いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2015年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2013年1月21日月曜日

【かもかてSS】印象は白と黒(2/5)

 続き物注意。

1/5【0】~【2】/▼2/5【3】~【4】/▼3/5【5】/▼4/5【/0】/▼5/5後記



【3】~【4】



【 3 】gift/赤

 二度目の、影響下における夢だった。
 時系列としては過去。今日も今日とて村での記憶だ。
 ただ、少しだけ趣が違った。私には今のところ理解が出来ないある男性について焦点が当たった、そんな夢。彼は私より二つ年上で、村長の孫だった。彼――残念ながら名前は覚えていない、彼に限らず村の住人の名は分からない――は、こう、なんというべきか、白眼視か憐憫かに別たれる村において、立ち位置が特殊だと言えたろう。特にどちらでもないのだ。タナッセのように真っ正面から厭味をぶつけてくるかというとまた違う。逆に優しいかというと、それもまた違う。僕はとにかくほとほと困った。
 彼の篭りが明けてすぐ、僕は13だった時の話だ。無事に篭りを終えた彼は、どうやら祖父から贈り物をして貰ったらしく、村の広場で子供達にそれを声高に見せびらかしていた。僕は興味など引かれず、むしろ鬱陶しく感じながら遠巻きに脇を過ぎ行く。しかし哀しいかな、不思議と彼は僕を目敏く見つけるのだ。その時も彼は後ろから追ってきた。名を呼ばれたので振り返ると既に人気はなくなっており、毎度まいど誰かが居ると駄目なんだなと呆れて向かい合う。話の内容は極めて陳腐。ただの自慢話だった。僕があしらうような態度を取ると途端に黙りこくる。昔から変わり映えしない彼に掛ける言葉は最早なく、僕は背を向けた。が、彼は回り込むとこちらの手にご自慢の品物を押しつけ先に走り去っていったのだった。
 万事がこの調子というか、村長の孫である以上他の誰かの前で同じ内容を僕と喋っても咎められないだろうに、何故か人気のない場所で話しかけてくる。この日は特に極まっていたが。自分への贈り物を他者に、それも僕に、私なんかに渡すなんて、篭りで精神面が疲労していたとしか考えつかない。
 そもそも。女性になるとずっと言っていた彼ははて、どうして男性を選んだんだろう。
 ……なんだかよく分からないことばかりだ。

