いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年3月3日日曜日

【かもかて小ネタ】canta per me

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・そぞろ歩きの話、完全に雰囲気系に振れている




canta per me



 夜、歩く。
 村にいた頃からしていること。
 していたが、城に来てから出来なくなったこと。
 目的はなく、ただ人気のない村を月明かりの下、歩く。
 私は自分がどうしてそんな行為に及んでいたかすら理解し切れていなかった。ただ、明日の仕事が疲労で苦しかろうと、時々はしないといけないそぞろ歩きというだけだ。特段思考は回らない。獣の声が届こうとも静寂に埋もれる村の中を、時には走り、時には踊るように、通る道を決めているわけでもなく、進む。たくさん雨が降った日の夜は肌身をやけに清涼な空気が撫でて心地よかった。
 城へ来て、その警護の厳重さ――衛士の巡回はもちろん、犬を放してあるとか――に一度は諦めたことを、今、私は復活させて、しかも楽しんでいる。

 夜、歩く。
 付き合いのいい傍らの男性は、辺り一帯の領主。
 名前はタナッセ。仲が悪かった始まりを踏み越え結婚に至った私の夫だ。
 私たち二人の後方に距離を保ちつつ付き添う大柄はタナッセの護衛であるモル。
 護衛は私付きの人物に変わることもあったが、大方巨漢の青年が勤めていた。彼がまともに休んでいる姿を見かけることはないし、文字通り無口な彼とは意思疎通も難しい。夫は出来る。少し、嫉妬。自分が狭量で嫉妬深い人間だなどとは、タナッセを好きになってから初めて知ったことだ。
 ……恥ずかしいから今は内緒にしておく。堪えきれないようになったら、鼻で嗤われるのを承知で拗ねてやろうと決めてもいる。

 夜、歩く。
 黒の空の中を行く。
 雲はなく月は真円を見せる。
 その中で、歩ける場所は限られている。
 領地は決して大きくなく、従って邸宅の規模も館と呼んだ方が近しい規模。
 襲撃者の不安は私が印持つ以上捨て切れないし、考えなしにたゆたうわけにはいかない。
 今日は朝から雨が降っていた。それもたくさんの。だから頬や指先はひんやりとした大気の感触をよく味わっている。気分が良くて、意味もなく一回回ってみると、突発行動に慣れっこになってしまったらしいタナッセが隣で甘く苦笑する気配を覚えた。莫迦にする風ではなく、優しい心地。恥ずかしさが堪えきれなくなったので拗ねる。
「熱でも出てきたのではないか? この涼しさで頬が赤いのはおかしい、戻るぞ」
 違うと言うのに。大体最近はもう昔と同じ程度に体力は戻りつつある。
 でも、訂正の機会は与えられなかった。いつもの通り、素早く抱き上げられてしまったからだ。そうされると私が弱いと知ってのタナッセの強引さ。適度に体温を低くしていた肌同士の触れ合う箇所があたたかを帯び、私は黙って彼の首元に頭をこすりつけた。










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タイトルはNOIRのOST1から。
タイトル曲と「Guru」(最終形の方)と
「衰退」の5巻孫ちゃん過去話が混ざった結果。