだから、謝ったりするのは厭だ。
 伝えてみると、タナッセは口を何度も空転させる。表情は、真正面から見ているにも関わらず読めない。あらゆる感情の色が複雑に混ざり合って見えた。
 私は混乱が内面を覆っているかもしれない彼が、音でなく言葉を紡ぐのを待つ。
「お前は――私は。ああもう何を言うべきかも定まらん」
 タナッセは頭を左右に振り、「お前は、本当に、莫迦だ。……長じているのか幼いのかまるで分からん。よくここまで莫迦を後生大事に持ったまま生きて来れたな、奇跡の一種か」
 褒められているような気もしたが、貶されている気も存分にした。物心ついた時分には既に可愛げのない父なし子扱いだったので、子供っぽいと言われても思い当たる節がない。謎だと首を傾げると彼は私の身体を引き寄せた。つい先程自分で引きはがしたのに不思議なことだと呆れも覚えたものの、されるがままでいる。いやに力が籠もっていたので、混ぜっ返す思いよりも疑問が勝ったのだ。
 タナッセは吐息を零した。尋ねに対する答えが腹の底からやってきた吐息だった。
「前に、言ったな。なんでもしてやると。守るとも。――だがな、その……それだけではない。約束させてくれ。……私は、お前を幸せにする」
 私は。
 私は、笑いを転がして彼に言う。
 もうずっと幸せだ、と。
 なのにタナッセは更に抱きしめの力を強めた。










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「かみつ」が正しいのですが「はなみつ」で。
どうでもいいですがはちみつと聞くと、某女医ドラマがだな。