 目覚めと同時に疲労を覚えていた。どうもリリアノ陛下が私へ王候補としての本腰を入れ始めたらしいことも一つあるが、言うまでもなく、オチのない夢を見てしまったのが大きい。やっぱり、あなた宛の手紙が届いているとかタナッセを探し回るとか、無駄な親切心の発露だったと思う。どうせ使い走りを嗤われるだろうと踏んでいたのに感謝されるとは。タナッセがまたよく分からなくなった。糸口もつかめない謎について延々思い巡らすのは不毛だ。
 沈む身体を勢い付けて起こす。さあ、一日を始めよう。
 だが、気合いを入れたのも虚しく、早めの朝食を食べに広間へ行くと、顔を合わせたくない人物と出くわした。回れ右なら間に合わない。人が多い時間帯なら紛れられたものを、奴は、タナッセは端の席から出入り口付近で立ち止まった私の方まで近づいてくる。……あんまり近づかれると、身長差が大きいせいで見上げ気味になってしまい、それがまた腹立たしい。いずれ見下ろしてやりたいところだ――あぁ、えぇと、万が一にも本当に結婚するんなら私が女性を選択するから、うん、無理なのかな。
「おや、何だ。これからは見世物の時間か」
 なんとなく言われそうな内容は想像が付いた、というか分かりやすすぎる。「何か芸の一つでも身につけたのか? ほら、披露してみろ。うまくできたら餌をやるぞ」
 お前から餌は要らないが、片付けないと落ち着いて食事も出来ないのでやってやろう。とは言っても、まさか詩歌の暗誦などでは芸と数えてもらえないだろうし……いや、暗誦はともかく、詩もともかく、歌はありかもしれない。文字も読めない農業従事者達は、作業の合間によく口伝の歌を紡いでいた。それらは洗練された品の良い音楽とはまるで異なる、打楽器中心の素朴な歌い上げだが、逆に、上手くすれば耳慣れぬ面白いものと認識されるだろう。
 必要なのは、思い切り。
 広間中の注目が集まる中、声一つで聞き応えを感じさせる、無謀さだ。
 私は開き直ってお辞儀をする。歌詞を思い出すため視線は微かに下を向くが、片手を胸に当てることで「そういうもの」に見せてしまおう。
 ――果たして、降りたのは沈黙だった。それも広間中の。盛大に外したか、これは。率直に言って全速力で自室へ逃げ帰りたいが、無茶を放り投げてきたタナッセを置いて去るとあとが面倒そうだ。まあ、ひとまず始まりに頭を下げたので終わりも頭を下げる。
「……田舎くさい歌だな」
 早速タナッセの寸評が始まった。先月辺りも、私の読んでいる本にケチをつけた挙句、この世に存在していなさそうな理想の女性像を言い捨て図書室を出て行ったが、どうしてこう、逐一人のやってる内容に首を突っ込んでくるのだろうか。嫌いだ好かないと言うのなら、全く放っておいて欲しい。本当イヤな奴だ。親を引き合いに出した陰口が城中に蔓延しているのは私も耳に届いて知っているし、捻れるのも納得するが、そういう部分は理解しきれない。
 空きっ腹を埋めるのはまだ先になりそうと覚悟した時、騒ぎを聞きつけでもしたのか、ローニカが割り込んできた。居もしない来客をでっち上げることで連れ出してくれる気らしい。これ幸いと私は乗って広間を出ることにした。
「相変わらずタナッセ様はあのような調子ですか?」
 廊下に出て、自室方向へ歩きながら侍従に尋ねられる。
 出会い頭から変わる事なんてない。多分あれは永久不変だ。ローニカは眉をひそめながら続ける。それにしても、まことクレッセ様似でいらっしゃる、と。名前に聞き覚えがある。彼の噂で良く出てくる父親の名――というか、大抵はクレッセ評が先にあって、そこからタナッセを見ている印象を受けたので、よく覚えている。両親が揃っていても変わらないのかと、自然半目になったものだ。
「――リリアノ様には似ても似つかずにおられることです。言われなければ、親子とは誰も思いはしないでしょう」
 ローニカは、クレッセに関しても、リリアノに関しても、噂と寸分違わぬ言い様を取ってタナッセを評価した。おかげで、私は言下に侍従の発言を否定して掛かってしまう。彼はどうにも納得いかない様子で更に否定の語を口にしたが、……私と顔を合わせると、話題を打ち切ってきた。打ち切る必要性を、表情から判じた、ということか。鏡石が手元にないことをここまで困った状況は初めてだ。ローニカの取って付けたような去り際の言葉にも、私は生返事だった。

