いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年3月25日月曜日

【かもかて小ネタ】蒼空天使


【 注 意 】
・タナッセ愛情B後
・お手紙書いて



蒼 空 天 使



 私は手紙を書いている。
 誰宛でもなく誰宛でもある手紙だといえば、きっとタナッセは怪訝そうな顔で何を言っているのやらと問うてくるだろう。
 内容自体は気負ったものじゃない。
 毎日が楽しいという、そんな近況報告だ。芯から田舎者である私には難しいことも多い領主の妻としての生活ではあるものの、夫が負担を減らしてくれているのはよく分かるし、弱音は彼が気付いてくれれば構わない。だから書かず、良かったこと、嬉しかったこと、つまりは幸せなことばかりを書くようにしている。
 書き終えて、封をして。
 私は自己満足の自嘲を得ながらも上機嫌を感じ調理場へ行く。食堂ではなくて――立地はさておき狭い領地であるためそもそも城のような立派なものはない――調理場へ、だ。封をした手紙を、機密文書だから燃やすと言えば手ずから火へくべられるから、いつも利用していた。
 両手で差し出すように投げ入れる。
 薄い紙は見る間に茶から黒、黒から塵に変わりゆく。
 立ち上る煙の一部となって、やがては大気に混ざるだけだろうそれを見ながら思うことはただ一つ。
 私は神の国へ行く。彼女はディットン出身だというが大神官ではなく、印持ちを産みはしたがおそらく偉大な功績を持ちあわせてはいないから、あるいは既に別の人。なら、このくらいがちょうどいいのだ。
 どこにも届かない手紙は、破り捨てる半端ではいけない。
 私ですらどんな中身だったかはっきりとは覚えていない手紙は、もう誰にも読めない物になる。
 部屋に戻ろうと振り返る。いつの間にやらタナッセが――えぇと、不安そうな顔で立っていて、もしかして彼はいらない心配をしているのかもしれなかった。
 だから言う。笑みは自然に浮かんでいると思いながら。
 少し、記憶の中の母さんと話をしていたのだ、と。










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タイトルは『空へ…』(笠原弘子)から
基本に立ち戻ろうと思ったんですが、ちょっと違った感じに。