いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2012年12月9日日曜日

【かもかてSS】深海のリトルクライ

【 注 意 】
・タナッセと友情育みつつ愛情ルート
・婚約後、主人公愛情反転済み




 スープがこぼれていますよ、とローニカに強い語気で言われて我に帰った。
 私は慌てて匙を置き、深呼吸を一度する。朝からこんな調子だったせいか、ローニカは心配の目を向けてこそすれ、それ以上何も言わずにカップへ水を足して元の位置に戻った。……そうだ、もう夕食を摂る時間なのだ。明日を考えてまた意識を沈めそうになる自分のため、私は一気に水を飲み干した。
 週末には来週の予定を立てる、というのがずっとやってきたことで。予定を立てた私は現状を知るよしもなかったのだから仕方ないことで。だから筋違いにも程があるのだが、しかし、それでも尚、自分に文句の一つでも言ってやりたかった。直後に驚くような意識の変革が訪れるのだ、と。
 なんとか、としか形容し得ない惨状で夕食を食べ終えた私は、予習もさしてはかどらず、机の上に突っ伏した。
 無理だ。不可能だ。明日から中日まで、タナッセと、一緒に、勉強。全ての教科ではないが、だから何だというのか。ある時期からずっと行っていたことなのだから、まさか唐突に明日から協力はいらないなど口に出来るはずもない。そもそも彼は言葉の裏を考え込んだ挙句明後日に解釈して一人傷つきかねない性格のような気が、ここ最近の会話でし始めている。第一彼の書いた詩歌がかなり繊細すぎる。
 全くどうして、普通に喋っている分にはあれ程賢く聡いくせして、妙なところで私には理解が難しい独り合点をするのか。かなり以前から謎の文言を吐く奴だなと思ってはいたが。……とにかく、だから、断りを入れるという選択肢はなしだ。
 まあそれはつまり、タナッセと一緒に勉強、するしかないって話なのだけれども。
 婚約なんか、奴の……彼の動向の不明瞭な部分が気に掛かったからしただけなのだけれども。

          *

 それがさて、どうしてこんな状況になったのだろうか。
「起きたな。状況は呑み込んでいるか?」
 あなたが莫迦をして私も莫迦をしたという状況なら。
 いや――頭の片隅で考えてはいたのだ。浮かれた私の心に冷や水がぶちまけられた週の中日。あの時から。
 ともかく今、私は動けないよう縛り上げられて埃臭い床の空気を肺腑に出し入れしながら、タナッセの姿を見詰めていた。誰に向けるのかも皆目見当の付かないため息を深くふかく吐き出したかった。でも、やめる。今口から出すべきは、感情を乗せた息ではなく、どう考えても……どう転んでも、それこそ印の引きはがしが成功したって、彼にとっての大きな後悔にしかならないだろうと訴えることだ。もちろん、予想通り皮肉混じりに切り捨てられたが。
 手首足首、どちらも縄抜け出来るような隙がない。縛ったのは護衛のモルだろう。武術の教師に護身出来るような術を録に学べなかったのが非情に辛いが、まさかヴァイルの一件を経て尚城内でこんな事態が起きるなどあってはならなかったのだ。致し方ないとしか言えない。タナッセの言葉を聞きながら逃げ道を考える。
「準備が出来た様子だ」
 無情にも、時間切れを知らせる宣告が耳に痛く響いた。

          *

 ……だから、どうしてこんな状況になっているのだろうか。
 ここ最近の展開はどうにも落差があり過ぎて、正直に言うとまるきり付いていけない。感情を振り回されている。しかし今、私を見下ろしていたタナッセは寝台上の私と視線を合わせて、更に付け加えれば、やはり私などより一層の混迷を極めた言動でどうにかこうにか言葉を紡いでいた。
 どんな経緯だったかは靄がかった記憶の彼方だが、あのまま魔術師の行っていた儀式とやらを遂行されていたら確実に死んだはずが、生きている。魔術師が不思議の業を中断した、ということは、タナッセが口を挟んだ、としか考えられない。
 が、彼の話す内容はとっちらかっていた。恐慌状態一歩手前、というのも度の過ぎた表現ではないように感じる。ディレマトイとしてなら雄弁に何もかもを語るというのに、半端を責めたいのか気遣いをしたいのか自暴自棄になっているのか、
「私の弱さに、お前を巻き込んでしまった。……すまなかった」
 謝りたいのか。
 全部正しいということに決めて、私は深くふかく息を吸い込んだ。
 そちらが態度を一つに定めていられなくとも、こちらの気持ちは最早二律背反に悩んでいないのだから、言うべきを言ってしまおう。言葉通り、今すぐにでも出奔してしまいかねない。勘違いを誘発する言い回しも駄目だ。だから率直に言う。率直に、そして友情かなどとたわけた発言を返されないように、言う。言おう。
 そうして私はタナッセに自分の思いを一言伝えた。迷う気持ちを閉じ込めて、自分で自分の背を押し出して、気持ちの上では一気呵成に。残念ながら何日も寝込んだ私の喉や腹筋はまるで力が入らず、現実にはかすれて絞り出すようなものになった。
 果たして返ってきたのは。彼の答えは、ありったけの不理解を込めた叫びの後の、
「何でも……」
 顔を赤くした、「……何でも、してやる」
 …………自分で言い出しておいてなんだけれども。
 言えればいいと玉砕覚悟で、徒手空拳の出奔を唐突な告白でどこかに押しやれないかと計算した節も大きいのだが、タナッセから思った以上の何かが返ってきてしまった。彼は最後のとてつもない宣言のあと、すぐ出て行ってしまった。けれど私は寝台から降り――目眩と共にうずくまった。
 ……取り敢えず、もうしばらくは休もう。でも、体調が戻ったら。
 戻ったら、そう、改めて、もう一度、気持ちを伝えよう。きちんと彼からも言って貰おう。はっきり言って貰わなければ、私だってそんな、何でもだなんてそんなこと、信じられやしない。






 深 海 の リ ト ル ク ラ イ









 
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タイトルはsasakure.UKの楽曲から。
タナッセは基本どの教科でも「一緒に訓練」してくれる
面倒見良しかつ安定してどの能力値もある程度持ってるキャラですが、
武勇辺りはやはり基本は口出しなんでしょうな。