          *

 今月の御前試合は、参加する気は愚か観覧する気もない。最初は見に行って姿を現すぐらいしようと思っていたが、些か話題になりすぎているのだ。もちろん私が。貴族の。ここで更にタナッセの裏工作が実を結んだ場合を加味すると、目立つ行為は避けたかった。
 さて、では空いてしまった予定をどう埋めようか。贅沢な悩みを抱え歩いていると、ふと訓練所に目が行った。当然人っ子一人いない。――はずが、視界の端で動くものを見つけてしまったので、錯視か曲者か見極めたくなったのだ。そしてそれは、やはりあった。居た。「それ」もこちらに気付いたようで不快と怪訝を混ぜた顔を向けてくる。
「……何だ、何でおまえがいる。御前試合には行かないのか」
 「それ」、まあタナッセなのだが、彼は背に何かを隠すなりいつになく刺々しい語気で私に言う。どうも、居られるだけで相当不都合らしい。厭味らしい厭味もなく、追い立てる言葉だけを繰り返し素っ気なく投げてくる。
 ……そこまでの態度を取られると逆に知りたくなる。取り敢えず私は去ったふりをして遠めの柱に隠れ、そこから様子を伺うことにする。でも、期待通りにはならなかった。彼が持っていたのはただの剣だったし、始めたのは人形への打ち込み。普通の鍛錬だ。実践でどうかはさておき、武器の取り回し自体は私とお仲間に見える。さすがに未分化と男性選択者の差なのか、重み自体に動きを振り回されそうな危なっかしさは感じられず、羨ましい。――あー……最後の感想は余計だった。
「ああー、タナッセ坊ちゃんねえ」
 背後から掛かる突然の声に、自分でも驚くぐらい身を震わせ振り返ると、見知らぬ女性が同じように隠れていた。人なつこそうな、おそらく下働きだろう中年女性だ。訳知りそうな彼女に首を傾げると、
「いつもこの日はあれやってるのよ。人がいっぱいいるの、嫌なんだろうねえ」
 やはり人の好さそうな影のない笑顔で手を振りながら話してくれる。あとにも言葉は続いたが、脳裏をよぎるのは城内で耳に入ってきた、城仕えや貴族達の噂だ。
 ――――あれはどう見ても、惰弱な父似よ。
 ――――手合わせに誘ってみれば、するりと逃げやがる。
 まあその。
 庇う気はないが、巨体の衛士が護衛として付いている以上、タナッセは嗜みとして以上の武芸など習得しなくてもいいはずだ。
 リリアノ陛下やヴァイルという印持ち、学べば学んだだけ吸収出来る上王の教育を受けた二人が居るので、なまじっかな実力では確かに卑近な比較として劣るけれど、大きな手加減があるにせよ私だってほぼ同等に実力で御前試合で優勝可能だった。戦い護ることが本業の彼らと曲がりなりにでも並べたのなら、貴人としては十全だろう。
 噂だ。噂でこれも聞いた。タナッセは分化直後だったとはいえ男性を選んだのに、三つ下で未分化のヴァイルに負けたという。そんなに悔しかったのか。人目を避けて練習するほどに?
 視線の先では険しい顔の彼が居る。当たり前だ。練習ではあるが真剣を用いている。
 刃物は、厭だ。嫌い。大降りの銀色は、万一振りかぶりの際手から抜ければあらぬ方向へ飛んで事故を起こす。だからいつも、私は武術の時間おかしな方向にばかり気を張っている。
 少なくとも、彼の視線は真剣だ。もし、悔しさの発露から来る鍛錬だとしても、私のような逃げ腰の訓練では決してなかった。





【 4 】hidden/黄

 男になるが、だからどうした。
 夢の中で、私は眉をひそめてそう言った。
 やはり村での、母が死ぬより以前の出来事だから、僕と呼称すべきかもしれない。
 村長の孫は男女比率の帳尻合わせでも任されているのか、篭りの少し前に訊いてきた。城へ来てからも性別の選択を貴族達から問われることがあったけれど、やはり男性と答えている。もう、意味のない選択なのに。
 着飾ることが好きなら女性の方がお似合いでは? と振られることもあった。成程彼らの目にはそうやって映るらしいが、私が好きなのは身嗜みに拘ることではなかった。
 村では汚れても破れても問題ないよう、女達も普段は丈夫だけが取り柄の衣服を纏うことが多い。ただ、祭の際は。長い時間を掛けて刺繍が施された、とっておきの肌触り良い、布地のたっぷりした、華やかなものを引っ張り出してくる。母も、少し幼い型だが奥の方から取り出して身につけていた。疲れが顔に滲む彼女も、その時ばかりは美しく見え――僕は母と自分で作った自身の衣装を、少しの不満と共に見下ろすのだった。
 元々、針仕事も好んで行っていた作業だったし、城に来て衣装部屋に入り浸るのもむべなるかな、としか言い様がないのだ
 あぁそれを考えると、一人称の変遷も、結局そうなのか。誰からも距離を取るための、ほとんど誰もが使わずいた「私」の人称。数少ない例外は、母親だったはずだ。古神殿のお膝元に居たという彼女は、選定印についての知識もあったろう。絵物語も数冊所持していたし、読んで貰った記憶もあったし、……正直を言えば、彼女から文字を習ったことだってあったのだ。必要性のなさと忙しさから、すぐにやめてしまったけれど。

 げほ、と。水っぽい咳がどこからか聞こえた。
 音に驚いて目を開けると、何故かタナッセの顔がある。
 ――――うわ言を抜かす前に、まずは自分の顔を湖に映して見てくるがいいさ。そのまま沈んでもらっても、一向に構わないぞ。
 いや、何故か、なんて惚けた考えをしている場合じゃない。今さっき、私は以前奴が口にした発言通り、湖に、地下湖に、突き落とされたんじゃないか。しかも投げやり気分でもがくことさえ諦めたのに、どうして生きている。
「ふん、ようやく気がついたか」
 考えるまでもなかった。タナッセが護衛に引っ張り上げさせたのだ。親切心からではもちろんないだろう。嫌っているから嫌がらせはしたいが、死なれるのは困る、といったところか。
「……それにしてもお前、随分と沈むのが早くはなかったか? まさか、あのまま……」
 ご名答、と言うだけの気力もなくて、肩で息をしながら起き上がる。
「まあ、お前がどう考えようが私には関係のないことだがな」
 全くで。
 ついでに言うと、私もお前が何を考えていようと関係ない。理解不能な婚約の申し出の付帯効果がきちんと出ているのも、全く持って理解出来ない。
 でも、なら、放っておいてくれても良かったんじゃ――待て、それはさすがになしだ。面倒だろうとなんだろうと、生きているならこれからも進んでいかねばならない。自分で自分を腑抜けにするのは愚かな選択だ。感傷的なのは母の夢を見たからか。今過去を振り返っても、死んだ人間が入れ替わる訳じゃない。たとえ私が、本当に当たるはずだったのは棒立ちになってしまった僕だと、徴をさらして神殿で強く思おうと、過去は変わらない。
 けどどうしようか。
 随分と城での評価は高く、好意的でない噂話ですら王候補と目されるぐらいだ。慌てて舞踏会への参加を取り止めたり、王になる気はないとリリアノ陛下に言ってはみたが、どちらもタナッセに首根っこ捕まれた。二重の意味で本気を出しすぎだ馬鹿。
 なら、日々の教育で手を抜くしかない。
 勉強は武術はともかく楽しかった。
 だいぶ、張り合いがない。
 ずぶ濡れの衛士にずぶ濡れの身体を引っ張られて廊下に戻されたあとも、私は少し立ちすくんでいた。
 しかし私は心底嫌われたものだ。

          *

 だから、どうして遭うのか。
 真っ向切って嫌われることに慣れていないから、割合、そう、割合本気で傷つくんだと言うのに。嫌だな、自分を糊塗しきるのも失敗し始めている。なので思わず尋ね返してしまった。
 玉座の間だった。綺麗なものは好きなので、内装を延々眺めるだけの時間を時々設けている。その日は、タナッセとかち合ってしまったけれど。
 何故王を望むかと言われたので、じゃあそっちは何故私と婚約するのか――は直截すぎるから、積極的に私に都合の良い評判を振りまくあなたは、実際王配などでなく王になりたいのではないか、と。案の定、悪意の詰まった視線が私を睨み付けた。我ながら意地の悪い質問だと思うので、当然だ。帰ってきた答えだけが、予想から外れていた。
 散々その意味について考えて、悩んで、困っている間に、今年もあとひと月を残すだけになっていた。










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